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【閑話休題#44】モダニズムの水平線「渡邊英理先生の基調講演」

こんにちは、三太です。

吉田修一さんの作品を追いかけている過程で作家論、というか作家を中心に述べた文章に興味を持つようになりました。

作家論のマガジンも作ったので、どんどん読んでいきたいなとは思っています。(なかなか進んでいませんが・・・)
そんな作家に迫った本の一つに渡邊英理先生が書かれた『中上健次論』があります。

この本自体は前から知っていたのですが、最近別の事実も知りました。
それは吉田修一さんが敬愛してやまない作家は中上健次だということです。

中上健次といえば、好きという言葉では足りないほど、多大なる影響を受けた作家である。

「熊野三山の祈り」『素晴らしき世界~もう一度旅へ』(p.149) 

この引用のあと、エッセイでは『十九歳の地図』『岬』『枯木灘』『千年の愉楽』『奇蹟』『軽蔑』と若い頃から耽読してきたという作品が列挙されます。

ということもあり、吉田修一さんの作品の再読が一段落したら、次は中上健次の作品も読みたいなと思っています。

その中上健次について書かれた渡邊英理先生の講演が聴ける!ということで、これは行かない手はないなということで行ってきました。


       シンポジウムが行われた平井記念図書館

日時は3月5日(火)、場所は京都の立命館大学の衣笠キャンパスでした。
周りは仁和寺などもあり、ザ・京都という立地でした。

渡邊先生の講演は「モダニズムの水平線」という一日を通して行われていたシンポジウムのはじめに行われた基調講演でした。

取り上げられた作家は石牟礼道子です。
渡邊先生がおっしゃっていたのは、『中上健次論』を書け、中上健次が一段落したので、次は石牟礼道子を研究していくとのことでした。

約1時間の講演はあっという間に過ぎました。

普段自分が接する語彙とは違う範囲の語彙がたくさん出てきて、とても刺激的かつ魅力的な講演でした。
同時に、情報量も多くて、かなり真剣に聞いていたのですが、ついていけてない自分もいて、もっと勉強が必要だな、勉強したいなとも感じました。
その中で、自分なりに感じたこと・分かったことをここに記したいと思います。

講演の概略は、石牟礼道子をモダニズム(=近代)への問い直しをした作家として捉えたときに、どのようにその作品群を解釈できるのかということだったと思います。

まず、「作家の歴史を知った上で、作品を解釈する」ことの重要性を改めて感じました。
講演の中で初めて知ったのが「サークル文化活動」でした。
「サークル文化活動」とは、「無名」の人々が集まって詩を書き、ガリ版刷りのサークル詩誌を作り、美術、演劇、合唱などの活動をし、生活記録や学習のための「サークル」を組織したもので、1950年代半ばに頂点に達した活動です。
石牟礼道子はこのサークル文化活動に参加していました。
その中で書かれたのが水俣病との関わりを記録のような物語として記した『苦海浄土』でした。

一緒に何かを書く仲間がいる中で生まれたというのは驚きでした。
サークル文化活動は、どこかこのnoteのような感じもありそうです。
この事実を知っていると、『苦海浄土』も違ったように見えてきそうです。

それから、渡邊先生が指摘されていた「戦前の植民地開発と戦後の地域開発との連続性」が『苦海浄土』に表れているというのは、今にもつながりそうな話だと思いました。
具体的に言えば、チッソは戦前に植民地である朝鮮に進出し、そこで開発を行い、戦後同じことを水俣で行いました。
その負の部分が、水俣病として現れたのです。
これは今の日本で、地方に原子力発電所が置かれる構図にも似ているのかなと思いました。

石牟礼道子の作品(私はまだ『苦海浄土』しか読めていませんが・・・)が「近代=資本主義社会への問い」を内包しているのかなと考えました。
この視点を深められれば、現代の混迷に対する、一定の方向性が見えそうな気がします。

ただ、自分の理解力が足りず、講演の最後に述べられた「文学の必要な意味」を理解しきれませんでした。
ここも自分に勉強が必要だと感じました。
少なくとも『中上健次論』を読まなくては・・・

とにもかくにも大変刺激を受けたご講演でした。
本当は、シンポジウムは一日開催されていたので、ずっと参加していたかったのですが、それは叶わず残念でした。
ただ、このような素晴らしい会が無料で開かれているのは本当に素晴らしいと思います。

最後に、渡邊先生は中上健次、石牟礼道子と今ご研究をされているのですが、ある地域を描く作家という点では、吉田修一さんもそれらの作家と共通する部分があるように思います。
渡邊先生が吉田修一さんの作品をどのように解釈されているのかもとても気になります。
ぜひ『吉田修一論』も読んでみたいです。笑
 
それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

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