見出し画像

何でもない日。みんなの12月某日①

 早期退職し実家に戻ってきた。これからは両親のフォローをしながらここでずっと暮らす。僕は独身で、幸いなことに両親は元気だ。老いた両親の為に実家をアップデート。欲しい位置に手すりをつけた。お風呂、トイレをリフォーム。使い勝手のいいように家具を移動したり、冷蔵庫とベッドを買い替えたり、室内の電球をLEDに取り替え、家の外の電灯も増やし、センサー付きのものにした。
 物置の中をチェックし不用品を処分した。人形は引き取ってくれるお寺を探し、供養をお願いした。

 あわただしかったが、年内に諸々終えることが出来て、ほっとしている。
 殺風景だった自分の部屋も自分好みに洒落た感じの壁紙に替えた。

 なんだか、不思議な気持ちだ。実家に戻ってくるなんて思ってもいなかったからだ。人生はどうなるかわからないものだな…。
 物騒な世の中だから、母は僕の帰還を喜んでくれている。多分、父も。
 両親の通院や買い物に車を出したり、町内会の仕事も手伝うつもりだ。

 12月なのに暖かい日、近所を散歩してみた。商店街も寂しくなってしまった。良さそうな食べ物屋さんはあるのだろうか…と探している時、声をかけられた。

「てるくん!」
「え、」
「みきだよ、覚えている?」
「あ〜みきちゃん!」
みきちゃん、、、いたずらっぽい瞳と優しい声はみきちゃんだ。
「すぐわかったよ。変わらないね」
「え、そうかな、、、みきちゃんも変わらないね」
「無理しなくていいよ」
 みきちゃんはくすくす笑う。

「帰ってきたんだってね」
「うん。よく知ってるなぁ」
みきちゃんはふふふと笑う。お互いに髪に白いものが目立ち、年をとったなぁと思う。
「今度しょう君のお店に行こうよ。ゆかちゃんとたまに行くの。美味しいよ。」
と誘われ、連絡先を交換して別れた。

 しょう君って誰だっけ?
 ゆかちゃんは、なんとなくわかる。
 
 思いがけず、みきちゃんと再会した。みきちゃんのことは今でも好きだと思った。僕の大切な友達。

 懐かしい道を歩きながら、家路につく。団子でも買って帰ろうかなぁ。足取りは軽かった。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?