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【映画#48】「小さな中国のお針子」『初恋温泉』より

こんにちは、三太です。

自分の周りでもコロナやインフルエンザに罹る人が増えてきました。
色んな意味で大変な状況になりますが、なんとか乗り越えていきたいと思っている今日この頃です。

では、今日は『初恋温泉』に出てきた映画、「小さな中国のお針子」を見ていきます。
『初恋温泉』に出てくる唯一の映画です。
(厳密に言うと、作品名は出てきませんが・・・)

基本情報

監督:ダイ・シージエ
出演者:お針子(周迅)
    ルオ(陳坤)
    マー(劉燁)
    メガネ(王宏偉)
上映時間:1時間50分
公開:2003年

あらすじ

中国の山奥の尾根道を4人の男たちが歩くシーンから物語は始まります。
どうやらその中の2人が再教育というもので都市部から辺境の村に送り込まれた知識青年のようです。
その辺境の村の人たちは、村長をはじめ字が読めません。
また、時計を知らず、ヴァイオリンも知りません。
ようやく知識青年の二人によって教えてもらうという様子です。
この二人の青年の名は、一人は馬(マー)、もう一人はルオと言います。

とんでもない村に来たと思っていた二人はある日、川で遊ぶ女性たちを発見します。
その中にいたのが、「小さなお針子」という名の美しい女性。
3人は一気に距離を縮めます。
お針子は二人の影響を受け、一気に自由に目覚めていきます。
そして、ルオと愛し合います。
この映画では、ある辺境の村の人々と、都会からやってきた知識青年との交流が描かれます。

また、この作品は青年たちが15年後からその当時を振り返る場面も描いています。
そこでは、辺境の村が中国の政策に飲み込まれていく様子も伝わってきます。

設定

・淡い三角関係
・都市部と農村部の格差。(辺境に行くという意味で上京ものの逆)
・「文化大革命」という中国共産党の政治闘争が深く関わる。

感想

フランスの小説とヴァイオリンの音色が印象的な作品でした。
辺境の村の人たちにとっての娯楽は知識青年が語る映画、そして外国の小説です。
「従妹ベット」「赤と黒」「罪と罰」「ゴリオ爺さん」「モンテクリスト伯」・・・
小さなお針子はそれらをルオやマーに語って聞かせてもらう中で、自由というものを知っていきます。
そこからは都市部と村の格差が伝わってきます。
そもそも識字率も高くありません。
村の男たちは肉体労働にひたすら励んでいます。
そういった意味では1970年代の中国の様子も伝わってきました。

また、お針子のお爺さんは「仕立て屋」をしており、だからこそお針子と呼ばれてもいるのですが、このお爺さんは孫娘に本を読ませたくありません。
なぜなら上にも書いたように、本を読むことによって自由を知ってしまうからです。
そんな特権階級の自由を制限しようとする姿も見られます。
ただ、お針子はバルザックの小説などを通じて、結局は自由を知り、村を出ていきます。
そういった点では、小説の持つ力もこの映画は描いていると思います。
私はあまりフランスの小説は読んだことがないので、これを機に一度手に取ってみたいと思いました。

あと、話の本筋とはズレるのですが、15年後を描いているシーンでしっかりルオもマーも15年分年をとっていて、そこをどう撮影したのかはとても気になりました。

バルザック自由を知って冬帽子

その他

ウィキペディアより
→原作はダイ・シージエ監督の自著『バルザックと小さな中国のお針子』

『初恋温泉』内の「小さな中国のお針子」登場シーン

その夜、店を出て、銀座でレイトショーを観た。タイトルは覚えていないが、中国の田舎が舞台になっている映画で、文字の読み書きができないお針子が、読み聞かせてもらったバルザックに影響されて、最後ひとりで都会へ旅立っていく物語だった。

『初恋温泉』(p.35)

これは『初恋温泉』の中の5つある話のうちの1つ目、「初恋温泉」に出てくる一節です。
「初恋温泉」は、妻の彩子から離婚を切り出された夫の重田の視点で語られる話です。
離婚を切り出された翌日、二人は熱海の「蓬莱」という温泉に向かいます。
そこでの出来事とこれまでの二人の関係がパラレルに描かれます。
重田は彩子に幸福な瞬間を見せたい。逆に言うと、調子が悪いところは見せたくない。
彩子は重田が調子が悪い時に力になってあげたい。
二人のちょっとしたズレが決定的な破局へとつながるのです。
そのような話で出て来る「小さな中国のお針子」。
お針子が村から旅立つという点は、重田のもとから旅立つ彩子と共通するかなと感じました。
ただ、重田はタイトルを覚えていないぐらいだったので、おそらくそれほど面白くもなく、けれども、その映画の印象は残っていたということなのかなとも思いました。

吉田修一作品とのつながり

・青年たちが行かされた山は鳳凰山というところで、「紀元1世紀漢の皇帝が愛人の宦官に与えたのが鳳凰山、同性愛についての中国初の記述が出て来る」というナレーションが入り、同性愛の話が出てきています。
・お針子の母は亡くなっています。(吉田修一作品では実の親がいないという設定はよく出てきます)
・上京するのとは逆方向。

以上で、「小さな中国のお針子」については終わります。

それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

画像の出典:Amazon「小さな中国のお針子」

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