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2008年「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」

公開 2008年
監督 ベン・スティラー
公開当時 ベン・スティラー42歳 ロバート・ダウニー・jr43歳 ジャック・ブラック38歳 マシュー・マコノヒー38歳 トム・クルーズ46歳

隣人トラブルでかなり落ち込んでいたにも関わらず、サタシネでこの映画を見て思わず「ギャハハ…」と爆笑してしまいました。
好みは別れると思いますが、同じくベン・スティラー主演の「メリーに首ったけ」漫☆画太郎が好きな人ならハマる事間違いなしです。

タブー無し、不謹慎上等なブラックなユーモア満載で、近年の過度なポリコレ的風潮を笑い飛ばす爽快さがあります。

ベトナム戦争を題材にした映画「トロピック・サンダー」を製作していた撮影スタッフは、我儘な俳優たちに悩まされていた。
映画を完成させるため、監督は俳優たちをジャングルに置き去りにし、リアルな演技を引き出そうとするも、なんとそこは麻薬カルテルの縄張りであり本物の戦場だった。

冒頭の出演俳優の紹介を兼ねたニセ映画の予告編からガッツリ掴まれてしまいました。

ベン・スティラー演じるダグ・スピードマンは落ち目のアクション俳優。
「スコーチャー」シリーズで一躍スターになるも、ブームが去った現在は時代遅れのアクションスターとなっている。
氷河期になった世界を救うべく立ち上がったヒーロー「スコーチャー」のセリフ
「冷蔵庫開けっ放しだぞ!」

アクションスターから演技派俳優への転向を図って知的障害を持つ少年の映画「シンプル・ジャック」に主演するも大コケしてしまう。
これはどう見ても「アイアム・サム」を茶化しており、ハリウッドスターあるあるですね。

ロバート・ダウニー・jr演じるカーク・ラザラスはアカデミー賞を5回も受賞している演技派俳優。
過度な役作りは「デニーロ・アプローチ」を茶化している感があります。
「トロピック・サンダー」で黒人の軍曹役を演じるため、全身の皮膚を黒く色素沈着させ役になり切ろうとする。
そもそもこの役になぜ白人の彼をキャスティングしたのか、意味がわからないのです。
ベン・スティラーならではの、ブラックユーモアでしょうね。

話し方も考え方もすべて黒人になりきった彼は「それは差別か!?」「しっかりしろよメ~ン!」
彼はなんとこの役で本物のアカデミー賞助演男優賞にノミネートされています。
人種差別が社会問題になっている現在、このようなキャラクターを演じるのはもはや不可能でしょうね。

トム・クルーズは全身毛むくじゃらでメタボ体形の特殊メイクで鬼畜なプロデューサー、レス・グロスマン演じていましたが、私は最後まで彼がトム・クルーズと気付かず「やられた~!」となってしまいました。
部下に対してもモラハラ上等で「こんな仕事、タマ無しの猿でもできる」
トム・クルーズのイメージとかけ離れた下品なおやじが、耳を覆いたくなるような暴言を吐きまくり、ラストの奇妙なダンス…
私は逆にトム・クルーズの事が好きになってしまいました。

その他、ジャック・ブラック、マシュー・マコノヒーなど演技派俳優が勢ぞろいしており、これだけの俳優を揃えられたベン・スティラーのハリウッドにおける「信頼度の高さ」を感じてしまいます。
コメディは最も役者の力量が試されるジャンルであるため、慎重に演技派俳優をキャスティングしている感があります。
現在では許されないようなギリギリの描写が満載なのですが、最終的には「人間とはこうあるべき」という帰結を迎えています。

ハリウッドで活躍する俳優にとってアカデミー賞とは最高の名誉であり、受賞歴によって出演料が変動したりするようですね。
アカデミー賞から無視され続ける実力派俳優たちの憂さ晴らし、業界ネタを見事に笑いに昇華しています。

初めてベン・スティラーの事を知ったのは1994年、当時大人気だった女優ウィノナ・ライダーと共演の「リアリティ・バイツ」でした。
現在の「Z世代」のように90年代の若者は「ジェネレーションX」と呼ばれており、彼らの青春群像劇だったのですが、これが彼の初監督作だったのですね。ウィノナ・ライダーのファンだった私は劇場に見に行きました。

元々好きな俳優なのですが「ズーランダー」「ドッジボール」「ザ・ロイヤルテネンバウムズ」など、彼の映画をほとんど見ていることに気付きました。
ハリウッドでの信頼度を駆使して、自らが監督する作品には大物スターをカメオ出演させることが多いですね。
「ズーランダー」でも、デヴィット・ボウイやジャスティン・ビーバーなどが登場していました。

本作はベン・スティラー自身が主演、監督、脚本を手掛けています。
自ら監督、主演を務める場合、自分自身が目立ちすぎてしまい客観性に欠けた作品になることが多いイメージですが抑制が効いており、共演の俳優のキャラを見事に立たせています。
笑いのツボをはずさない巧妙な演出といい、彼のプロデュース能力は並外れていると言えます。

ベン・スティラーは2022年に単独でウクライナのゼレンスキー大統領を表敬訪問しています。
映画の中では冴えない三枚目を演じる事が多い印象ですが、実際にはリベラルな社会派であり国連難民支援の親善大使も務めるほどの気骨のある人物なのですね。

この作品は公開当時、北米映画チャート3週連続第1位の大ヒットを記録したそうです。
アメリカ人には細かい元ネタもわかるため、映画館では大爆笑だったのではないでしょうか。

頭を空っぽにして思い切り笑いたい人には、ぜひとも見て欲しい作品です。

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