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森見登美彦氏 『太陽の塔』

森見登美彦氏の小説が好きです。
ファンタジーかつコメディでありながら、京都らしい風情、風流な言葉遣い、、、森見ワールドにどっぷりとハマっております。

森見登美彦氏を初めて知ったのは大学生のとき。
友達みんなで宅飲みをしているときに、ある男の子が、面白いアニメがあるんだと言って観せてくれたのが、『四畳半神話体系』でした。
バラバラだったストーリーが繋がっていく感じとか、硬いのに無駄がなくリズムの良い文章とか。京都の街で繰り広げられる、ハートフルでユーモラスなドラマ。
その全てがドストライクに好きで、以来、森見氏のファンになりました。



↑『太陽の塔』は、2〜3年前に読んだ作品。
作中で、大好きな一節があります。
ちょっと長いけど、引用しますね。

私は色々なことを思い出す。
彼女は太陽の塔を見上げている。鴨川の河原を歩きながら、「ペアルックは厳禁しましょう。もし私がペアルックをしたがったら、殴り倒してでも止めて下さい」と言う。琵琶湖疎水記念館を訪れ、ごうごうと音を立てて流れる疎水を嬉々として眺めている。私の誕生日に「人間臨終図鑑」をくれる。駅のホームで歩行ロボットの真似をして、ふわふわ不思議なステップを踏む。猫舌なので熱いみそ汁に氷を落とす。ドラ焼きを二十個焼いて呆然とする。私が永遠にたどり着けない源氏物語「宇治十帖」を愛読する。コーンスープに御飯をじゃぼんと漬けて食べるのが好きと言う。大好きなマンガの物語を克明に語る。録画した漫才を一緒に見ましょうと言う。何かを言った後に、自分はひどいことを言ってしまったと悲しむ。下鴨神社の納涼古本市に夢中になる。雀の丸焼きを食べて「これで私も雀を食べた女ですね」と言う。よく体調を崩して寝込む。私が差し入れた鰻の肝で蕁麻疹を出し、かえって健康を害する。招き猫と私をぴしゃりと冷たくやっつける。初雪を前髪に積もらせる。「私のどこが好きなんです」と言って私を怒らせる。憂鬱になって途方に暮れる私を前にして、同じように途方に暮れる。私が投げつける苛立たしい言葉を我慢する。夕闇に包まれた鴨川の岸辺を歩く、夜の下鴨神社を歩く、明るい万博公園を歩く。きらきらと瞳を輝かせて、何かを面白そうに見つめている。何かを隠すようにふくふくと笑う。彼女は黙る。彼女は怒る。彼女は泣く。そして彼女は眠る。猫みたいに丸まって、傍らに座る私を置いて、夜ごと太陽の塔の夢を見る。
森見登美彦「太陽の塔」より

物語の終盤で登場するこの一節。
冒頭「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。」から始まって、なんだかんだと理屈をこねていた主人公が、ここに来て初めて、元恋人のことを素直に回想します。

淡々と事実を語るように見られるこの文章。
好きとか可愛いなんてひと言も書いてないのに、不器用な主人公が彼女のことをとてつもなく愛おしく思っていたことが伝わる。彼女のひとつひとつが、好きで、可愛くて、たまらなかった。幸せだった。そんな彼女に今でも執着があることを、ここでやっと認めたような、そんな風に私すのは読みました。

最後の一文なんて最高に好きです。
「猫みたいに丸まって、傍に座る私を置いて、夜ごと太陽の塔の夢を見る」
なんて美しい文章だろう。
まどろみながら夢と現実を行き来する、幻想的なイメージが迫ってきます。
うん。好き。

森見氏の小説は他にもいくつか読んでいて、どれも大好きですが、まだ全部は読めていません。
いつか全制覇して、森見登美彦好きと出会って、語り合いたいと思っています。

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