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1年プランで悔いなし_(配信)新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』

*ネタバレを含みます

🎥配信には 期間「1年」がある

DMMで配信されている新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐つきのつるぎえにしのきりのは』。
舞台の上演は2023年7月。DVD&Blu-rayの発売は、いよいよ来月8月。

『刀剣乱舞 』の配信には、7日間のほか、「1年間」というプランがある。 
7日間で1700円。1年だと、3300円。
繰り返し長期間見れば、7日プランよりもお得。迷ったけど、面白いはずと(尾上右近を)信じて「1年」で購入。

🎥刀剣乱舞を知らなくても何とかなる

刀が擬人化されたゲームが原作、ということ、舞台化もされていて大人気、ということしか知らないまま、視聴スタート。

ときは西暦2205年。
刀剣男士(尾上松也たち)は、刀の付喪神つくもがみである。
歴史を書き換えようとする時間遡行軍じかんそこうぐんが「永禄の変」の時代に出現したため、これを討ちに時代を遡る。
しかし、三日月宗近(尾上松也)は憂鬱。なぜなら「永禄の変」で殺されるのは、かつて仕えた足利義輝(尾上右近)だから。
歴史を変えさせないことが使命のため、かつての主君が「歴史どおりに」討たれるよう、宗近たちは動くことになる…。

ネタバレ気味のあらすじ

主要キャストのほとんどが2役以上を演じている。

中村莟玉はお姫さまと、凛々しい刀(髭切)という、だいぶ違う2つのキャラクタを担当。
紅梅姫は、のちの将軍となる足利義輝の妹としては軽い気もするが、刀「髭切」はうっとりするような美しさだ。

かっ、カッコ可愛い…。

金髪のかつらがこんなに嫌味なく上品に似合う人いる!? 公式サイトの写真よりも、動く髭切のほうが魅力的。

歌舞伎美人より。写真よりも動いてるときが数十倍いい。

中村鷹之資の、刀「同田貫どうだぬき」と、松永弾正の息子久直ひさなおがとてもいい。
この人は小柄なのだが、いつもびっくりするほど力強く伸びやかな芝居をする。
今回も体幹の良さに惚れ惚れするし、セリフといい目線といい、すみずみまで気が届いているのが伝わってくる。

久直は、命をかけて父に「主殺し」を進言する。
松永弾正を演じる中村梅玉との緊迫したやりとり、親子の情を見せる難しい役どころであるので、鷹之資がここに配役された理由がわかる。自害の場面も見ごたえ充分。

中村鷹之資の2役。どちらも素晴らしい。画像は歌舞伎美人の相関図から

新派俳優の河合雪之丞が小烏丸。
以前は3代目市川猿之助のもとで歌舞伎役者市川春猿として活躍していたので、歌舞伎らしい姿を久しぶりに観られるのが嬉しい。
妖しい美しさがあり、なおかつ、途中で「古刀ことうゆえ、許せ」なんて、実際(1970年生まれ)と原作をうまく合わせた部分に可愛らしさが覗く。

写真は歌舞伎美人より。モダンで妖艶な空気が独特

落ち着いた芝居で、想像以上の安定感があるのが、悪役を演じる、澤村國矢市川蔦之助だ。

画像は歌舞伎美人の相関図より。2人のバランスが実にちょうどいい。

果心居士と雲居姫に化け、術を弄して足利義輝(尾上右近)の歓心を買うと、ほかの重臣を陥れて排除していく。悪役として濃すぎず薄すぎずバランスがいい。
この2人は物語冒頭の、刀鍛冶の場面でも登場している。

登場人物が多くて、ストーリーを追いながらキャラを理解できるか心配だったけども、大丈夫。
新作歌舞伎らしい、「なんか見たことないやつ出てきたッ!」ってアクションや怪物もありつつ、ベースは歌舞伎という安心感もあって、見やすい。

🎥音と映像の美、迫力の後半

ツケ打ち、見得、義太夫など歌舞伎で馴染のある音と、現代風の音がバランスよく入っていて風情がある。

足利義輝が最期を迎える直前の場面、歌舞伎だと大薩摩が出るような雰囲気で、薩摩琵琶が演奏される。これだけで、すでに半分くらいは元が取れた気がする。

ブルーの幕が振り下ろされて、ジャンジャンジャン…と激しく琵琶が掻き鳴らされる。
力強くも物悲しい琵琶の響きと、歌声の独特のこぶし。
背景は無地の幕ひとつ、演者はたった一人なのに、伴奏と旋律と情景(物音)と語りによって、激しい戦いと、義輝の悲しい行く末の予感が見事に立ちあらわれる。

『耳なし芳一』で、芳一の語りに平家の幽霊が啜り泣く気持ちがよく分かる。
古くから語りが持つ、鎮魂を強烈に感じる。

薩摩琵琶が終わって幕が払われると、いよいよ物語はクライマックス。

立ち廻りは、捕り方が階段状になっている狭いスペースで三点倒立したり、大人数で派手な階段落ちもあり。下から見上げるようなカメラアングルが効果的。

妖術が解けて足利義輝(尾上右近)は元の心に戻るが、彼の死という歴史を守るため、宗近(尾上松也)は義輝を斬る。

2人の斬り合いのシーンはセリフがなく、音楽の中で見せる。
滝に面した崖にいる2人を、廻り舞台を全部使って360度ぐるりと見せる様子は、滝のそばをドローンで空中撮影しているみたいな迫力が楽しめる。

しかし義輝、だいぶ斬られるね…。
宗近は名刀のはずなのに、3太刀ぐらい浴びせても、まだ死なない。

廻り舞台を効果的に使った立ち廻り。画像は歌舞伎美人より

義輝の最期は、碇知盛いかりとももり的な演出で、刀を残して滝へ背中から落ちる右近の身体の形の良さ。

けっこうな速度というか勢いで落下していく。
あとでトークを聞いたら、衣裳の鎧が「信じられないくらい重かった」と右近は話していたので、そのせいで加速があったのかもしれない。

三日月宗近を尾上松也が演じている。

主役なのだけど最初から最後まで、宗近は憂鬱と葛藤。抑えに抑えた芝居が続く。ずっと「忍耐」の主役って、すごく難しいと思う。
義輝を斬ったあとの虚しさと悲しみの静かな思い入れといい、発散する場面がなくてもストーリーを引っ張っていく力は、さすがだと感じた。

ラストは松永弾正(中村梅玉)による謀反への詫びの独白と、6振りの刀が元の世界に戻るくだりがあり、渡り台詞的な形で極まって、幕になる。

「将軍殺し」を背負う松永弾正に、人間国宝の中村梅玉が出ているのは大きい。
梅玉の、義経とか『鎌倉三代記』の三浦之助といった高貴な役、世話物だったら『籠釣瓶』の栄之丞みたいな役がわたしは好き。

1946年生まれ。
歌舞伎役者ってすごい人だらけなんだけども、75歳を越えて、新作歌舞伎でセリフ量も多く、忠義の中で謀反を引き受ける松永弾正役を、この人らしい清涼感全開でこなす姿にますます惚れた。

我が子の命を賭した説得に、苦しい決断をする松永弾正(梅玉、右)。画像は歌舞伎美人より

🎥最後に

「1年」での配信購入、大正解の予感。尾上右近を信じてよかった(謎の信仰)。

歌舞伎は実際の舞台で観る良さもあり、配信(映像)で見る良さもある。
配信は、たとえば休憩が入らないで観られるとか、通常の客席では見られないアングルとか、いまのセリフ聞き逃したから10秒戻そうとか。

想像以上に楽しかった新作歌舞伎『刀剣乱舞』。1年分、見まくって、もしも続編があったら…また配信の1年プラン買います!(劇場行かないんかい)

シネマ歌舞伎 刀剣乱舞 月刀剣縁桐 [Blu-ray2枚組+CD]は、13,200円(税込)らしい。

長文にお付き合いくださって、ありがとうございました。

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