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2009年「月に囚われた男」


ネタバレ含みますのでご注意ください。

公開 2009年
監督 ダンカン・ジョーンズ
公開当時 サム・ロックウェル(41歳)

近未来、ヘリウム3を発掘し地球に送るためルナ社との3年間の契約で月にたった一人滞在するサム。もうすぐ3年の契約を終え地球に帰れる予定だったのだが、自らの体の変調や予期しなかった信じがたい事実と向き合う事になる…

深夜の時間帯にひっそりと放送していたのですが最後まで釘付けで見てしましました。

登場人物はサム・ロックウェル演じるサムのクローン二人とAIロボットのガーティだけ。あとは録画ビデオに映るだけの地球に住むルナ産業の役員と妻のテスと娘のイヴ。

ほぼサム・ロックウェルの一人芝居と言っても良いくらいなのですが、彼の演技力がこの映画を成立させる大きな要素になっていると思います。

AIロボットと言えば「2001年宇宙の旅」のハルのように意地悪で人間に対して敵対心を持っているようなイメージがありますが、この映画に登場するAIロボットのガーティはサムに寄り添い最後まで優しく見守るのです。
ガーティはサムを助ける使命を与えられているとはいえ、結果的にルナ社の意向にそむいてサムを守ろうとするのが感動的です。

「僕が君を守るよ…」

楳図かずおの「私は真悟」の産業用ロボット「真悟」が学習し成長を続けるうちに奇跡的に意識と自我を持ち始めたように、ガーティがサムを守ろうとする意志を持ったのは小さな宇宙基地の中で起こった奇跡なのかもしれませんね。

AIの範疇をはるかに超えた意識を持っているにもかかわらず、単純な絵文字でしか感情を表現できないのも見る者を切なくさせます。

この映画のルナ社は自己都合のため3年で使い捨てるクローンを月での作業に使っていたという設定ですが罪深いことですね。
クローンとはいえ意思のある人間をこの世に生み出すという事はひとつの宇宙を生みだすのと同じ事だと思うのです。
人間は誰しも頭の中に宇宙のように広がる思考をもっているのですから。
地球へ帰ったクローンのサムがクローンの人権をめぐってルナ社を告訴するのも当然と言えますね。
サムは娘と会えたのでしょうか。

最初はお互い反発し合っていたいたサムのクローン二人でしたが、最後には兄弟のように助け合うのも感動的です。
クローンゆえに昔の思い出など同じ記憶を共有しているというのも効果的に使われていますね。

サム・ロックウェルを初めて見たのは「キャメロットガーデンの少女」という映画で、少女と心を通わせる孤独な青年の役を演じていたのですが、目元に独特な憂いと色気があり時折見せる子犬のような表情もキュートで、完全な二枚目ではない二枚目半の感じがいいですね。

独特の存在感があり彼が画面に現れると他の出演者に目が行かなくなります。

クローンの寿命は最初から3年程度に設定されているせいか、終わりが近ずくにつれだんだんと弱っていく様やサムが自分がまぎれもないクローンであると気付いたときの絶望的な表情、自らの存在を全否定されたときの悲しみを見事に演じていますね。
宇宙飛行士らしからぬ肩の力が抜けたラフな感じも良いですね。
彼ほど宇宙服を着こなしている男性がかつていたでしょうか。もはや宇宙服を着崩しているといってもいいかもしれません。これも宇宙服に着られてしまわない彼の存在感のなせる技ですね。

月での基地のなっているサラン号は韓国語でサラン(愛)ですね。
基地内にも随所で韓国語表記があり、ルナ社の役員も東洋人らしき人が映っているので、月の事業はアメリカと韓国の共同出資という設定なのでしょうか。

現在は宇宙には選ばれた人間しか行くことのできない特別な場所ですが、将来的に宇宙旅行が当たり前になってしまったら、この映画のように月での労働は誰もやりたがらない3Kの職業になっているかもしれませんね。

静まり返った月での生活や無機質な宇宙基地、静かな音楽によってサムの孤独と寂しさがひしひしと伝わってきます。
SFサスペンス映画と言えると思いますが、最後の人間的な終わり方といい静かに感動させられてしまいました。
私はこの映画にどんなに壮大なスケールのSF映画よりも広大で神秘的な宇宙の存在を感じるのです。

この映画の監督ダンカン・ジョーンズはデヴィッド・ボウイの息子なのですね。
優れた感性というものは、遺伝するのですね。

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