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【作品#9】「パーク・ライフ」『パーク・ライフ』

こんにちは、三太です。

『パレード』に出てきた映画が26作もあったので、3ヶ月ぶりぐらいの作品紹介になりました。
なんだか久しぶりで新鮮な気持ちです。

では、今回は「パーク・ライフ」を読んでいきます。

初出年は2002年(6月)です。

文春文庫の『パーク・ライフ』で読みました。

あらすじ

ぼくは日比谷公園でスタバ女に出会います。(厳密に言うと、電車の中)
スタバ女とは、女性がスターバックスのコーヒーを飲んでいたところを、ぼくの同僚の近藤さんが名付けたものです。
ぼくは知り合いの宇田川夫妻(二人は別居中で家にいない)の家で愛猿のラガーフェルドの世話もしています。
代わりに、ぼくの家には上京したが住んでいます。(実家からの逃避?)
ぼくの初恋の相手、ひかるは結婚をするらしいです。(ぼくはそれを旧友から聞きます)
そんな状況の中、スタバ女と日比谷公園にいる、ある男性の謎を探ります。
最後にスタバ女は何を決めたのでしょうか。(一つ一つのエピソードがつながりそうではありますが、なかなか難しいです。)

文庫の裏表紙にある紹介文も書いておきます。

公園にひとりで座っていると、あなたには何が見えますか?スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった女だった。なんとなく見えていた景色がせつないほどリアルに動きはじめる。日比谷公園を舞台に、男と女の微妙な距離感を描き、芥川賞を受賞した傑作小説。

そうです、これが吉田修一の第117回芥川賞受賞作です。

出てくる映画(ページ数)

 ①『UNZIPPED/アンジップト』(p.12)

昨夜、宇田川夫妻宅マンションで『UNZIPPED/アンジップト』という映画を観た。

②『永遠と一日』(p.74)

 九分間の会話で、ひかるは最近ビデオで観たらしい『永遠と一日』というギリシャ映画の話をした。

 今回は2作の映画が登場しました。 

感想

何回読んでも難しいなというのが、読後の印象でした。
さすが芥川賞受賞作品だという感じです。
けれども、感想としてただ難しかったというのは少し面白くありません。
そのため今回は自分なりに問いを立てて、もう少し読み込んでみました。

その問いとは、「スタバ女は最後に何を決心したのか」というものです。
スタバ女が「よし・・・私ね、決めた」と呟くシーンがあるんですね。
私は端的に言うと、「日比谷公園を出ていくことを決心した」のではないかと考えます。
そう考える理由は二つあって、一つはスタバ女にとって、公園内で気になっている二人についてその謎がわかったからというものです。
一人は「ぼく」で、もう一人は気球を上げている男でした。
どちらともある程度話せたので、なぜ公園にいるのかの理由もわかり、少しすっきりしたのかなと思います。
もう一つは、最後に「ぼく」と行っている写真展が、スタバ女の地元の風景を写している写真展だということです。
東京の日比谷公園ではない場所か、この場合は自分の故郷に未練があるのだと考えました。

そして、このスタバ女の発言を受けて、「ぼく」も「自分まで、今、何かを決めたような気がした」(p.101)と言っています。
ここで「ぼく」は何を決めたのでしょうか。
私は、「ぼく」が高校時代から想いを寄せていたみらいとの関係にけりをつけたのかなと考えました。
みらいの話をスタバ女にして、ある程度気が楽になったこともあるのですが、そもそもみらいは結婚するということも聞いている中で、自分としてもいつまでも過去の初恋にとらわれているわけにはいきません。
また、「ぼく」はひきこもりがちな生活を送っており、けれどもバーチャルな世界で分身を旅に出させていることから、今のままで良いとは考えていないと思います。
それらを勘案すると、やはりみらいとの関係にけじめをつけたと考えたいなと。

ただ、ここでもう一つこの話全体を通しての問いが浮かび上がります。
それは「臓器」は何を表しているのかということです。
「ぼく」とスタバ女のはじめの会話が日本臓器移植ネットワークの広告であること、「ぼく」がダヴィンチの人体解剖図を見ること、日比谷公園を上から見ると、人の人体を表しているように見えることなどが描かれていることから考えると、「パーク・ライフ」を読み解く上で臓器の問題を無視するわけにはいきません。
私が考えたのは、臓器は開眼片足立ち、旧友の近藤の子の死産のエピソードなどと合わせて、「ままならない身体」、つまり、自分の意思を超越するものを象徴しているということです。
スタバ女が日比谷公園を去る決意をしたということは、自分の意思を超越するものから抜け出す、つまり、自分の意思を超越するものがありつつも、それでも自分の意思を大事にするということを表しているのだと思います。
そういった面で言うと、人生で直面するとても深い問題を扱った作品だと言えそうです。

色々と考えられる良い作品ですし、考えることによって、よりこの作品を好きになりました。
 
次回からは映画紹介に移っていきます。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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