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【閑話休題#25】リリー・フランキー『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』

こんにちは、三太です。

5月に入りました。
GW真っ只中ですが今日、明日は登校日です。
この2日間もしっかりと過ごして、そのあとの5連休を満喫するぞと考えている今日この頃です。

では、今回は吉田修一『あの空の下で』のエッセイに出てきた本を取り上げます。

『あの空の下で』には次のような記述がありました。

電話では強がっていたが、きっと心細い思いをしているに違いないと、仕事まで休んでやってきたのに、有り難がられるどころか邪慳にされて、気がつけば、悔しさ紛れに小言ばっかり言っていた。
「あんたねぇ、世の中にはリリー・フランキーさんみたいな母親思いの人もいるのよ。ちょっとは、『東京タワー』見習いなさいよ!」
着いたその夜、見知らぬ土地で心細い母親を置いて、「俺、今夜、サークルのコンパだから」と渋谷に出かけようとしたときには、さすがに我慢できずにそう言った。
「もう面倒くさいな。今夜は元々用があるって電話でも言っただろ。・・・それにね、あの本は親不孝だった息子が反省する本で、母親が『少しは親孝行しろ』って催促するための本じゃないんだよ」
どっちに似たのか、本当に可愛げがない。

『あの空の下で』(p.127)

これは「好奇心」という短編の一節です。
語り手である麻美という母親と、東京で一人暮らしを始めた息子、高志との会話です。

『東京タワー』をはじめは映画だと思ってnoteでも取り上げていたのですが、実はよくよく読むと本だとわかりました。(むしろ読み飛ばしていました…)
ただせっかくなのでその本を読んでみようということで今回取り上げることにします。

あらすじ

本書はボクという語り手がオカンを中心に家族との関わりを綴った作品です。
このボクはおそらくリリー・フランキーさん本人だと思われます。
ボクは福岡県の小倉に生まれます。
兄弟はいないので、オトンとオカンとの三人家族です。
しかし、ボクは物心がつきはじめた頃からオトンとは別居生活をしていて、オカンと二人暮らしでした。
そのためボクとオカンとの結びつきはかなり深いです。
それがタイトルにもつながっていると思われます。
ただ、オトンと全く会っていなかったわけではなく、むしろけっこうな頻度で会っていましたし、オトンの実家に行くこともありました。
そんな三人を中心に、ボクが成長する過程で色んな出来事が起こり、どのように感じ、過ごしていったかが描かれる話です。

文庫の裏表紙にある解説を引用します。

オカン。ボクの一番大切な人。ボクのために自分の人生を生きた人――。四歳のときにオトンと別居、筑豊の小さな炭鉱町で、ボクとオカンは一緒に暮らした。やがてボクは上京し、東京でボロボロの日々。還暦を過ぎたオカンは、ひとりガンと闘っていた。「東京でまた一緒に住もうか?」。ボクが一番恐れていたことが、ぐるぐる近づいて来る――。大切な人との記憶、喪失の悲しみを綴った傑作。

ちなみにこの本は2006年の本屋大賞受賞作です。

感想

タイトルはけっこう有名だったので、どんな話なんだろうと思い読み始めたところ、「意外にけっこうオトンだな」と思っていたのですが、でもやっぱり最後にはこのタイトルがふさわしいと感じました。
この本はボクからオカンへのラブレターみたいなものに思えました。
ただ、かといってオトンがのけものかというとそうでもありません。
オトンは酒乱で、マイペースで、どんな仕事をしているかわからなくて、変わった人物ではあります。
けれども、ボクにとってやはりオトンはオトン。
例えば、オトンが幼いボクのために戦艦を作ってくれるくだりがあります。

誰が見てもボクらが親子に見えた時間だった。そして、ボクがオトンと一緒にいて一番楽しかった時間で、一番うれしかった時間だった。
あと三分を待たずして未完成になったこの戦艦は、今でもボクの手元にある。物をすぐに失くしてしまうボクだけど、この船だけはどの引越しの時でも常にわかる箱の中に入れておいて、どこに住んでいた時にも、すぐそばに置いた。(p.98)

『東京タワー』(p.98)

オトンのこともなんだかんだ言いながら大好きだったのだなと思いました。

作品の終盤、オカンの最後を目前にしてボクが次のように考えます。

“どうせ死ぬ”んじゃない。“どうしても生きる”んだ。

『東京タワー』(p.393)

この言葉は本当に名言だと感じました。
刺さる言葉が随所に出てくるのもこの本の特徴の一つです。

この本のメインキャラはボク、オカン、オトンの3人なのですが、実はその他にもたくさんの人物が出てきます。
そもそもオカンは9人兄弟で、その兄弟がたくさん出てきますし、オカンは人に料理を振る舞うことが大好きで多くの人と料理を通じてつながっていきます。
母子家庭で金銭的に貧しく思えそうなのですが、このような人のつながりが強固にあるので、この話にはお金がないという点での悲壮感はありません。
逆に人のつながりの大事さを考えさせられます。

願はくはオカンオトンと八重桜

その他

本書ではいくつか映画や文学作品が出てきます。
例えば、私がこれまでに吉田修一作品登場映画で紹介した映画である「フラッシュダンス」が出てきました。

どんなくだりで出てくるかというと、ボクの高校時代の後輩にバカボンというあだなの後輩がいて、彼が「フラッシュダンス」を見て、感化され東京に上京してくるというくだりです。

他に文学作品で次のような言葉も出てきます。

“希望とは、もともとあるものだとは言えないし、ないものだとも言えない。それは地上の道のようなものでもある。地上にはもともと道はない。歩くひとが多くなれば、それが道になるものだ”。

『東京タワー』(p.399)

これはオカンが抗ガン剤治療を始めたときに出てくる言葉です。
もちろん出典は魯迅の『故郷』です。
魯迅の『故郷』は中学三年生の教科書に長年掲載されているので、すぐにピンときました。
こういった先行作品群も本作品に彩りを加えていると思います。
 
今回は『あの空の下で』の「好奇心」という短編に出てきた、リリー・フランキー『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』の紹介でした。

図らずも今年の本屋大賞が発表された時期に、2006年の本屋大賞受賞作を読むことができて、なんだか嬉しかったです。

それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

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