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【閑話休題#29】中上健次『火まつり』

こんにちは、三太です。

今回は映画をノベライズしたこちらの作品を読みます。

映画「火まつり」は『空の冒険』の短篇のタイトルの一つとしてあがったものです。
本当は映画を見たかったのですが、なかなか簡単には見られそうになく、小説があるということで読んでみることにしました。
ちなみに「火まつり」は実際に起きた「熊野一族7人殺害事件」をもとに中上健次がまず映画の脚本を作り、その後小説化した作品となります。


あらすじ

神武天皇がやってきたという伝説が残る二木島(三重県熊野市の町名)。
二木島はもともと周りから隔離された世界でした。
ただ、紀勢線ができたり、大きな道が通ったりして、例えば和歌山の新宮などとこれまでよりも行き来が増えました。
そんな二木島にかつて王国を築いた池田一家。
その池田一家が神仏にのぞんで、七番目にようやく産まれた男の子。
それが達男でした。

達男の山仕事に良太という青年が加わったところからこの物語は始まります。
どちらも二木島のワル。
おそらく達男は40歳ぐらい、良太は20歳ぐらいで、良太のワルさのスケールを大きくしたのが達男という感じです。
二木島で起こる様々な事件を通して、達男がどんどん孤立していきます。
達男には弁解できる余地がいくつもあったのですが、破滅の道へ突き進みます。

感想

「新宮の火祭りはいつ出るんだ?」と思いながら読んでいたのですが、最後に出てきてなぜだかホッとしました。
新宮の火祭りを契機に達男は「凶暴な獣」となり地獄へと突き進んでいったのだと思います。

達男も良太も最初からワルとして出てきて、実際にサルを六匹も殺したり、色んな女に手を出したり、他にも様々な事件を起こしたりするのですが、それと同じぐらい二木島の町にいる人も不気味に思えました。
二木島で事件が起こるたびに、あること、ないこと様々な噂が回り、その噂を回しているのは二木島の普通の人たちです。
その噂に達男は翻弄されていったようにも思いました。
また読んでいる途中は感じなかったのですが、読み終わって良太は(二木島の、特に達男の)観察者の役割だったのかなと思いました。
良太も主人公の一人でありながら、クライマックスに向かうにつれ達男にフォーカスしていった感じです。
達男も良太も、そして二木島に住む人達も、その場に縛り付けられ、運命の決まった人生の苦しみを体現しているように思えました。
 
炎天の階段駆ける地獄へと

『空の冒険』内の「火まつり」登場シーン

短篇のタイトルの一つとして出てきます。

吉田修一が書いた「火まつり」の語り手である高垣剛は妻と娘との三人暮らしです。
毎年大学時代の後輩である白井から地元の魚が送られてきます。
その白井との大学時代を思い出し、白井の地元である和歌山の新宮の火祭りを見に行こうと思い立つ話です。
映画との共通点は新宮の火祭りが出てくることです。
今回は共通点がシンプルでわかりやすかったです。

吉田修一作品とのつながり

その土地に縛り付けられた人々を描くという点で(例えば『悪人』の祐一など)通ずるものがありました。

今回は『空の冒険』に出てきた映画「火まつり」のノベライズ作品の紹介でした。
岩波文庫の『中上健次短篇集』も買ったので、もう少し中上健次の世界に浸ろうと思います。

それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

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