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【作品#34】『作家と一日』

こんにちは、三太です。

学校では2学期の期末考査が近づいています。
今はずっと文法の授業をしています。
単語の品詞について教えているのですが、とりあえず文法用語を伝えていくことで精いっぱいになっています。
もっと読解にどう文法知識を使っていくのかなどまで伝えられたらよいのですが・・・。
まだまだたくさん勉強する必要があるなと思っている今日この頃です。
 
では、今回は『作家と一日』を読んでいきます。

初出年は2015年(10月)です。

集英社文庫の『作家と一日』で読みました。


あらすじ

ANA機内誌『翼の王国』連載のエッセイ集第三弾。
「風邪を引いた猿」「草食男子はブルーベリー狩りへ」「深夜の友情」など24編のエッセイがおさめられています。
いずれのエッセイも基本的には旅行や旅に纏わる話で、ずばり旅先での話やあるいはそこに付随するエピソードなどが述べられます。
一つ一つのエッセイはそれほど長くなく、すらすらと読めます。

公式HPの紹介文も載せておきます。

ポルトガルのビーチでパトカーに乗り、新宿ゴールデン街でへヴィメタバンドと意気投合し、仕事場で猫と戯れる……。
旅先で感じるふとしたこと、切り取った風景、出会った誰かとの大切なひととき、毎日の暮らしの中で起きるちょっとした奇跡と、心の揺らぎ......。
作家・吉田修一が、些細だけれど大切な“一日"を綴ります。 ANAグループ機内誌『翼の王国』の人気連載「空の冒険」から、映画『パレード』の舞台化秘話を含む全24篇を収録!

出てくる映画(ページ数)

①「永遠と一日」(pp.29-30) 

案内されたのはロビーのある本館からは一番離れているが、ビーチには一番近い白壁のコテージで、大きな窓からは真っ青な南シナ海が一望でき、白いレースのカーテンが潮風を大きくはらんでいる。
テオ・アンゲロプロス監督が撮ったギリシャ映画『永遠と一日』の中に、似たようなシーンがある。
もちろん窓の外に見えるのはエーゲ海なのだろうが、白壁と風を大きくはらんだ白いカーテンの動きが、今思い返してみるととても似ている。

②「ベニスに死す」(pp.42-43) 

先ほどからしつこいくらいに「高級、高級」と繰り返しているが、実際、白砂のビーチには、映画「ベニスに死す」で貴婦人たちが休憩するようなテントが並び、砂浜に一歩でも足を踏み入れれば、すぐにビーチボーイたちがやってきて、デッキチェアにマットを敷いてくれ、パラソルで日差しの調節をしてくれるのだ。

③「殺人の追憶」
④「グエムル」(p.51) 

内容としては、ソン・ガンホ(『殺人の追憶』や『グエムル』の主演俳優)似の、やんちゃなお兄ちゃん風の男性が司会で、若く可愛らしい男女のタレントさんを連れ、毎回韓国の地方を訪ねて、そこで一泊二日するというものだ(と思う)。

⑤「男はつらいよ」(第30作)(p.106) 

当時は思春期真っただ中の自分では大人だと思っているれっきとした子供だったので、せっかくの休日に親に連れられ血の池地獄だの海地獄だのを回っている自分がなんとも居心地が悪く、その居心地の悪さが別府という街の印象になっていたのだが、今回改めてれっきとした大人として訪れてみると、血の池地獄や海地獄の鮮やかな自然の色彩に感嘆し、おそらく当時は何の感慨もなかっただろう、鉄輪温泉街(『男はつらいよ』の舞台にもなった)の情緒溢れる風情に、猛暑が過ぎ去った秋の初め、初めて肌寒く感じた夜の毛布のような感触とでもいうのか、そんな肌触りを感じさせられた。 

⑥「恋する惑星」(pp.107-108) 

そう言えば、『恋する惑星』という大好きな香港映画に、毎晩恋人にサンドイッチをおみやげに持ち帰る若い警官が出てきた。トニー・レオン扮するこの警官は、恋人がサラダを好きだからという理由で毎晩買って帰っていたのだが、ある日、店の主人に、「いつも同じもので飽きないのか?たまには魚のフライでも買ってみれば」と勧められる。
「彼女が、魚のフライを好きかどうか分からない」と彼は言う。
「だったら試してみれば?」と店主は答える。
結局、彼は試してみる。そして後日、再び店に現れた彼は、「彼女はサラダは好きじゃなかったみたいだ」と告げる。
映画の中では、彼はその後この恋人にフラレてしまうのだが、今思い出してみても、いいシーンだと思う。 

今回は以上の6作です。
①「永遠と一日」と⑥「恋する惑星」は既出なので、②から見ていきます。
「永遠と一日」については、あるシーンが自分の見ている光景と似ているという話です。
ワンシーンの光景をよく覚えておられるなぁと思うのと、逆に映画のワンシーンを持ってくるところに吉田修一さんの映画好きの感じが出ているように思います。

吉田修一さんは映画「恋する惑星」が好きなんですね。
引用で説明されているシーンについては、自分は特段意識して見ていなくて、メモにも残っていませんでした。
もう一度見たいなとも思っています。 

感想

金ちゃん、銀ちゃんという名前の猫や2歳差の弟、新幹線車内での両親との苦い思い出など、これまでのエッセイに比べ、吉田さんの家族や友人がたくさん出てくる印象がありました。
吉田さんのエッセイを読んでいると、「自分は時間に追われているなぁ」ととても感じます。
意味のある時間を求めすぎていて、リラックスできていない気がします。
自分の生き方を少し見直すことができたようにも思いました。

「成田空港リムジンバスのスタッフさんへ」というタイトルのエッセイが大好きです。
話の内容としては、海外旅行先のタクシーで少しぼったくられる経験をして、落ち込んで日本に帰ってきた吉田さんが成田空港リムジンバススタッフのホスピタリティにあふれた対応を目の当たりにするというものです。
読んでいると泣きそうになりました。
そして、吉田さんの目の付け所がさすがだなと思わされます。
別に日本人が凄いと声高に主張しているわけではなく、シンプルに日本人としての良さが滲み出る文章でした。

また、人だけでなく、映画への着眼点も素敵だなと感じました。
以前にも取り上げたことのある「恋する惑星」という映画が今回も出てくるのですが、そこで取り上げられるシーンとそのシーンから読み取れる内容に吉田さんの色が出ていて、これは素晴らしいなと感じました。

「豆乳、揚げパン、牛肉麺!」という吉田さんが台湾で推したいものをどんどん紹介していくエッセイがあるのですが、このエッセイを読みながら台湾の街をめぐってみたいなと思いました。
これはめちゃくちゃ楽しそうです。

満たされた時間味わう冬の空

以上で、『作家と一日』の紹介は終わります。
吉田修一さんのプライベートの様子が今まで以上に見えたエッセイ集でした。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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