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【閑話休題#12】スケザネ/渡辺祐真『物語のカギ』

こんにちは、三太です。
このnoteを書くきっかけとなった、吉田修一作品を全て読むということを思いついたきっかけはyoutubeでした。
そのyoutubeに出演されていたお一人が本書の著者であるスケザネさんです。

そのスケザネさんが今回デビュー作となる単著を出されるということで、これは買って読むしかないと思い、手に取りました。
また、内容的にもこのnoteや、日頃の授業にも生かせそうだったということもあります。

要約

本書には、物語をより深く味わうためのヒントがたくさん書かれています。
本書では、そのヒントを「物語のカギ」と呼び、全部で38個のカギを提示しています。
そのカギはスケザネさんがこれまでの読書で培ってきたものです。
(カギはもともとスケザネさんがノートに書きためていたと本書には書かれていましたが、そのノートを実際に見てみたいとも思いました)

引用と考察

漫画家の水木しげるは、若い頃に様々な文学作品を読み漁り、その果てに手にしたものについてこんな風に書いています。

人生とは何かはとうとう分からずじまいでした。ただ、生きていること自体の燦然とした輝きに目がくらみ、「死にたくない」と痛切に思いました。 
水木しげる『ゲゲゲのゲーテ』双葉新書、2015年
 
人生の妙味がわかったとか、積極的に生きたい!と強く思えたわけではない。ただ、「死にたくない」と思った。そんなゆるやかな肯定が、物語には秘められています。ひょっとしたら、我々は死にたくないと思うために、今日も物語を味わうのかもしれません。

『物語のカギ』(p.54)

本書の序章には、「なぜ物語を読むのか」に対するスケザネさんの考えが書かれています。
水木しげるの言葉を引用して述べられたこのパートは特に素敵だと感じました。
水木しげるのように自分も「死にたくない」と痛切に思えるものに出会いたいです。(いや、実はもう出会っているのかもしれません!)
また、この引用箇所は水木しげるの言葉がメインとなっていますが、その言葉を引用できるスケザネさんの引用のレパートリーの豊富さがすごいです。
これまでノートに書きためてきたものなのでしょうか。
自分もこういった引用ができるようになっていきたいです。

他にも自分にとって参考になると感じたカギがいくつかあります。
一つは⑱「言葉を味わおう」の助動詞・助詞に注目するというカギです。
辻原登『家族写真』の冒頭を取り上げ、その文章内の「は」と「が」に注目する読みは、物語全体の解釈にもつながり、文法の知識が解釈にも活きている良い一例です。
学校で文法を指導する際にもこういった話ができると、より生徒の文法を学ぼうとするモチベーションを高められるかもしれません。

また、㉞「暗記してみよう」のカギも、小林秀雄の素読に対する考えを引用し、暗記の重要性についてとても納得のいく説明となっていました。
中学生の多くは、ただ暗唱するだけでもこちらが思っている以上に楽しく取り組むのですが、このような説明があってもいいと思います。
(私自身も清少納言の『枕草子』冒頭、「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる。」は大人になってからなんとなくこれか~とフィジカルに実感したことがあります)

感想

読み終わってまず思ったのは、この本は今教えている生徒にも読んでほしいということです。
もちろん自分がかみ砕いて説明したらいいのかもしれませんが、スケザネさんの説明の丁寧さにも触れてほしいです。
リーディングワークショップで行っているミニレッスンにも使えるかもしれません。
また、生徒にとっては漫画や映画のネタがふんだんに使われているのも、とっつきやすくておすすめしたいポイントの一つです。
そして、スケザネさんの和歌をはじめとする古典作品のカバー力。
生徒にとっては、ここをきっかけにして、古典作品への入り口ともできるでしょう。

また、吉田修一作品に関わるなと感じる記述もいくつかありました。
一つはカギ㉝「舞台を意識しよう」の「都会」と「田舎」の話です。
具体例として『NANA』が挙げられ、若者を描いた物語にとって、「上京」という要素が欠かせないと書かれていました。
「上京」は吉田修一作品にもよく出てくる設定です。
「都会」と「田舎」の差が物語を生み出すということがよくわかりました。
もう一つのカギは⑦「語り手の種類を知ろう」の中の「複数の人物が語る」という話です。
その具体的な作品として『パレード』が挙がっており、吉田修一好きとしては嬉しく感じました。

色んな物語に触れるたびに、読み返したい一冊です。

それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

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