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すまじきものは宮仕え? 読書感想『義経じゃないほうの源平合戦』白倉盈太

*タイトル画像は東北の某旅館に飾られていた絵。書籍内容とは関係ありません。

読み始めたら続きが気になって、あっという間に読んでしまった。

源頼朝と義経の間に挟まれた兄弟、源範頼。

2人の間で、脂汗と冷汗の連続。
苦しみながら、源平合戦を生き抜く範頼の目線で物語が進んでいく。

文章が現代語なので分かりやすいし、義経をはじめ登場人物の描写が軽やかでイメージしやすい。続きが気になってどんどん読んでしまった。

描かれるのはタイトル通り「源平合戦」までで、義経が死んだところで物語が終わってしまう。せっかくなら、範頼のその後も読みたかった。

『義経じゃないほうの』とタイトルにあるが、義経は源平合戦のど真ん中にいる。

どうしたって、「そこに義経があらわれた!」的な、合戦の1番のクライマックスを義経が持っていくことになる。
だから「じゃないほう」と言ったって結局は義経なのだが、そんな義経に対する範頼の、憧れ、素直な心の愚痴が、クスッとさせる。

頼朝の底知れない恐ろしさと、スーパー天才キャラの義経。
兄にビビるし弟には呆れるし、ごくごくまともな神経の持ち主(に描かれている)範頼は心底しんどそう。

戦に次ぐ戦で、この時代は出来事だけでも起伏に富んで面白いのに、さらにこれは、なんていうか。

組織の中で生きるわたしにも、ドキッとしてしまう文章が、随所にあらわれる。

たとえば、範頼が「以心伝心」について心の中で義経に対して思うくだり。

たしかに以心伝心は美しい。だが、その美しい関係を保つためには、以心伝心とはほど遠い面倒なやり取りを、日頃から地道に積み重ねなければならないのだ。

鎌倉の頼朝へ、京にいる義経がろくに報告しないことについて範頼が苦言を呈する場面であらわれるこの文章には、「それよね、ほんと」しかない。

もう一つ、範頼から見た、棟梁頼朝の姿。

兄さまは、自分の意見をちゃんと持ちながらも、最後はその意見を引っ込めて上司である自分の意見を立ててくれる部下が好きなのだ。

はるか1000年近くも昔の出来事を舞台にしているのに。

ふっとオフィスで顔を上げてパーテーションの向こうを窺ったときのような、この気持ち。

歴史に名を残す人がいれば、そうでない人もいる。
頭と足では、見えている景色が違う。
そんなちょっと切ない現実。

独特の読後感が魅力的で、この作者の他の作品も読んでみたいと思っている。

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