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【作品#33】『森は知っている』

こんにちは、三太です。

今週は勤務校で研究授業週間というものが行われました。
特に何か指導案などを準備するというわけではなく、気軽に他の先生方の授業を見学に行けるというようなものです。
自分の当たり前が問い直され、とても勉強となりました。
日々改善しながら授業力を高めていきたいと思っている今日この頃です。
 
では、今回は『森は知っている』を読んでいきます。

初出年は2015年(4月)です。

幻冬舎文庫の『森は知っている』で読みました。


あらすじ

『太陽は動かない』で登場した鷹野一彦シリーズの二作目。
シリーズ二作目では鷹野が産業スパイであるAN通信に入るまでの青春時代が描かれます。
育児放棄を受けた鷹野はAN通信に保護されて育ちます。
施設、風間(AN通信の社員)の住む軽井沢と転々とし、今では南蘭島という島で高校に通う日々。
鷹野以外にも同じような境遇の親友、柳とその弟の寛太と共に過ごしていました。
この3人は徳永というAN通信の社員の監視下にもありました。

鷹野と柳は18歳になると、AN通信に入るかどうかを迫られます。
友達である柳は一足先に18歳となり、AN通信に入るかどうかの岐路に立ち、ある決断をします。
そんな折、鷹野に最終テストの任務が回ってきました。
任務につく中で出会うライバル。
AN通信の中で繰り広げられる騙し合い。

また、鷹野の島での淡い恋愛も描かれ、組織の過酷さも痛感させられます。

公式HPの紹介文も載せておきます。

宿敵デイビッド・キムと初対決!
南の島で智子ばあさんと暮らす17歳の鷹野一彦。転校生の噂話に興じ、初恋に胸を高鳴らせる普通の高校生活だが、その裏では某諜報機関の過酷な訓練を受けている。ある日、同じ境遇の親友・柳が一通の手紙を残して姿を消した。逃亡、裏切り、それとも? その行方を案じながらも、鷹野は訓練の最終テストとなる初ミッションに挑むが……。
産業スパイ“鷹野一彦”シリーズ第2弾!

出てくる映画(ページ数)

今回は1作も出てきませんでした。
本作は『太陽は動かない』と合わせて、映画「太陽は動かない」の原作となっています。
そちらの方は既に見ましたので、次に進みます。
 

感想

AN通信は産業スパイであり、非情な組織ではあるのですが、風間をはじめそこには人間の情がかすかに通っています。
そこがただのスパイものではない面白さだと感じます。
また、この作品は『怒り』の次に書かれた作品であり、モチーフの上で共通したり、似ていたりする部分がいくつか見られます。
例えば、
①柳が知的障害をもつ弟の寛太を心配する様子→槙洋平が知的に遅れをもつ娘の愛子を心配する様子(『怒り』)
②詩織が南の島に転校してくる→泉が南の島に転校してくる(『怒り』)
③高校生が泡盛を飲む→高校生の辰哉が泡盛を飲む(『怒り』)
④詩織はレイプされそうになった過去がある→泉もレイプされそうになった
といったところです。
作家の作品を書かれた順番に読むからこそ見えてきたことかなと思います。
また、水道事業の独占開発権を巡る争いでは、今回も政治家が絡んできて、これは『平成猿蟹合戦図』からの流れだと思いました。

詩織を家に送って別れるときに、後ろ向きに歩く鷹野が描写されます。
鷹野の壮絶な過去を知ると、別れを惜しむこの鷹野の描写も必然だと頷けます。

鷹野は弟を亡くした過去があり、この経験が柳とその弟である寛太に対する思い入れの深さにもつながっているんだと思います。

風間が記者時代、育児放棄された子どもをスパイにしているAN通信の内情を初めて知るくだりがあります。
そこで中馬というAN通信の人物が「子は親と一緒にいるのが一番幸せというマジョリティのルール」に問いを呈します。
ここは吉田修一作品で書かれ続けてきた「実の親の不在」というモチーフと通底するなと感じました。
やはり文学では、いわゆる「普通」に対する問いかけがなされるんだと思いました。

離れ島二人乗りして冬うらら

以上で、『森は知っている』の紹介は終わります。
スパイものではありますが、人間の情が通っている作品でした。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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