ヤンソン 『たのしいムーミン一家』
ムーミンをとりあげるにあたって、「ムーミンキャラクター診断」なるものにチャレンジしました。
スナフキンと診断され、ちょっと嬉しい。
僕にとっての作品の要点:
出てくるキャラクターは個性豊かで、いきいきしている。冬眠から目覚め、不思議な帽子を見つけたことから、ムーミン一家はいろんな事件にまきこまれる。独特の時間の感覚。
ムーミンをちゃんと読んだことはなかったのですが、意外と難解。
でもそう感じるのは、僕が歴史を感じ取りたいという目的を持って読んでいるからだと思う。ちょっと無理な読み方なのかもしれない。
この本に歴史を感じるかというと、これが、あまり感じない…驚く。
きっと、歴史的な何かを感じとるだろうと一方的に思い込んで読んだのだけれど、実際にはそれは妙にリアルなファンタジーでした。
リアルというのは、出てくる人物に妙にリアリティがあるということです。
皮肉屋、おせっかい、人見知り、社交家など、人間界でおなじみの人格を持った妖精たち。
登場人物は、次から次へと事件に巻き込まれ、とことん翻弄される。たまに問題解決する。
小さな事件から、妙に意味深な発言をしたりする。
そんな読み方をするべきじゃないのだろうけど、出てくる人物や起こる事件が、何かを風刺しているように思えてならない(あとで、作者が風刺画家と知る)。
こどもが自由にお話を連想していくような感じ。ジャズのアドリブを連想させる。そういう意味では、ちょっと『オンザロード』を彷彿とさせる(僕だけ?)。
そう、とても興味深いのは、登場人物たちが、問題にとりくむにあたって、一切、過去を省みることがないのです。これにすごい違和感があった。歴史がまったく機能しない童話。
その場その場で、ナレーターが今起こったことに意義づけをしていく。
思えば、一般的に幼いこどもの自由連想にも、歴史がない。自己の経験にもとづく連想であって、集積された知にもとづく連想ではない。そういう意味で、作者はこどもの世界にスムーズに入り込んでいけるのだと思う。
画家として出発したトーベ・ヤンソンが、児童文学の作家として世に評価された記念すべき作品だとのこと。ムーミンシリーズの第3作にあたる。
作者のトーベ・ヤンソンは1914年、フィンランドに生まれた。その年、第一次世界大戦が勃発する。「人類が経験した最も長い4年4ヶ月」を、彼女は物心つくまえに過ごしたことになる。
青春時代に戦間期を過ごした。風刺画などを書きながら生計をたてていたみたい。
1939年には第二次世界大戦がはじまる。このころ、「ムーミントロール」を主人公とする童話を思いついていたみたいだが、完成は終戦の直後になったようです。
第二次世界大戦の間、6年間あたためられた作品が、ムーミンシリーズ第1作、『小さなトロールと大きな洪水』だった。
48ページの小品で、全体的に、暗い雰囲気だったそうな。
その後、友人のアドバイスを受けながら、ヤンソンはムーミンシリーズを制作し続けた。そうして、1948年に出版され、商業的な成功をおさめたのが、本作。
オフィシャルサイトなどを通じて、初めて知ることばかりでした。今回、なぜムーミンを取り上げたのかというと、僕の妻がムーミン好きだからです。自宅にたまたまあったムーミンシリーズのうち、全く無知だったので印象でこの本を選びました。
作者は、第一次世界大戦がはじまるころに生まれ、冷戦が始まる頃にキャリアを形成していったことになりますね。
児童文学や、こども向けの漫画やアニメーションが世界的に大きな流行になっていく時代(あの有名な『赤い鳥』は、1918年から1936年まで発刊されていました。)、ムーミンはそのキャラクターの愛くるしさで、まず視覚的にファンを獲得したのだろうと思います。やはり、たしかにかわいい。
歴史をかえりみないムーミン谷の妖精たちに、時間感覚がないわけではない。彼らは冬眠するし、スナフキンはその間、旅に出る。一緒にいられる限られた時間を生きる、刹那的な時間感覚は確かに作品に流れている。しかし、過去を語る者がいない。
これは僕の得意の妄想ですが、デビューするまでに二つの世界大戦を生きたヤンソンにとって、戦後すぐにこどもたちに伝えたかったことがそれだったのかもしれません。争いあった過去ではなく、今をとにかく生きること、だったのかもしれない。つぎつぎと起こる事件に穏やかに対処していくキャラクターを見て、そんなことを思う。
聞けば、シリーズ中には、ムーミンパパが過去を語る、という趣旨の作品もあるらしい。これは、興味深い。
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