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同期の与田#1 【覚えてない】

いててて

二日酔い特有の頭痛に起こされて、喉の渇きを潤す為にベッドから出る。

うわぁっ!!!

洗面台へ向かういつもの導線に障害物を見つけてギリギリよける。

あっぶねえ・・・

危うくがっつり踏みつけるところだった。


床で寝る同期の顔面を・・・






^^^^^^

5カ月程かけたプロジェクトが無事終了し同期と2人で打ち上げをしていた。

入社4年目にして同期の与田とタッグを組んで、そこそこ重要な仕事を任された。

不安もあったし、実際大変な事も多かったが自分達で全てを決めてその責任をとり、結果を出すという事は貴重な経験だ。

奇天烈な発想に加え、ここぞという時に妙な力を発揮する与田と、優先度の高いタスクを一つ一つこなしていくタイプのオレは意外にもいいコンビだったらしい。

部署内で唯一の同期なので今までも2人で呑みに行く事が無いわけではなかったが大抵は愚痴の言いあいだった。

今回はそんな事はなく、互いの労を労い、称えあい、褒めあう。

言葉を吐き出すではなく、言葉が湧き出る。

そういう初めての呑み会で、味わった事の無い高揚感があった。

それは与田も同じだったのかもしれない。

割と早い時間の開催にも関わらず気づけば時間が溶けていた。

終電はとっくに終わっていてタクシーで帰ろうって話をしてたんだが、お互いにまだまだ話足りない状態ではあった。

それでも店先にずっと居座るわけにもいかない。



与:〇〇の家で続きしない?

〇:まじ?

与:お互いおひとり様だし、いいやん

〇:まあ、そーだけど・・・

与:なんか見られたくないものでもあんの?

〇:いや、そーいうんじゃなくて。家ってなんかまずくないか?

与:別にいいやん、同期なんだし

〇:まあ、オレはいいけどさ・・・




^^^^^^

そこまでは覚えている。

逆に言うとそれ以降が大分曖昧だ。


テーブルにぎりぎり乗っかっている量の残骸から家でも呑み会の続きがそれなりの時間行われていた事は分かる。

酔った勢いでなにがしかの過ちであったのではと一瞬考えたが、

もしあったとすればつがいの片方だけ床で寝るという事にはならないだろう。

服も着てるし・・・

という事でセーフと断定する。

とはいえ自分はベッドで、客人女性を床で寝かしてしまった事にそれなりの罪悪感を覚える感覚は持ち合わせている。

まあ、与田だし・・・起こすのもアレだな・・・

朝食でも作ってチャラって事にしてもらうか・・・・

そんな事を考えつつ全身に纏った酒気を払うために浴室に向かった。




ー-----

与:んぅぅ-、お母さん?

〇:実家じゃないぞ、オレんちだ

与:あれ、〇〇どしたの?

〇:どしたのって;;;

〇:昨日の事覚えてないのか?

我ながらどの口が言ってるんだと思うが・・・



与:んー?

与:あー、閉店まで呑んでて

与:もっと話したいなーって思って

与:あ、そっか。その後お邪魔して続きしたんだっけ

どうやらここにいる理由は思い出したようだ。


〇:客人を床で寝かせてすまん

与:全然、私が急にお邪魔したんだし

〇:二日酔い大丈夫か?

与:あ、うんまあぁ

〇:とりあえず水

与:お、ありがと

上半身だけ起こして勢いよくごきゅごきゅとのどを鳴らす姿は、さながらハムスターのようだ。



〇:朝飯作ってるけど食えるか?

与:おぉ、いい匂いすると思った。いいの?

〇:おう

与:いただきます

立ち上がって洋服を整えつつ言う。

与:あー、メイクとかそのままやー

与:うぅ;なんかベタベタするぅ。私なんかこぼしてた?

〇:あぁー、どうだったかな・・・

・・・・・・

うーん、このままメシっていう感じでもないか・・・


〇:与田今日なんか予定あんの?

与:ん?なんもないけど

〇:じゃあシャワーとか使う?

与:いいの?

〇:オレは全然かまわないぞ

与:あぁ、でも;;;;

〇:メイク落としとか化粧水とか一応あるぞ

与:へ、なんで?

〇:まあ、女子はそういうのあるだろ。コスメと新品の下着もあるぞ。下着はコンビニのだけど

与:え、彼女いないって言ってたよね

〇:いないぞ

与:じゃあ、元カノの忘れ物?

〇:いや、そうじゃなくって

与:こわっ;;;〇〇って実はそういう感じ?

〇:違う違う;;;

急に警戒心たっぷりの顔で睨んでくる与田に説明する。


〇:妹がさ・・・ふらっと泊まらせろって来るんだよ

与:あー、妹さん。大学生だっけ

〇:そんで、その度にあれが無いこれが無いって言うから。一式常備してるってだけ

〇:ホテルのアメニティみたいなやつで、そんな大層なもんじゃないし、妹のってわけでもない

〇:まあ、部屋着はオレのしかないけど

与:なるほど

〇:だから与田が気になんなければ使ってくれていいんだけど

与:〇〇ってシスコン?

〇:ほぉ、朝飯いらないんだな

与:嘘です、ごめんなさい!!優しいなーって思っただけです

大げさに顔の前で手を合わせる様に笑ってしまう。

まったく・・・

与:えっと、そういう事ならお言葉に甘える

〇:そか



与:それにしても〇〇の部屋って綺麗だねー

一晩明かした後に初見みたいな感想を言ってくる。

与田も昨日の事はあまり覚えてないんだろう。

〇:与田の部屋よりは片付いてるだろうな

与:おいっ

そんなやりとりをしながら、起き抜けの同期を浴室に案内する。

与:ありがとね、〇〇

〇:おう、ゆっくりでいいぞ


シャワーの音を聞きながら、2人分の朝食を作る事は度々あった。

違うのはシャワーを使っているのが妹ではなく、同期という事だ。

こんなシチュエーションもあるんだなあと可笑しくなってしまう。






与:お風呂いただきましたー

休日に自分の家の浴室から出てくる同期。

〇:さすがにオレのじゃでかいな

与:あ、でもダル着みたいでいい感じ

オレの洗濯済みの部屋着で余り過ぎている袖をブンブンふって楽しそうだ。

ダル着というより着ぐるみのレベルだな。

〇:まあ、与田がいいならいいけど

〇:あ、ヘアバンドとか使うか?使い捨てみたいなやつならあるけど

与:ありがと、〇〇めっちゃ優しい


あまりにも無防備な顔でそんな事を言われて途端に恥ずかしくなる。


〇:いや;;;妹がいつもしてるから;;;

〇:なんか足りないもんとか無かったか?

与:あー、ブラがちょっときついくらい//////

〇:お;;そか;;;

〇:えっとじゃあ;;;

いや、これ以上つっこむのはやめておこう。

わざわざ言うって事はそれなり大変な状況なんだと思うけど///////





与:わあ、めっちゃ朝ごはん

〇:普通ですまん

白米、味噌汁、卵焼き、漬物、海苔、納豆。

ありふれた2人分の朝食を並べる。

与:めっちゃいい!!旅館みたい!!

〇:そんな大層なもんじゃないけどな

与:いっただきまーす

〇:子供か

幼稚園児みたいないただきますをする同期が面白くしょうがない。


与:うまぁ

・・・・・・

与:うんうん

・・・・・・

与:しあわせぇ

・・・・・・

ずいぶん美味そうに食うなあ。

気付いたらただただ目が離せなくなっていた。

これはずーっと見てしまうな・・・

与田のもぐもぐには癒し効果でもあるんだろうか・・・

実家で買っていたハムスターの食事を思い出しつつ、そんな事を考えていた。




与:ごちそうさまー。すっごい美味しかった!!めっちゃよかった

〇:はは、よかったよ。ごく普通の朝食だけどな

与:ほんっと、最高だったぁー

ありふれた朝食がなんだか気に入ったらしい。

こんだけ喜んでもらえると、作った甲斐があるってもんだ。

〇:逆に与田って普段朝なに食べてんの?

与:馬刺しとかグレープフルーツとか

〇:ほお・・・

トリッキーなやつだ。

与:〇〇のご飯また食べたいなー

〇:まあ、次があったら魚でも焼くぞ

与:えぇ!!めっちゃ楽しみ




洗い物ぐらいさせてください!お願いします!!

朝食後によく分からないお願いをされて、自分の家で同期が洗い物をするという稀有なシチュエーションを体験する事になった。

意外と義理堅いやつだ。



与:それにしても昨日は呑んだねー

〇:ああ、休み前だからってやりすぎたな

与:ごめんね、急にお邪魔して、泊って、朝ごはんまで

〇:いや、まあ;;;たまにはいいんじゃないか?オレは楽しかったぞ///////

与:〇〇もっ?


ぐいっと身を乗り出して素直に嬉しそうな反応をしてくれる与田に本音が漏れる。

〇:ああ・・・・正直最後の方あんまり覚えてないんだけど・・・

〇:話したりないなっていうのは覚えてて・・・

〇:時間が足りないっていうか溶けるというか・・・

〇:ずっといい時間だったなって///////

言った後にさすがに茶化されるぞと思って、顔をあげると心底嬉しそうにオレを見ていた。

与:そっかぁ//////

〇:お、おう//////

・・・・・・

・・・・・・

与:妹さんが泊まりに来たくなるのもわかるわ

〇:ん?

与:朝ごはん美味しいし・・・〇〇ずっと優しい///////

急な上目遣いでそんな事を言ってくる同期。



えっと///////

・・・・・・

これはどう返したらいいんだ?

・・・・・・

〇:まあ、与田さえ良ければまた来たら?

与:いいの?

〇:え;あぁ;;;

与:じゃあ来週もお邪魔します///////

〇:はぇ?

与:ダメなん?

〇:いや、オレはいいけど・・・



同期と過ごす週末の始まりはこんな感じだった。


【続く】


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