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幼なじみのさくらと蓮加と後輩の菅原#4【いじわる】

咲:な;なにしてるんですか;;;


休日の人のいないオフィスビルの屋上で

聞き馴染みのある声とともに右手の甲に小さい手が重ねられた。



咲:そんなにぎゅーってしたら痛いですよ;;;

〇:え?

咲:先輩?

〇:菅原?

心配そうな菅原の表情に、自分が右手で左腕を強く掴んでいる事に気づいた。

何やってんだオレは・・・

力を緩めると重なっていた菅原の手も離れる。


〇:ああ・・・別にぼーっとしてただけだから・・・


咲:そー・・・ですか

心配そうな顔と遠慮がちな声。

珍しく神妙な面持ちの菅原と左腕に残る鈍い痛みに少し冷静になる。

大学近くのオフィスビルの屋上。

この場所ではいつも一人だったから、人と話しているのが少し不思議な感覚だ。





咲:今日大学に用があったんですか

〇:いや、無いけど。菅原こそどしたのこんなとこで

咲:私好きなんです

〇:ん?

咲:この場所けっこう好きで、お気に入りなんですよ

〇:ああ・・・

咲:人のいない大学をここから見てると、なんか落ち着くんですよね

・・・・・・

咲:あと高いとこもけっこう好きなんだと思います

〇:そっか・・・オレも好きだよ。なんか落ち着くし

咲:先輩もですか・・・

〇:ああ・・・

一番好きなのは人がいないところなんだが・・・

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

咲:あの・・・大丈夫ですか?

〇:ん?何が?

咲:何がって・・・

〇:別になんともないぞ

咲:そう・・・ですか・・・

・・・・・・

・・・・・・

〇:さっきもボーっとしてただけだし

咲:そうは見えませんでした




いつもより低くてゆっくりめの菅原のトーン。

ずっと散らしていた目線を向けると、真剣な表情でこちらを見ていた。


・・・・・・

・・・・・・

咲:蓮加さんとさくらさんの事ですよね

〇:えっ

驚いたオレを見て安心したように柔らかく微笑む。

咲:やっぱり・・・

咲:分かりますよ・・・

咲:ずっと先輩達の事近くで見てるんですから

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

咲:告白・・・断ってたんですね

〇:え?

咲:すいません、これは前に蓮加さんに聞いちゃいました

咲:だから先輩の考えてる事、というか抱えてる事はなんとなく分かります

〇:そうか・・・蓮加が・・・

中学卒業前に蓮加とさくらの告白を断ってから、その話をする事は一度もなかった。

さすがに無かった事になったと思っていたわけではないが、

自分の気持ちを拒絶した相手と変わらずに接する心中について深く考えた事があっただろうか。

蓮加・・・

さくら・・・

いったいどういう思いでオレと・・・

結局いつも自分の事ばっかりだったんだ、オレは・・・

無意識に左腕を掴もうとする右手を菅原の小さい手が優しく邪魔をする。


咲:私でよかったら話してくれませんか

咲:先輩がずっと一人で抱えてる事



たぶんこの場所、このタイミングで菅原にたまたま会わなければこんな話は誰にもしなかっただろう。

自分が思っているよりずっと大丈夫じゃなかったのかもしれない。

突然現れた後輩の優しさに甘えてしまった。



蓮加もさくらも大事な存在で、昔から幼なじみとしても異性としても好意を持っている事。

告白以降距離をおくべきと思いつつもそれまでと変わらず一緒にいる事。

たまに二人きりの時間を過ごすと、自分の気持ちを再認識してしまう事。

今は告白された当時よりもずっと気持ちが大きくなっている事。


さながら懺悔のようなオレの話を、菅原はただただ聞いてくれた。

〇:ごめんな、こんな話・・・

咲:いえ、話してくれてありがとうございます

そう言ってオレを安心させるように優しく頷く。

なんでオレみたいなやつに優しくしてくれるんだこの後輩は。

菅原に話を聞いてもらってなんとなく気持ちが落ち着く。

そしてあらためて思う。


〇:オレは最低だな・・・

〇:告白してくれた時、蓮加もさくらもたぶんオレの気持ちを受け入れるって決めてくれてた

〇:それなのにオレには・・・選べなかった

左腕に伸びる右手の甲に再び菅原の手が触れる。

咲:選べなかったんじゃなくて、選ばなかったんですよね

〇:一緒だろ・・・

咲:一緒じゃないです

咲:先輩は意地悪だけど・・・

咲:ほんとはすごく優しい人ですから・・・

咲:蓮加さんもさくらさんもそんな事分かってますよ



〇:それでも悪いのはオレだ・・・

〇:2人の事を考えたらきちんと距離を置くべきなのに・・・

咲:誰も悪くないです

・・・・・・

・・・・・・

咲:大事な事だからもう一回言いますね

・・・・・・

・・・・・・

咲:誰も悪くないですよ


咲:蓮加さんもさくらさんも先輩の事が好きで、先輩といたいから一緒にいるんです

咲:先輩もそうなんですよね

咲:だったら一緒にいたっていいんじゃないですか?

〇:いやダメだろ・・・

咲:当人同士が納得してるなら

〇:そういう問題じゃない!そんなの許されるわけないだろ!!

咲:誰かに許してもらいたんですか?先輩は

〇:だからっっ!!!菅原には関係ないだろっ!!

・・・・・・

・・・・・・

咲:・・・そうですね

〇:ごめん・・・今のは・・・

咲:いえ・・・事実ですから・・・・

散々話を聞いてもらった挙句に菅原を傷つけるなんてオレはどこまで・・・


咲:先輩・・・

咲:私は部外者です

咲:先輩達の絆の中に入れるとは思ってません

咲:それでも・・・

・・・・・・

・・・・・・

咲:心配くらいさせてください





目に涙を浮かべながらも視線をぶらさず真っすぐにオレを見る。

なんでそこまで・・・

〇:菅原・・・

咲:教えてください

咲:先輩はどうしたいんですか?

咲:本当に距離を置きたいと思ってるんですか?

咲:それでいいんですか?

咲:それに今からでもお2人のどちらかを選ぶ事はできます

咲:蓮加さんもさくらさんも受け入れてくれると思います


〇:オレは・・・

〇:どちらかなんて選べない。それはこれからも変わらない

〇:だから一緒にいちゃいけないんだ

〇:ルームシェアも終わりにしないといけない

咲:本当にそれでいいんですか?

〇:ああ




咲:分かりました

咲:先輩

咲:だったら、私と付き合ってください



〇:は?

咲:蓮加さんとさくらさんの為にルームシェアをやめたいんですよね

咲:先輩に恋人ができる以外にないんじゃないですか

〇:そんな事・・・・

かつてそんな事を考えていた時期もあったし、菅原の言うとおりかもしれない。

正直何のきっかけも無しに今の状況を変えられるとは思えない。

それでも・・・

オレ達というかオレの問題に菅原を巻き込んでいいわけがない。

咲:あ、大丈夫ですよ

咲:もろもろ終わったらふってもらってかまいませんので・・・



〇:菅原・・・

〇:冗談でもそんな事言わないでくれ

咲:冗談でこんな事言いません!

咲:私だって何かしたいんですっ!!

菅原の勢いにあてられて後ずさる。

〇:と、とにかくそんなのは却下だ


咲:私じゃダメですか?

〇:ダメとかそういう事じゃなくって

咲:ダメじゃないなら私の事好きになってください!!

〇:菅原;;落ち着け;;;

まったく引かないどころかどんどん距離を縮めてくる菅原にたじろぐ。

咲:先輩・・・・




!!!

スマホの通知がなってはっとする菅原。

ようやくオレとの距離の近さに気づいたらしい。

咲:す;すいません。私///

〇:いや、まあ・・・大丈夫だ///



〇:スマホなってたぞ

咲:あっ、はい;;;;


いったい何だったんだ。今のは・・・

スマホがならなかったどうなってしまっていたんだろうか・・・


咲:えっ、えぇえええーーーー

〇:ん?

咲:先輩どうしましょ、事件です

咲:蓮加さんのお家にお呼ばれしちゃいました

〇:ほう・・・蓮加の家

咲:蓮加さんに誘っていただけるなんてめちゃくちゃ嬉しいですけど

咲:本当に行っていいんでしょうか・・・

咲:ええぇ;;;

ルームシェアとなるとなかなか知人を家に呼ぶ事もないし、実際今の部屋には3人以外誰も入った事がない。

〇:まあ、オレはかまわないぞ

咲:あぁ!!!そうだ。先輩もさくらさんもいるって事じゃないですか!!

〇:そらそうだろ、マジで忘れてたんだな

咲:どどど、どーしましょ

咲:蓮加さんだけでも緊張するのにさくらさんまでいるなんで;;

だからオレもいるんだが・・・



今度はオレのスマホの通知がなる。

蓮加からだ。


〇:おっ、来週菅原が家に来るのは決定事項らしいぞ

咲:ええっ!!

〇:菅原が来るから食べたいもん聞いといて、そして作ってだと。蓮加から

咲:えぇっ、蓮加さん優しすぎる

そこか?作るのはオレなんだが・・・・

咲:っていうか先輩料理できるんですか?

〇:まあ、菅原よりはできると思うぞ

咲:むぅうー-、なんですぐそーいう意地悪言うんですか

口を膨らませて肩をツンツン突いてくる。





〇:ふっ;;

咲:なんですかっ

〇:いやいや、なんでも

咲:なんでもの顔してないですっ!!

お気に入りの心地いい場所でツンツンが止まらなくなる。

〇:悪い悪い;;で?何食べたい?

咲:えっ、なんでもいいんですか?

〇:まあ、作れるもんなら

咲:うーん、そう言われると悩んじゃいます

咲:うぅーん・・

咲:うぅぅーーん・・・


何を食べたいかで真剣に考えこむ菅原を見てると、ふつふつと湧き上がるものがある。


〇:20秒以内な

咲:えっ;ええ;;待ってください;;;

〇:20・・19・・・

咲:えっとえっと;;;

〇:18・・7・・6・・

咲:えっ、ず;ずるい;;;;

〇:5・・4・・3・・2・・

咲:じゃ、じゃあ酢豚でっ!!
〇:おっけー、カレーだな!!

咲:もぉおおおおぉぉっっっ!!

止まらないツンツン攻撃にまた口角が上がってしまう。

咲:先輩ってほんっっっとに意地悪ですね

〇:ははは、ごめんごめん;;;

いつもの菅原だ。



〇:なあ菅原

咲:もぉ・・・今度はなんですか?



仏頂面の後輩に素直に感謝を伝えてみる。


〇:ありがとな。話聞いてくれて

咲:えっ;;;いえ;;;

〇:助かったよ

咲:えぇえ;;;えっと;;;

咲:ちょっとでも先輩の役に立てたなら

咲:・・・よかったです//////


【続く】



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