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映画感想『ナスターシャ』(DVD)1994年公開

原作を読んでいないせいか、5回見てもまだ細部が分からない。
それでも、深淵な世界観と演劇の無限さを感じ、印象に残る作品。

キャストは、坂東玉三郎と、永島敏行。
主な登場人物は3人。うち2人を玉三郎が二役で演じる。
ムイシュキン(坂東玉三郎)とラゴージン(永島敏行)の会話を中心に、
時間も場所も多様に演じ分けて、3人に何が起きたかを表現していく。

*ネタバレを含みます

ストーリー/スタッフ

ストーリー
19世紀後半。人々から“白痴”と呼ばれるムイシュキン公爵は、幼子のように美しく純粋な心を持ち、対照的にラゴージンは、野卑な生命力と激しい欲望と情熱にあふれていた。不思議な運命で知り合うことになった二人は、ぺテルスブルグの退廃したサロンに女王のように君臨するナスターシャの虜になる。

映画は、彼女の苦悩と苦しみをわがことのように感じとることのできるムイシュキンが、彼女に結婚を申し込み、その婚礼が執り行われようとする場面から幕を開ける・・・・・・。

松竹DVD倶楽部 「ナスターシャ」ストーリーより

スタッフ
原作:ドストエフスキーの『白痴』
監督:アンジェイ・ワイダ
脚本:アンジェイ・ワイダ/マチェイ・カルピンスキィ
美術/衣装:クリスチーナ・ザフワトウィッチ
撮影監督:パヴェウ・エデルマン

松竹DVD倶楽部 「ナスターシャ」スタッフ より

舞台的な進行

ムイシュキン公爵(坂東玉三郎)とナスターシャ(坂東玉三郎の二役)の婚礼のシーンから始まる。
身を翻してナスターシャは、列席者の陰にいたラゴージン(永島敏行)に「助けて」と囁く。
ラゴージンは彼女を連れ出す。気遣わしげな表情のまま、残されるムイシュキン。

ラゴージンを訪ねてきたムイシュキン公爵。
ナスターシャはここに居るのかと訊ねると、そこにいるとラゴージンは奥の部屋を示す。
奥を覗いたムイシュキンは、ラゴージンがナスターシャを殺してしまったことを知り、狼狽する。

舞台の映画化というのもあり、進み方が一般的な映画と違う。

ムイシュキンがラゴージンを訪ねてきてからは、もうほとんど物理的な場所の移動がない。
セットが大幅に変わることもないし、カメラに彼らの知人友人が映ることもない。
2人(ナスターシャも含めると3人)の会話によって、その場が列車になったり、あるときはナスターシャの部屋、ラゴージンの父の書斎になる。

そうやって会話が進む中で、3人がそれぞれに向ける思い、起きたことが表現されていく。
あらためて、物語の表現方法というのは幅広いということに驚くし、演劇の力に感動をおぼえる。

玉三郎の二役

玉三郎は、謎めいた絶世の美女ナスターシャと、純真なムイシュキン公爵の二役。

冒頭の婚礼のシーンとラスト以外、会話の中に現れるナスターシャはムイシュキンとラゴージンの回想の形で現れる。

メガネを外してショールを羽織った瞬間、玉三郎はムイシュキンからナスターシャに切り替わる。
多少、メイクで変化をつけているが、カツラがなくても、ドレスがなくても、それは間違いなくナスターシャ。

玉三郎の作品を見ると、この人の世界はなんと果てしなく高く広く美しいのだろう、と何度でも驚く。
演じるというより、なめらかにひらりと、その世界へ入っていく。

楊貴妃、アマテラス、美女(海神別荘)、富姫(天守物語)。
歌舞伎舞踊でも『鷺娘』や娘道成寺など、さまざまな舞台を見る機会に恵まれて、つくづくそう思う。
その役がヒトでなくても、この世のものでなくても、この人の手にかかれば、まるで以前から知っていたもののような説得力をもって目の前に現れるのだ。

一つの作品の中に、さまざまな姿が登場するという点では、『京鹿子娘道成寺』が近いかもしれないが、この作品は移動する役の変化がもっと大きい。
DVDではあるが、至近距離でまじまじと、神秘的と言ってもいいような玉三郎の芝居を味わうことができる。

玉三郎に感想が偏ってしまった。
この作品の永島敏行は、とても好きだ。
他のテレビドラマや映画では、エネルギーが強すぎる感じがあるのだが、
ここでは玉三郎のムイシュキンと大きさがとてもよく釣り合っている。

原作を読みたいと思いつつ…

この作品で、何度も見てしまう場面がある。

ムイシュキンが、死刑について話す場面だ。

死刑について、これほど恐ろしく、説得力のあるセリフは他に思い出せない。
最初に見たのはおそらく20年ほど前(当時まだVHS)だったはずだ。
今でも、この部分に感じる衝撃と感嘆は変わらない。

玉三郎が演じるムイシュキンは、繊細で真摯な声と仕草で、切々と、死刑の恐ろしい側面、哀しみを訴えかける。
ここを見ると、もう心はムイシュキンを信じて、とても好きになってしまう。

死刑に関する部分も含め、内容もとても面白くて、原作を読みたくなるのだが、まだ着手できずにいる…。

*タイトル画像はDVD表紙と裏面

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