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【作品#21】『静かな爆弾』

こんにちは、三太です。

教員をしている私にとっては、今は入学試験の時期です。
自分も過去問を解いたり、入試問題の研究をしたりします。
国語の場合は問題となった文章があり、問題となるからにはやはりそれなりに良い文章が使われています。
そんな文章から読書の幅も広がっていきそうだなと思っている今日この頃です。

では、今回は『静かな爆弾』を読んでいきます。

初出年は2008年(2月)です。

中公文庫の『静かな爆弾』で読みました。

あらすじ

明治神宮外苑にある公園で出会った男女。
中東の仏像爆破を題材にドキュメンタリー番組を作る早川俊平。
耳の不自由な響子。
二人は距離を縮め、付き合い始めます。
ただ、俊平は仕事に追われ、俊平の家族も響子との付き合いを手放しで歓迎する様子でもありません。
中東の仏像が爆破されたように、二人の関係にも「静かな爆弾」が迫るのですが・・・。

公式HPの紹介文も載せておきます。

閉園時間になった神宮外苑で出会った美しい女性は、音のない世界に住んでいた。テレビ局で忙しく働く男は、ある日声をかけた女性と同じ場所で再会する。ふたりは次第に距離を縮め、付き合うようになる。週末は一緒に過ごす状態が続き、男は久しぶりの休暇を恋人とハワイで過ごそうとする。しかしちょうど彼が追っていたスクープネタに大きな動きがあり、その約束は反故されてしまって…。音を介在しない恋人たちの静かで熱い恋愛小説。

出てくる映画(ページ数)

①「子猫をお願い」(p.65)

鍵を開け、一応、「ただいま」と声をかけて部屋へ入った。廊下の先にある居間で、テレビを見ている響子の背中がある。
ビデオ屋で何か借りてきたらしく、ちらっと目に入ったシーンで、それが『子猫をお願い』という韓国映画であることが分かった。
ただ、もちろんテレビからは音が出ていない。部屋の明かりもつき、そこに響子の背中があり、テレビには映画が映っているというのに、ただ、テレビから音が聞こえないというだけで、まるで異空間へ迷い込んでしまったような気がした。

今回は以上の1作です。 

感想

この作品のテーマの一つに「仕事をとるのか、愛する人をとるのか」というのがあると思いました。
今から15年ほど前の作品だからか俊平は軽々と仕事をとります。
そして、それは俊平だけの価値観ではなく、彼の同僚の麻生(女性)も同じでした。
今だとまた違う選択、あるいはもう少し逡巡があるのかなとか思って読んでいました。
ただ逆に、もしかしてそれではうまくいかないよということを結末で示すのかなとも思っていたら(そうなると当時の作品としては先進性があるということになるかなと思います)そういうわけでもない結末で、この作品のメッセージ性についてしばし考えて込んでしまいました。
この展開から一つ言えるのは、俊平の前から姿を消した響子が1週間何をしていたのかという問いです。
語り手は俊平であり、この作品ではあまり響子の心情は描かれません。
その部分に想像を巡らせるのも一つの楽しみ方かなと思いました。
そして、爆弾は爆破するとは限らないのだとも。
 
都合良い男ばかりよ水温む
 
次回は映画紹介をします。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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