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春のような温かさがいつもある学校に… 自分にうそをつかない姿は、周りの人の感じて動く力を引き出すのだね 〜心の宝物95

🌷小さな机を小走りに


コロナ機の学校

 この年は、感染予防のために、密集や、異学年の交わりを伴う多くの活動を制限せざるを得ませんでした。「なかよし活動」と言われる、異学年交流の活動もその一つでした。


 しかし、6年生が、教室等1年生の分担場所で、協働しながら意味や方法を教える掃除だけは継続していました。

 尊敬、愛着、いたわり、折り合い。最上級生と最下級生が共に働く時間は、両者にとって、大きな学びと気づきの機会となると確信していたからです。


 ある日の掃除の時間、1年生の教室に、6年生の彼女の姿がありました。

背筋を美しく伸ばし、てきぱきと机を運んでいました。


 6年生には小さな机でも、1年生には大変な重量です。大変さと、優しい6年生への甘えで、しばしば手も足も止めておしゃべりを始めてしまいます。そんな小さな子たちを叱ることもたしなめることもなく、彼女は黙々と、小走りになるほど次から次へと懸命に机を運びます。


🌷真実に生きる姿は、周囲の人の、感じて動く力を引き出すのだね


 6年生の彼女は、決して大きな声でリーダーシップを発揮するタイプではありません。

 しかし、心の内に自分の判断軸をもち、周囲に流されず、自身の信念や判断に従って行動できる人でした。


 一斉休校が継続中だった4月、感染症の急速な広がりと、医療機関の逼迫が全国的に喫緊の課題でした。そこで、この市では、平日の朝から、学童保育が開設されるまでの空白時間、働く医療関係の保護者のために、学校での子どもの預かりを実施しました。急遽決まったことでマニュアルなどあるはずもなく、教頭先生を中心に時間割を作成し、職員が交代で子どもたちに対応しました。私も読み聞かせ等で、何コマか担当しました。

 ある日、大好きなひろすけ絵本から『ないたあかおに』を読み聞かせた後のことでした。私自身のこの本との出会いや、それぞれが抱いた感想について、子どもたちと話し合っていたとき、彼女から次のような質問を受けました。


「校長先生は、この話の中の「あおおに」のような行動ができますか」


 本質を突いた鋭い質問にどきりとしました。そうして、決して軽々しく答えてはいけないと自戒しました。静かでしたが、彼女の問いからは、彼女自身が抱える切実さのようなものが伝わってきたからです。


「とても深い問いだと思います。簡単には答えられないので、少し時間をもらえますか。必ずきちんと答えると約束します」

 微笑んでうなずいてくれた表情に安堵しつつ、彼女が心の内深くで大切にしている真実を垣間見た気がしました。

 熟考し、言葉を選んで彼女に手紙の形で答えました。


 1年生たちは、彼女の背中から伝わる思いに引っ張られるように、はじめは賑やかに、次第に真剣に、彼女の後を追って取り組み始めました。


 あなたが大切にしていること、それは人にも自分にも決してうそをつかないことだと思います。真実に生きること、それを生活の中で生き方として示すことは決して簡単なことではありません。しかし、あの読み聞かせのときにも、今日の掃除の時間にも、あなたの姿からあなたの生き方が伝わりました。

 そんなあなたから私も、1年生たちも、大切な何かを感じて、一歩を踏み出し、成長する力をもらいました。


あなたのおかげです。ありがとう。


そんな思いでお伝えしました。


かけがえのないあなたへ。

素敵なきらめきをありがとう。

出会ってくれてありがとう。

生まれてきてくれてありがとう。

どうか、ありのままで。

どうか、幸せで。

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