人生の伏線回収が始まった

二〇二二年は、三十六年の人生の中でもっとも勢いのある年だった。
生後四ヶ月でメキシコに連れてこられた息子が幼稚園デビューし、そこから怒涛の日々が始まった。

あるときは「ワールドカップの対戦国を知ろう」というテーマのもと、メキシコと同じグループリーグのアルゼンチン、サウジアラビア、ポーランド。もしくはカタール、ベルギーのいずれを選んで保護者が生徒にプレゼン、その国の郷土料理を食べてみようというプロジェクトがあった。
むすめのクラスでアルゼンチン、息子のクラスでサウジアラビアを選んだ。
大変だったのはいわずもがなサウジアラビア。
サウジと聞いて私がイメージ出来るのはせいぜいイケメン石油王。
幸運にも中東料理が豊富な地域なので、ウーバーイーツで中東の料理を片っ端から取り寄せて試食。
セサミのクッキーとナッツをパイ生地で包んで、アガベーシロップをかけたお菓子が美味しく園児にもウケが良かった。

お取り寄せしたセサミのクッキー。
PROVECHO "召しあがれ"メッセージ付き


あるときは「世界の国と食べ物を知ろう」というテーマのもとインターナショナルフードフェア展を開催。私のグループは日本を担当した。
日英を話す日本人が二人、スペイン語を話す韓国人が一人、日英スぺ語を話す私の四人グループだった。四人の共通言語が無かったため、打合せは三言語を駆使。
プレゼン資料担当、備品担当、プレゼン担当に分かれて一週間で準備を行った。スペイン語の先生に手伝って貰い、ロケーション、日本国旗、日本食、伝統衣装、日本のアニメとキャラクターの全てをクラスのお父さんお母さん、園児、先生に向けてスペイン語でプレゼン。
浴衣での司会も相まって、華やかなイベントとなった。

あるときはむすめの友人の「ファースト・コミュニオン」のアフターパーティにお呼ばれした。カトリック教徒の宗教儀式で、スペイン語では「プリメラ・コミュニオン」、日本語で「初聖体拝領」と書く。
カトリック教徒にとって大切なイベントに招待して貰うのだから、失礼があってはいけないと、スペイン語の先生に頼んでプリメラ・コミュニオンを知るための授業をお願いした。
迎えた当日、主役の女の子と縁のある子どもと母親が集まり、コース料理を頂いた。
参加者はおおよそ百人。親と子の円卓は別々で知り合いがいたとはいえ、初対面のお母さんと共に十人でテーブルを囲むのはドキドキした。お土産に貰ったロザリオは宝物で、勇気が必要な時にこっそりと鞄に忍ばせ、この日のことを思い出している。

白とピンクの柔らかい会場装飾が可愛かった
まるで結婚式なパーティー会場。
アジア人の参加は私達親子だけだった。


極めつけは今年の夏休み。
息子のクラスメイトで仲良しのメキシコ人と旦那さん、総勢十名を馴染みの日本食レストランへ案内した。
本場の寿司と日本酒を体験してもらい、たくさん食べて、たくさん飲んだ。
英語とスペイン語を織り交ぜて料理の説明をしたり、フロリダのディズニーランドに行った話もした。
全ての会話は理解できなかったけれど、みんながニコニコと楽しそうに過ごす様子は、さながら孫を見つめる祖母のような菩薩顔だったと思う。

これまで眠れない夜もあったし、声を出さずに泣いた夜も数知れない。
人種差別にもあったけれど、全てひっくるめて良い経験だったと思うし、何よりここまで頑張って良かったと心から思う。
この一年、海外生活も語学学習も全てはこの瞬間のためだったと思うような人生の伏線回収の瞬間が何度も訪れた。私はいまメキシコで人生で一番幸せな時間を過ごしています。

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