【作品#36】『犯罪小説集』
こんにちは、三太です。
今回の投稿が2023年ラストになります。
今年も無事定期的に記事をあげることができました。
まずは記事を読んでいただいているみなさんに感謝したいですし、本を読めること、映画を見られることにも感謝したいと思います。
ありがとうございます。
また来年もボチボチ頑張っていきたいと思います。
では、今回は『犯罪小説集』を読んでいきます。
初出年は2016年(10月)です。
角川文庫の『犯罪小説集』で読みました。
あらすじ
本書には犯罪にまつわる5つの短篇がおさめられています。
それぞれのタイトルと描かれる内容は以下の通りです。
①青田Y字路(あおたのわいじろ)・・・少女誘拐
②曼珠姫午睡(まんじゅひめのごすい)・・・痴情
③百家楽餓鬼(ばからがき)・・・ギャンブル
④万屋善次郎(よろずやぜんじろう)・・・村八分
⑤白球白蛇伝(はっきゅうはくじゃでん)・・・自己像の肥大化
犯罪によって取り返しのつかない状態になってしまうものもあれば、犯罪に至る寸前のところで踏みとどまるものもあります。
犯罪を犯罪として一括りにせず、一つ一つのディティールが丁寧に描かれた作品です。
公式HPの紹介文も載せておきます。
出てくる映画(ページ数)
①「酔拳」(p.174)
②「白蛇伝」(p.345)
今回は2作ありました。
「白蛇伝」については「白球白蛇伝」というタイトルに大きく影響していると考えられます。
感想
個人の悪意で犯罪が起こるというよりも周囲との関係の中で犯罪に至ってしまったというような話なのかなと思いました。
例えば、「白球白蛇伝」では、早崎という元プロ野球選手が金銭問題をきっかけに殺人を起こしてしまいます。
早崎の育った家庭環境はそんなに良くはなく、そんな中でプロになれると周囲に期待を持たれて育ちます。
簡単に言うと、この周囲からの期待が早崎を壊してしまったのかなと思えるのです。
このディティールが短篇の中ではきっちりと描かれます。
そのディティールは、つまり犯罪に至る過程は、日常にありそうな光景でもあり、それが逆に怖さを増しているように思えます。
ただし、犯罪の話ばかりで救いがないかというとそういうわけでもないです。
ここまで書いてきたように、個人のどうしようもない悪というのはむしろ薄めですし、短篇の中には罪を踏みとどまる人物も出てきます。
その違いなども読みどころかもしれません。
もう一つ言えるのは罪を犯す人物の内面は細かく描かれないということです。
唯一「百家楽餓鬼」の永尾という人物がバカラをしているときの内面は描かれます。
ただ、他の人物はよく分かりません。
内面が描かれないことで恐怖感は増しているかもしれません。
犯罪はあわいに生まれ冬館
その他
・文庫解説は映画監督の瀬々敬久さん。
瀬々さんは映画「楽園」の監督。(「楽園」の原作は『犯罪小説集』の「青田Y字路」と「万屋善次郎」
解説では、本書と中上健次の『千年の愉楽』を対比させながら述べられています。
以上で、『犯罪小説集』の紹介は終わります。
犯罪と一括りにせず、そのディティールに迫った作品でした。
では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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