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【作品#28】『平成猿蟹合戦図』

こんにちは、三太です。

いよいよ2学期が始まりました。
2学期に向けて準備が出来たかと言われたら、ちょっと微妙なところもありますが、先日行われた研修で国語の授業の構想を深く練ることはできました。
やらされる研修ではなく、自分の今の状況と上手くブリッジングできたので、とてもよかったなと思っている今日この頃です。
この勢いで2学期も頑張っていきたいです。
 
では、今回は『平成猿蟹合戦図』を読んでいきます。

初出年は2011年(9月)です。

朝日文庫の『平成猿蟹合戦図]』で読みました。


あらすじ

8人の視点人物で綴られる群像劇。
長崎の五島福江島出身の真島美月(まじまみつき)は息子の瑛太と共に、ホストとして働く夫、朋生(ともき)に会うため上京します。

真島朋生は美月の夫で、五島から博多、博多から東京の歌舞伎町へと転々と働く場所を求めます。
その歌舞伎町で一緒にこのおいしい話に乗ってみないと朋生を誘ってくるのが浜本純平という男。
浜本純平は歌舞伎町の韓国クラブ『蘭』で下働きをしています。
この『蘭』のママをしているのが山下美姫

このおいしい話とは純平がある轢き逃げ事件を目撃したことに端を発します。
この轢き逃げ事件を起こした犯人と捕まった人が違うことに純平は気づきました。
実際に事故を起こしたのはチェロ奏者の湊圭司でしたが、捕まったのはその兄の奥野宏司だったのです。
この弱みにつけこんで純平は朋生と共謀し、湊を脅迫しようとします。

脅迫を受ける湊圭司、湊圭司の秘書を勤める園夕子、湊圭司の兄・奥野宏司の一人娘で美術系の大学生の岩渕友香、湊と奥野の祖母である、秋田に住む奥野サワ
とたくさんの視点人物を行き来しながら前半は轢き逃げ事件を中心に、後半はひょんなことからある人物が国政に進出していく様が描かれ、それまで点として出てきた人たちがどんどんつながっていきます。
そして、それらの事件や人物模様の裏側には昔ばなし「猿蟹合戦」を彷彿とさせるようなある復讐劇が隠されているのでした。

公式HPの紹介文も載せておきます。

二年ぶりとなる長編は、閉塞感ある現代社会に一筋の光明となるストーリー。
歌舞伎町でバーテンダーをしていたしがない青年が、ひょんなことから国政選挙に打って出ることに。しかも対抗馬は地盤ガチガチの現職古参議院。
新宿で起きたひき逃げ事件を発端に、心優しき8人の人生が交差する、吉田修一の新境地。今の日本に本当に必要な小説はこれだ!

出てくる映画(ページ数)

今回は1作も出てきませんでした。
この作品も映画化されていませんので、次に進みます。

感想

初読の時にはよくわかっていなかったのですが、今回メモも取りながら再読をして、この話の内容とタイトルとがつながりました。
吉田修一さんの作品として新鮮だったのは長崎だけでなく、東北(ここでは秋田)がたくさん描かれたことです。
場所はもちろん、人物の心情を表す文章などでは方言が多用されるなど丁寧に作られているなと感じました。
出てきた登場人物について感じたことの一つは、純平と朋生のキャラはとても笑えるということです。
湊を脅迫して、もらえるはずのお金をなかなか持ってこない純平にしびれを切らし、朋生が色々と訳を聞くくだり(p.214やp.216あたり)などが笑えました。
また父が捕まり失意の中にいる岩渕友香の心の拠り所となる同級生の男性、山崎颯太はその陽気さが少し世之介っぽいようにも思えました。
今回は珍しく映画が出てこなかったのですが、山下美姫のイメージは「階段を上る時」に出てくるママのイメージと少し重なりました。
平成の世に起こった猿蟹合戦のような復讐劇が、見事に8人の視点から語られた秀逸な作品だったと思います。
 
平成も昔話か天の川

以上で、『平成猿蟹合戦図』の紹介は終わります。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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