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同期の与田#5【そういう生き物】

うきゃぁぁぁっ!!

浴室から同期の悲鳴が聞こえて慌てて駆け寄る。


〇:与田!?

与:うぅぅ・・・○○ー

〇:開けるぞっ;;

緊急事態なので声をかけて脱衣所の扉を開けた。


〇:どした、大丈夫か?

与:ごめぇーん、メイク落とし落としたぁー--

〇:は?

与:落として蓋はずれて、どぷって出ちゃったのぉ

はあぁ、何かと思えば////


〇:別にそんなの気にすんな

与:だってこんなに減っちゃったぁー。どぷってぇー

擦りガラスに肌色が寄ってくる。

〇:わわ;;分かった分かった。大丈夫だから;;;

同期の全身フォルムをしっかり感じてしまって慌てて脱衣所を後にした。





与:・・・お風呂いただきました

いつもは風呂から出てくると大抵テンションが高いのに、今日はしゅんとしている

与:ごめん。妹さんのやつ使わせてもらったのに

〇:いや、妹が自分で用意したもんじゃないから

与:次来る時買ってきます

〇:いいって、ほんとに。気にすんな

与:うん・・・

与:今日ダメダメだなぁ、私




いつものように仕事終わりにオレの部屋で家呑みをしていた。

仕事で後輩の失敗を事前に防げなかったと、与田にしては珍しく終始落ち込んでいた。

話を聞く限り与田が確認をするタイミングがなかったので、仕方のない状況だった。

幸い与田の必死のフォローで大事になる前になんとかなったらしい。

一通り吐き出せば落ち着くだろうと思って聞き役に徹していたんだが、なかなかいつもの調子には戻らない。

気分転換の為に風呂をすすめた結果、さらに落ち込むことになってしまった。




与:はあぁぁ・・・

低いテンションのまま、また酒に手を伸ばそうとする。

〇:今日はもう酒やめとけ

与:まだ呑む

・・・・・・

与:もうちょっと付き合ってよ

〇:・・・分かったよ

捨てられた子犬ような悲哀に満ちた目でこっちを見る同期に首を縦に振るしかなかった。



〇:髪乾かさないのか?

与:ああ、うん・・・

いつもはドライヤーでしっかり乾かしてるのに、今はそんな気力もないようだ。



与:先輩って難しいなあ

〇:まあ、そうだな・・・

与:どうしたらちゃんとした先輩になれんだろ

・・・・・・

与:私じゃ無理なんかなあ

・・・・・・




与田がこんなに落ちてるのを見るのを初めてだ。

それだけ後輩の事を真剣に考えて、先輩としての責務を果たそうといつも頑張っているんだろう。


今オレにできるのはこれくらいか・・・


洗面所からドライヤーを持ってきて、与田の背後に立つ。


与:え?

〇:頭、触るぞ

返事を聞く前にうなだれている与田の髪を乾かし始める。

熱風をあてて水気を払う為に指を立てるときゅっと肩が上がる。

許可も取らず触れるのは、まずかったかとも思ったが。

すぐにストンと落ちた両肩を見てセーフだと断定し、自己満足の奉仕を続ける。

首がグラングランと揺れる感じで、徐々に力が抜けていっているの感じる。

リラックスしているって事でいいのか?

ちょっとでも与田が元気になってくれればいいんだが

それにしても・・・

触れていると与田の身体の小ささをよりリアルに感じる。



〇:与田って頭も小っちゃいんだな

与:え?なんか言った?

〇:いや・・・



なんだか子犬をワシワシ撫でているような気分になって、癒されている自分に気づく。

与田に元気になってほしいのに、オレが癒されてどうするんだと思いつつ、

ドライヤーから熱風がでている間は与田に触れていられるので、熱を当てすぎないように気をつけながら乾いた髪を乾かし続ける。

それでもさすがに限界はあるので、さすがにここまでかと思いスイッチを切ると与田から声が漏れる。


与:あっ;;

〇:ん?

与:あっ・・・・えっと・・・

〇:すまん、熱かったか?

与:そーじゃなくって;;;

・・・・・・

・・・・・・

与:・・・もうちょっと乾かして///


恥ずかしそうにそんなことを言うので・・・

〇:ああ///

こっちまで恥ずかしくなる。

さっきより弱い風を静かに当てながら、乾いた髪に手を伸ばした。



与:ありがと・・・

名残惜しそうに言う与田の言葉を受けて、ドライヤーのスイッチを切る。

少しは落ち着いただろうかと思いながら、先程までずっと考えていた事を伝える為に与田の正面に座りなおす。


〇:あのさ・・・

〇:与田はちゃんと先輩できてると思うぞ

・・・・・・

・・・・・・

与:全然できてないよ

〇:それは与田が決める事じゃないんじゃないか?


同期のオレの言葉がどれだけ刺さるか分からないが、

この小さい身体にのしかかえるモノを少しでも軽くしたくて、さっきまで我慢していた与田への想いを紡ぐ。


〇:オレは与田が真剣に後輩の事考えて頑張ってるの知ってるし

〇:そういうのは後輩にもちゃんと伝わってると思うぞ

与:・・・助けられなかったんだよ

〇:でもすぐにフォローできたんだろ?

与:そーだけど・・・


〇:先輩の役目って失敗させない事じゃないんじゃないか?

〇:失敗しないと分からない事も多いし、成長するきっかけになるし

与:・・・うん

〇:失敗した時に、何をどうするか。その後どうやって再発防止するかを教えることも大事だろ?

与:・・・うん

〇:だから与田はちゃんと先輩やれてるよ


〇:今日だって大事になる前にリカバーできたんだし、いい経験だったって思えばいいんじゃないか?

与:そっか・・・・

ずっと伏せていた顔を上げてオレの顔をじっと見つめる。

〇:どした?

与:・・・〇〇ってたまにいいこと言うね

〇:何言ってんだ。オレはいつもいい事言うぞ

与:っふふ、何それ

与:でも・・・そーだよね、失敗も経験だよね

〇:ああ、そーだな


与:ごめんね、今日ずっと弱音ばっか吐いて

与: ○○優しいからつい甘えちゃって




〇:なあ与田、オレは同期だぞ

〇:弱音くらいいつでも聞いてやる

与:いつでも?

〇:ああ

与:いくらでも?

〇:おう



与:ふっ・・・・ふふふふっ・・・

可笑しい事を言った覚えは一切ないんだが、なんだか笑われているようだ。



与:ありがとね、〇〇が同期でよかった////

〇:なんだよ急に;;;

与:ほんとに思ってるの////

〇:まあ・・・それはお互い様だ////



さっきまでずっと浮かない顔をしていた与田ときちんと目が合って、いつもの柔らかい表情に安心する。


アルコールは十分に摂取済みだったが、気付けばあらためていつもの呑み会をスタートしていた。

与:なんか髪乾かすの上手だった///

〇:上手?

与:なんか慣れてる感じ・・・〇〇って実は彼女いたり・・・しないよね?

〇:いないぞ

与:ほんとに?

くりくりの丸い目で不安そうにそんな事を言ってくる。

はあ・・・

彼女に関しては残念ながら一切いないんだが、

慣れてるってとこには思い当たる節があり過ぎる。


〇:妹だよ;;;泊まりに来た時にめんどくさがって乾かさないから・・・

与:あぁー、そういう感じか。やっぱ○○ってシスコン

〇:ほっとけ

与:ふふふ、でもよかった

〇:なんだよ、よかったって;;;

与:ねえ、私にもまたドライヤーしてくれる////?

〇:は?なんだよそれ

与:ダメなん?

○ :別にいいけど////

与:やったあぁ!

そんな事で嬉しそうにキラキラのガッツポーズを決める与田。

なんなんだいったい;;;



与:そーいえば妹さんってどんくらい泊まりに来るの?

〇:えっ・・・週1だったり2週に1回だったり・・・与田とそんなに変わらんペースだ

与:最近いつ来た?

〇:2日前に来たぞ

与:そーなんだ、会いたかったなー

〇:桜が来るのは、平日だから

与:桜ちゃんっていうんだー、可愛い名前

まさかこんな事から桜の話になるとは



〇:あっ、そーいえばブラジャー今日は忘れんなよ;;;

与:あぁ、忘れてた。〇〇よく覚えてたね

〇:桜と色々あったからな・・・

与:ん?

〇:いや、こっちの話だ・・・




与:ねえねえ、桜ちゃん可愛い?

〇:可愛いぞ////

与:うわあぁ、シスコンまた出たぁぁ

〇:うるさい;;兄とはそういう生き物なんだ//////

与:あはは、〇〇なんか可愛い!

兄バカの自覚はあるので、桜の事を話すのは正直避けたいんだが・・・

与田が楽しそうに笑っている。

それだけでたいていの事には目を瞑れる気がした。



与:写真見せてよ

〇:妹の写真なんてあるわけないだろ、ないない;;;

与:あはは、怪しいぃーー


与:じゃあ写真はいいから今度紹介してね

〇:恋人でもないのに紹介しないだろ;;;

与:えぇぇーー、けち

〇:けちって;;;

与:じゃあ今度私も平日に来ようかなー


これ以上突っ込まれるのは都合が悪いので無理やり話題を変えてみる。

〇:そーいや、そのバッグなんなの。いつも持ってきてないよな;;;

与:あぁっ、忘れてたっ!

苦し紛れの一手はそれなりに有効だったらしい。

四足歩行でバッグのところまで移動して、頭を突っ込んでるような姿勢で柔らかそうなお尻がこちらを向く。

目のやり場に困って目を逸らすと、今日一大きい声をあげる与田。


与:プロジェクタァー!!!


宝箱を開けてアイテムゲットしたみたいに両手で持ち上げる。

いちいち独特なムーブをするやつだ。


〇:へえ、けっこう小さいんだな

そういや先週、一度見てみたいみたいな話もしたっけ。

〇:それ、うちで見れんのか?スクリーンとか

与:ふっふっふっ。天井があるからねっ!!


どや顔の意味が分からないが、まあ楽しそうだ。



与:一緒に見ようと思ってさー。わざわざ持ってきたんだよー


小さい身体を丸めてモゾモゾとセッティングを始める与田を観察する。

ちょこちょこと何度も座り位置を変えてはプロジェクターをのぞき込む。

相変わらず独特なムーブだ。

なんか癖になるんだよな・・・

そういう小動物のようで本当に見ていて飽きないというか・・・

ずっと見ていたくなるというか////


与:よしっ、ベッド寝て!

〇:え、ああぁ

口元の緩みを隠しつつ、ベッドに横になる。

寝ながら見るもんなのか・・・


与:もうちょいそっち行って

〇:ん?

与:ほいっ!

変な掛け声と共にオレの隣にぽふっと小さい身体を寄せる。

〇:はぁっ;;;////

与:なに?

〇:なにって;;;


与:ん?



○:いや、なんでも;;;


まあ、変な事しようってわけじゃないし////

何も問題は無いな////

無理やり自己暗示をかけて、並んで天井を見つめた。


与:映画見よ

〇:今から?絶対途中で寝るだろ

与:寝ない寝ない

〇:ほんとかよ////


天井に映し出される映像は思っていたより鮮明で迫力があった。

風呂上りの同期が放つ強烈な甘い匂いと、

左半身にぴったりくっついている柔らかい存在の迫力にはだいぶ見劣りするが。




【続く】







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