幽霊になるなら

幽霊が出るのは決まって、不気味な病院や、真っ暗なトンネル、誰もいない学校なんかだ。
僕が幽霊になるなら間違いなくそんな場所は選ばない。怖 い か ら ね 。
小学生の時、玄関から居住スペースのある2階まで繋がる階段が恐ろしく、毎回母親に出迎えにきてもらっていた僕だ。そんないかにもホラーな場所で人と会おうもんなら、おしっこが出ちゃうだろう。

「振り返ってみるとね…、幽霊が立っていた場所に…尿が!!!」なんて言われた日には、恥ずかしくて死んでも死にきれない。

じゃあ僕が死んだら、どこに行きたいんだろう。今住んでいる家は駅から遠いし、何より思い入れがない。そうなるとやっぱ実家がサイコー!なんだけど、それこそ僕には足がない。東京から夜行バスで11時間、加えて車で2時間かけないと到着しない僕の地元。移動のスキマ時間を活用して、成仏することだってできそうだ。
霊的な移動手段ってやっぱ瞬間移動かな。振り返ったらそこにいるって、ホラー映画でよく見た事がある。

でもそれこそ困りそうだ。どこにでも行けると分かると、どこにも行けない。もっといい場所があるんじゃないかって。先日友人達が東京に来た時も、どこで遊ぶのがいいか考えて、結局3日連続でカラオケに行った。

そうなると場所を決めるんじゃなく、誰に会いたいかを考えたほうがいいかもしれない。

じゃあ僕が死んだら、誰に会いたいんだろう。恋人と会って映画になるのもアリだろうし、迷惑をかけた両親に空中で土下座してみるのも楽しそう。
ろくろは上手く扱えないうえに、飼い犬には吠えられそうな気がしてならないけど。
それでも葬式に来てくれた人には、絶対に会いに行きたい。ご本人登場〜って感じで。君、泣いてくれてたよねって抱きしめて、涙の塩で天国へと行く。

というかその前に、大事な人に会うなら身だしなみを整えたい。棺桶の中の僕は綺麗にしてもらうだろうけど、霊としての僕とはもう別物だろう。僕の身体が日本人形みたいな構造でない限り、髪が伸びるとしたら霊としての僕だ。
大抵はそろそろ髪を切りたいと思いながら過ごしているから、死んだその時も切り時である可能性は高い。
髪だけじゃなく、服も運動も、ちゃんとしないと。せっかくなら肌荒れも治しておきたい。

タイムリミットは49日。
そう考えると少し焦ってきた。時間は有限だから、精一杯死なないと。

命日に散髪。「この後どこか行かれるんですか〜?」行けたら天国に行きたいですね〜。
1ヶ月後にまた切りたいから、予約。会員登録するために、故人情報を書かなくては。
服は喪服みたいにならないように、清潔感を意識して白いものを選ぼう。黒はなんか怖いしね。
肌荒れを治すならちゃんと皮膚科に行くのがいいらしい。聴診器を胸に当てられる。これ冷たいから嫌なんだよね。
生前しなかったボランティアとかもやっときたい。どうせ死ぬなら未来に繋いでいきたいから。教室を掃除して回る。うん、良いことするのは気持ちがいい。
ついでに筋トレもしないと。 その辺にあるものを片っ端から持ち上げたら、窓ガラスを割ってしまった。
帰り道は高速道路をウォーキング。誰よりも早く移動できるからこそ、一歩一歩踏みしめて進むのが大事だと思うんだよね。それにしてもこのトンネル、こんなに長かったかなあ?

こうして命日から1ヶ月。毎日忙しくしていたら、散髪の時間を寝過ごしてしまった。こんなボサボサの髪じゃ、誰も僕と気づいてくれないよ!

改めて鏡を見ると、
僕が立っていたはずの場所に、幽霊が立っていた。

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