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【作品#41】『おかえり横道世之介(続 横道世之介)』

こんにちは、三太です。
 
GWに入りましたね。
毎年4月はなんだかんだ忙しいのですが、今年は特にその忙しさにやられています。
仕事もプライベートも色々と重なってしまいました。
なかなか大変ですが、noteの投稿、そして毎日の1時間読書は継続していきたいと思っている今日この頃です。
 
では、今回は『おかえり横道世之介(続 横道世之介)』を読んでいきます。
単行本の名前は『続 横道世之介』でしたが、文庫化する際に改題されました。

初出年は2019年(2月)です。

中公文庫の『おかえり横道世之介』で読みました。


あらすじ

世之介の24歳から25歳にかけての1年間の物語
世之介はちょうど就職氷河期にぶち当たってしまい、正社員として就職できず、バイトとパチンコで食いつなぐ日々を送っています。
本書では世之介ももちろんですが、むしろそんな世之介と出会う人達に力点を置いて描かれます。
世之介の友達で大手の証券会社に勤めるコモロンこと小諸大輔。
世之介が通うパチンコ屋で偶然出会い、その後床屋でも再会して仲良くなった女性、浜本。
世之介がコモロンのベランダからのぞき見していてきれいだなと思っていたところ、ひょんなことから知り合うことになり、最終的には付き合うまでの関係になった女性、日吉桜子。
桜子の連れ子である、亮太。
そして桜子の父、兄の隼人。
世之介も含め、色んな人が自分の人生を精一杯生きている様が描かれます。

また、前作の『横道世之介』同様、登場人物の未来からの語りも挿入されます。
世之介の24歳から25歳にかけての1年間はおそらく1993年から1994年にかけてで、ここでの未来はその27年後、2020年に東京オリンピックが行われているという設定です。
その未来で日吉良太が色んな登場人物をつなげる役割を担います。

公式HPの紹介文も載せておきます。

バブルの売り手市場に乗り遅れ、バイトとパチンコで食いつなぐこの男。横道世之介、24歳。いわゆる人生のダメな時期にあるのだが、彼の周りには笑顔が絶えない。鮨職人を目指す女友達、大学時代からの親友、美しきヤンママとその息子。そんな人々の思いが交錯する27年後。オリンピックに沸く東京で、小さな奇跡が生まれる。

出てくる映画(ページ数)
①「吉原炎上」(p.12) 

「さっき走っていったの見えたから、座れたのかと思いましたよ」
「取れないよー。・・・あの吉原炎上に横取りされたんだもん」
「吉原炎上?」
「知らない?吉原の花魁たちの映画。ほら、五社英雄監督で、鬼龍院花子とか、陽暉楼とか・・・」
「それは知ってますけど・・・」
「その映画に眉を剃り落とした花魁が出てくるじゃん。知らない?」
「ああ、あだ名ですか」

②「ボンヌフの恋人」
③「ベティ・ブルー」(pp.103-104) 

しばらく、というか、かなり長い間、双眼鏡を動かさずにいると、「あ、世之介も見つけちゃった?」と、コモロンが声をかけてくる。
「ということは、コモロンも?」
「女優さんみたいだよね。覗いてると、映画見ているような気にならない?」
「なるなる」
「あんまり動きのない映画だから、ミニシアター系のヨーロッパ映画」
「だね。シネマライズとか、シネ・ヴィヴァンとかでかかってそうな」
「ボンヌフの恋人とか、ベティ・ブルーとか」
「行ったねえ」
「画面に動きないけど、感情の動きは激しかったねえ」
「ったねえ」 

④「夜をぶっとばせ」(p.142) 

日本各地にヤンキー文化が吹き荒れたのは、世之介がまさに思春期だったころである。『積木くずし』なる大ヒットドラマが生まれ、今では考えられないかもしれないが、中学生だった世之介が週末に友達と観に行く映画が『夜をぶっとばせ』だったのである。
ちなみにこの『夜をぶっとばせ』を簡単に説明すれば、十五歳の主人公の少女が東京近郊にある地方都市の中学校に転校したところから物語は始まる。赤いチリチリの髪、眉毛を剃って、ロングスカートの彼女は、学校では相手にされてなくても、地元の暴走族とはすぐに親しくなるというような話で、不良学生たちからのリンチあり、シンナーあり、保健室でのセックスあり、という凄まじいシーンをこなすこの主役少女を、実際に、喫煙、シンナー、暴走、喧嘩、不純異性交遊など非行を重ねてきた本人が演じているという、リアリティバツグンの作品であった。 

⑤「イージー・ライダー」
⑥「テルマ&ルイーズ」
⑦「キャノンボール」(pp.193-194) 

「無理だよ、無理無理。アメリカで運転なんて無理無理」
もちろん世之介は全力で拒んだのだが、コモロンも引かない。
「大丈夫だって。アメリカは日本と比べて道が倍くらい広いから、絶対にぶつからないって」
「いやいや、車の大きさだって倍じゃん」
と押し問答の末、その夜、コモロンに無理やり観せられたのが、『イージー・ライダー』と『テルマ&ルイーズ』と『キャノンボール』だった。 

今回は7作ありました。
⑥「テルマ&ルイーズ」は既出なので、他6作を見ていきます。 

感想

文庫の帯には「人生のダメな時期、万歳。人生のスランプ、万々歳。」とあったのですが、世之介は人との出会いやつながりがあるので、少なくとも人生の底のようには感じませんでした
あらすじにも書きましたが、世之介というよりも世之介に関わる周りの人達が主人公のように思えました。
コモロン、浜本、桜子、隼人・・・一人一人が人生に向き合っています。
そしてそれを後押ししているのが世之介だと思いました。
もちろん世之介自身も彼らから力を得て前に進んでいきます。
特に世之介が深く関わるのが桜子の家族
この桜子の家族は皆ヤンキー風で、ここら辺が吉田修一さんらしいなと思いました。
吉田修一作品にはそういった少し悪そうな(でも人間として大事な芯を持っている)人達が『長崎乱楽坂』や『国宝』をはじめ繰り返し登場します。

また自分としては映画や過去作とのつながりを感じられるところがいくつもあったので面白かったです。
以下思いつく限り列挙してみます。
・世之介が通う床屋の理容師が刑務所あがりだということ(p.39)→今村昌平監督の映画「うなぎ」の主人公の境遇に似ている。

・英語をしゃべるコモロンについて話すときにエクソシストの緑の液体ネタが出てくる(p.199)→エクソシストも以前とり上げた

・世之介とコモロンとのアメリカ珍道中の話が『あの空の下で』の「踊る大紐育」にそっくり。(マクドナルドやタクシーの乗り逃げや、ニューヨークで一人になるなどの設定などが酷似)

実は『続 横道世之介』が出た時の「小説丸 吉田修一さん『続 横道世之介』」というネット上の記事にこんな話もありました。

桜子に関しては、以前書いた『女たちは二度遊ぶ』という短篇集の『殺したい女』で、あかねという自動車整備工場の娘が出てくるんです。桜子のようなシングルマザーではないんですけれど、父と兄と暮らしているのは一緒。その人物がずっと気になっていて、いつかまた書きたいと思っていました。単純にキャラクターとして好きだったんです。

桜子も元ネタがあったということを吉田修一さんが語っておられます。
もう一つはこれです。

続篇を書いたなかで、"この人が書けた"という達成感があったのは、桜子の兄の隼人ですね。

現在父の工場を手伝う隼人。中学時代、ケンカ相手が運悪く意識障害の寝たきりとなり、以降大人になった今も、隼人は彼の見舞いを欠かさない。

僕(吉田修一 引用者注)が小学五年生の頃、大勢でサイクリングに行って、六年生の男の子が急な坂道を自転車で下って事故を起こし、そういう状態になってしまったんです。直接の友達ではなかったけれど、その後みんなで毎月一回お見舞いに行っていました。そのイメージがずっとあったんです。隼人の場合は、ひとつ違ったら自分がそうなっていたかもしれないからこそ、また思うところもあるはず。そのあたりも書きたかった。『殺したい女』の兄や『悪人』の清水祐一にも通じるんですが、彼らはその場所から動きだせない人なんです。今回、作中の隼人の手紙を書き終えた時、やっぱり自分は彼を大きな登場人物として考えていたんだなと気づきました。あの場所から出たことのない人が、世之介と関わった時間を経て、自分から街を出ていく。それを書けたのはよかったと思います。

隼人が『殺したい女』だけでなく、『悪人』の祐一にも通じる登場人物だったということもわかりました。
村上春樹さんの最新小説ではないですが、ある程度作家生活を送ると、書き直したくなる作品や登場人物が出てくるのかもしれません。(ちなみに川上未映子さんの『乳と卵』と『夏物語』もそういう関係にあると言えそうです)

駘蕩としてベランダをのぞき見る

以上で、『おかえり横道世之介(続 横道世之介)』の紹介は終わります。
自然と周りに人が集まってくる世之介を羨ましく感じました。
きっと周りがそうしたいと思うだけの魅力を世之介が持っているんだと思います。

それでは、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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