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こどものための本 感想

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こどものために書かれた本を読んでいきます。
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#歴史

ローズマリー・サトクリフ 『ケルトの白馬』

僕にとってのこの本: 族長の息子。運命、自己犠牲。ルブリンが描く白馬。 サトクリフの作品が本当にすばらしいなと、いつどの作品を読んでも心に響きます。とても歴史を感じます。 何冊か読んでみるとわかることがあるのですが、彼女の作品にはいつも、「運命」、「歴史」、「使命」、「挑戦」、「生きる」、そんなテーマが根底にあるような気がしています。 ときに「共存」や「共生」のような表現もあったりしますが、この描き方が誠実でよいのですね。他者と生きる様子が、べたべたしない。昨今のSDGs

伝説の校長講和

僕にとってのこの本の大事な部分: 知性ある大人が、こどもに語る。完全無欠の教養人が、理想の学校を作る。 渋幕は誰もが知る名門校ですが、その歴史は意外と長くないですね。この本の主人公である田村哲夫氏が、1983年に創立しました。 田村氏はご自身の母校、麻布高校の教育を参考に、「幕張に麻布をつくる」との意思で学校を設立。数々の困難をのりこえ、有名人気高に育て上げました。 氏は、リベラルアーツにこだわりをお持ちです。 しかし、みんな知っているように、日本の受験システムでは、高

ユヴァル・ノア・ハラリ Unstoppable Us

僕の要約: 人類には超能力がある。だから、見ず知らずの他人と協力することができる。 『人類の物語  ヒトはこうして地球の支配者になった 』 というタイトルで、翻訳出版されています。翻訳アプリを使いながら原著で読みました。 著者のハラリ氏は、ヘブライ大学の歴史学の教授。世界史に関する著作が多い人ですね。ベストセラーの『ホモデウス』や『サピエンス全史』で知られています。今回、ハラリ氏がこどものための本を書いた、ということで読んでみました。 印象的な部分、というか本書の最大の

ローズマリ・サトクリフ 『ともしびをかかげて』(上下)

僕にとっての作品:運命は過酷。アクイラはローマの教養を身につけたブリテン島の若きケルト系軍団長。4世紀、衰退を迎えたローマ。サクソン人の侵入に対し、アクイラは任務であるローマの防衛よりも、本能で「故郷」を選ぶ。運命は過酷。教養と文化を離れ、本能と本能がぶつかりあう歴史の中へ。生き抜く。故郷と家族は、同義。 素晴らしい歴史小説でした。サトクリフ氏は児童文学作家として知られ、この本も中学生向けだそうです。しかし、そういったことはどうでもよいほど感動的。大人もこどもも読んで得られ

ニーアル・ファーガソン『文明』

僕にとっての要旨:1500年から、500年間、西洋文明は他地域を圧倒した。その要因は、6つの「キラーアプリケーション」。1 競争 2 科学 3 所有権 4 医学 5 消費 6 労働。西洋が競争によって軍事力を拡大し、アメリカを収奪。その富は所有権で保障された。所有権は法の支配をうみ、法の支配は科学の発展や労働力の競争の土台となった。 2012年の書。経済史を専門とする、ハーバード大のファーガソン氏の有名な著作。スケールの大きな歴史を語る方で、惚れ惚れします。 ある人によれば

サン・テグジュペリ 『星の王子さま』

サン=テグジュペリ 『星の王子さま』 僕にとっての作品の要諦: たいせつなことは目には見えない。飛行士の「僕」と、小さな星からきた王子さまが、不時着をきっかけに出会う。王子さまがこれまで出会った人たちは、王子さまには不可解なものばかり。こども時代を忘れなかった大人である「僕」は、王子さまに共感。 作品は1943年にアメリカで初版。 すでに飛行士として、また『夜間飛行』などの代表作によって有名人になっていたサン=テグジュペリ(1900-1944)による、児童文学作品です。

エンデ『ジム・ボタンの機関車大旅行』

僕にとっての作品の要点: ジム・ボタンとルーカスは大親友。出生に謎のあるジムと、腕利きの機関士ルーカスは、人口増を背景に故郷の島を出て冒険へ。相棒は機関車のエマ(女性)。そして皇女の誘拐に苦しむ皇帝に出会う。皇女リーシーを助けるべく、竜の待つクルシム国へ。大冒険の末、目的は達成されるが、ジムの出生の謎は明かされず、次回に続く。 幼く勇気があり、感性が豊かなジムと、科学的・論理的思考を持ち合わせた腕っぷしの強いルーカスのコンビが大冒険を繰り広げる。 1960年の作品。エンデ

ナイジェル・ウォーバートン『若い読者のための哲学史

私にとっての要点:1チャプターにつき、ひとりの哲学者を取り上げて、生い立ちや思想を取り上げる。著者の語りが軽妙。チャプターごとに、哲学者の達成点と、次なる課題が紹介される。次章では、別の哲学者がその課題に挑む。連続性(歴史)を意識して書かれている。 若い人のための、とか、こどものための、とか。そういう書籍もこのシリーズの対象にしたいと思います。 本書はYale University Pressから出ているLittle Historiesというシリーズのひとつらしい。 語

ヤンソン 『たのしいムーミン一家』

ムーミンをとりあげるにあたって、「ムーミンキャラクター診断」なるものにチャレンジしました。 スナフキンと診断され、ちょっと嬉しい。 僕にとっての作品の要点: 出てくるキャラクターは個性豊かで、いきいきしている。冬眠から目覚め、不思議な帽子を見つけたことから、ムーミン一家はいろんな事件にまきこまれる。独特の時間の感覚。 ムーミンをちゃんと読んだことはなかったのですが、意外と難解。 でもそう感じるのは、僕が歴史を感じ取りたいという目的を持って読んでいるからだと思う。ちょっと