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【閑話休題#49】春日太一『鬼才 五社英雄の生涯』

こんにちは、三太です。

今回はこちらの作品を読みます。

『おかえり横道世之介』に登場した映画をこれまで3作見てきました。
「吉原炎上」「鬼龍院花子の生涯」「陽喗楼」の3作です。
いずれも五社英雄が監督をしています。
私自身は今回映画を見るまでは五社英雄については何も知りませんでした。
ただ、今回吉田修一作品を通じて知ったこともあり、その人自身に興味が湧き、本書を手にとることにしました。
また本書を読むことで映画への理解もより深まるかなとも思いました。
では、早速読んでいきたいと思います。

本書は2016年の8月に刊行された本です。


要約

本書は「なめたらいかんぜよ」のセリフで有名な「鬼龍院花子の生涯」、吉原の花魁を描いた「吉原炎上」などを撮った映画監督・五社英雄の評伝です。
1929年、戦前に生まれ、1992年に亡くなるまでの63年間の生涯を追います。
テレビマンから始まり、映画監督として活躍し、私生活も含め転落を経験したところから、再び這い上がったその生涯。
「全身エンターテイナー」とも言える男の、虚実ハッタリ入り混じった生涯の物語です。

表紙の裏に添えられた紹介文も掲載します。

「鬼龍院花子の生涯」「極道の妻たち」―極彩色のエンターテイナー、映画監督・五社英雄。肉を斬り骨を断つ効果音の発明など遺したものの大きさに比して無視に近い扱いを受けてきた鬼才。自らの人生も「演出」した男はなぜその背に鬼を彫り込んだのか?虚実ハッタリ入り乱れた生涯に翻弄されながら、春日太一が渾身の取材で「鬼」の真実に迫る。

感想

映画に取り憑かれたその破天荒な人生は、そのまま小説になるのではないかと思わされるほどでした。
では、これまで自分が見てきた映画と絡めながら、その生涯についていくつか触れていきたいと思います。

五社は映画界で一度成功した後、プライベートで大変なことがあり(妻の多額の借金、娘の大事故、自らの銃刀法違反)転落の憂き目にあいます。
そこから復活するときに最初に撮った映画が「鬼龍院花子の生涯」でした。
この映画は東映にとっても重要な映画でした。
それはなぜかというと、当時(1980年前後)時代劇やヤクザ映画などの泥臭い男っぽさを得意としていた東映の人気に翳りが見られたからです。
要するに女性客の動員が鍵でした。
そこで宮尾登美子原作の『鬼龍院花子の生涯』で、父娘の物語や女の一生を描くことで女性客にも訴求し、なおかつ任侠の世界を得意とする東映の持ち味も発揮したのです。
「鬼龍院花子の生涯」の誕生には五社個人としてあるいは組織として様々な流れのあったことがわかります。

「鬼龍院花子の生涯」に出てくる有名なセリフ「なめたらいかんぜよ」の誕生秘話も書かれていました。
このセリフは夏目雅子演じる松恵の放つ言葉で、当時の流行語にもなりました。
もともとこの言葉は台本にはなく、撮影現場で五社が付け加えた一言だったようです。

死線から戻ってきた監督と女優。文字通り「命」を賭して『鬼龍院』の現場に臨む二人の情念が合わさり、この名セリフが生まれたのである。

『鬼才 五社英雄の生涯』(p.188)

役者・監督という仕事に対して、彼らが人生を賭けていた様子が伝わってきます。

また、この本には「陽喗楼」を撮るときに五社が入れた背中の彫り物の写真も掲載されています。
かなり強烈でした。
鬼と武士が背中で躍動しています。
古巣フジテレビとの完全な決別をする覚悟として入れた彫り物のようです。

本書を通じて、これまで見てきた映画にはそれぞれ 五社自身のドラマがあったことがわかりました。

五社のテレビマン・映画監督としての姿についても具体的に書かれています。
五社は独学で映像の演出術を勉強します。
その勉強法が面白かったです。
どのようなものかというと

①新聞の連載小説を挿絵の箇所を隠して読む
②読んだ後自分で挿絵のイメージを考えてみる
③その上で挿絵を見る

『鬼才 五社英雄の生涯』(p.26を参照)

この日課を通して「文字情報をいかにして瞬間的に一枚の絵として表現し直すか」を訓練したようです。(p.26)
自分も今吉田修一さんの新聞の連載小説を読んでいるので、この日課の威力の大きさが少し想像できました。
私は先に挿絵を隠すまではしていないのですが、要約をした後、挿絵を見て「なるほど~上手く挿絵としてまとまってるなあ」となることがよくあります。

あと、映画監督としての五社英雄の魅力は「まず自分がやってみせる」というところにあります。
『御用金』で仲代達矢が命綱なしで海沿いの崖を登るシーンがあります。
それまでにも数々の映画で幾多の危険な撮影をこなしてきた仲代もさすがにこれには躊躇しました。
すると、五社が自ら命綱なしで崖を登って見せたらしいのです。
その他にも女優たちの濡れ場のシーンなども実際に自分が助監督とともにやって見せたらしいです。
海軍司令官の山本五十六の名言に「やってみせ 言って聞かせて させてみせ ほめてやらねば 人は動かじ」という言葉がありますが、まさに五社はその精神を地でいく人だったのではないかなと思いました。

2016年時点で春日太一さんは「五社は映画界で正当な評価をされていない」というようなことを述べておられました。
おそらく2024年の今も状況はそう大きくは変わらないのかなと思います。
正直、万人にうける映画かというと今のご時世ではなかなかそうもいかないのかなと思うところもなくはないですが、(扱っている題材など)五社英雄はもっと知られてもいいのかなとも思いました。

今回は春日太一『鬼才 五社英雄の生涯』の紹介でした。
五社英雄が鬼才と言われるゆえんがわかりました。
春日太一さんは他にも映画に関わる本を書いていらっしゃるようなので、そちらも読んでみたいと思います。
 
それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

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