海と終末、懐かしい思い出の映画「雨を告げる漂流団地」

こんにちは、映画好きのImoです。やっとゴールデンウィークを越して本格的に暖かくなってきましたね。あっという間に夏になることを今は想像しています。その間に梅雨がくるのですが、夏や雨というワードにぴったりのアニメ映画をネトフリで見たんですよ。今回は「雨を告げる漂流団地」を前半ネタバレなしで、後半ネタバレありで自由に語っていこうと思います。

あらすじ

この映画がどんな話かって言うと、子どもが団地に乗って海の上でサバイバルする話なんですよ。主人公の航祐たち小学生が解体中の団地に忍び込むと、突然のスコールと共に団地ごと海の上に迷い込んじゃうんですね。そんな状況に立たされたキャラクターがいて、祖父の死をきっかけに気まずくなった幼馴染の夏芽とか、先頭切ってやんちゃしたがる太志とか、親が裕福そうで可愛くなったスネ夫みたいな令依菜とか合わせて六人のよく遊ぶメンバーに加えて団地で突然出会った謎の少年、のっぽくんの七人。そして迷い込んだ海は廃墟となった様々な建物が流れてくる不思議な海で、この映画はそこでの冒険を通して主人公たちが自分の思い出に向き合って成長する話なんです。

シンプルに自分の評価をつたえるならすごく面白いし、見たあとにさわやかな気分になります。一番の作品の魅力はやっぱり世界観でしょう。夏の海というだけでワクワクする舞台ですが、作品通してずっと周りが延々と広がる海なんですよ。文明を感じさせない自然そのものの海が広がる景色の中での冒険ってのが楽しいし、ボロボロで苔むした廃墟を巡るっていう面もあるわけです。海上サバイバル+廃墟巡りってだけでわかる人にはすごく魅力的なんじゃないかなと思うんです。しかもそこに夏休みの小学生だけの、大人は知らない冒険という筋書き。この情報だけでも多少の欠点があっても許せちゃうんじゃないでしょうか。

そして単なる雰囲気映画でもないのがこの映画の優れたところなんです。ストーリーのメインとなるのがのっぽくんの正体と航祐と夏芽の関係なんですけど、前者はネタバレ防止のため控えるとして後者は少し触れておきたいです。公式サイトのあらすじだと主人公の祖父の死をきっかけに気まずくなったという情報しかわからない二人の関係ですが、夏芽の情報を捕捉して解像度を上げましょう。

夏芽は幼い頃に両親が離婚しており、そのことが原因で自分に素直になれず、我慢してしまう子になっていて、いわゆるアダルトチルドレンになっちゃってるんですね。航祐のことを弟のように扱ったり、そういうシーンを入れて夏芽が子どもらしく人に甘えることができない様子が見受けられるんですよ。そんな夏芽が映画を通してどうなっていくのか、そして幼馴染として航祐がどう接していくのか、二人の気まずさがどう解消されるのか。この辺りはストーリーで注目していくと楽しめますね。結構じれったくなるぐらい二人の関係の気まずさが続いて、もどかしい気持ちを抱えながら見ることになるんだけど、最終的に決めるとこはばっちり決めてすっきりさせてくれるのでカタルシスが十分にあるんじゃないかなって思います。

もう一つこの映画のストーリーの良さを語るなら、懐かしさというところかと思います。小学校の頃に行った市民プールとか、遊園地とか、そういう懐かしくてローカルな思い出の場所って誰しも持ってると思うんですけど、それがガッツリ今回のテーマになってます。自分も映画を見ながら昔親に連れてってもらった場所を思い出したりしたので、そういう場所を思い浮かべながら見るとより入り込めますね。

おおよそこんな感じで雰囲気よし、ストーリーよしといい作品であると言えます。なのでぜひ見てみてください。自分はやっぱり海の上に浮かぶ廃墟が終末感あって、とても気に入っているのでそういう趣味がある人にはお勧めだし、子どもの頃の思い出を振り返るいいきっかけにもなるので多くの大人に見てほしいし、なんなら親子にも見てほしいですね。

そんな感じでプレゼンを終了します。


ネタバレ


まずびっくりしたのが結構過酷でしたよね、サバイバルが。終盤で珠理が頭に怪我をして血を流したあたりでゾッとするんですよ。あーこの映画ここまでやるんだなと。怪我人を看病しながらなんとか食糧を保ち生き続ける懸命なキャラクターたちをみていると、この映画は立派にサバイバルしてましたね。航祐がロープ伝って市民プールに飛び移るところとか普通に死んでもおかしくない場面がまぁまぁあったりしてハラハラするんですよ。コンプラ的な規制が厳しいイメージがある現在のエンタメから考えるとハードな描写もしっかりやってくれるのは驚きますがうれしくもあります。

そんなこの映画のメインの一つである、夏芽の苦悩もこの映画はしっかりと描写してくれてました。プレゼンでも話したんですけどまぁかなりじれったい場面が多いですね。2,3回くらい和解して腹の内を話せそうな場面があったものの航祐も夏芽も自分の気持ちになかなか自覚できないし、自覚しても言葉がうまくだせてなかったじゃないですか。多分ここって作品によっては和解を躊躇するのは一回だけで割とすぐ打ち解けさせちゃうんじゃないかなって感じもします。まぁでもそういう作品っておそらく後半にまた別の困難を用意していたりするんでしょうね。この映画の中心のテーマってあくまで夏芽の家族に対するコンプレックスで、それがおじいちゃんや団地に対する未練だったり、航祐との気まずさだったり、お母さんとの関係だったりすべてにつながってるわけで。なので簡単には解決させずに作品通してずっと夏芽と航祐には悩ませ続けたんでしょう。だからこそ終盤に我慢が効かなくなり、感情のままに叫ぶ二人の言葉が胸に響きますね。

現在のエンタメってますますテンポの速さを求められているし、視聴者ってじれったさみたいなのを嫌っているようなイメージがあります。それに反して現実ってそんなテンポよくいかないことが多かったりしますよね。なんでもかんでもすぐに解決していく合理的展開って気持ちいいけど、現実だとそれって超有能な人間にしかできないわけです。だから作品のクオリティのためにリアリティを追及して、キャラクターの問題解決のテンポを一般人に合わせると、視聴者はそれをテンポが悪いと感じ離れるというジレンマがあったりするんじゃないかなと思うんです。この映画で言えば航祐がなかなか夏芽にかける言葉が見つからないのってかなりリアルだなぁと感じるわけですよ。でも僕も感じていたようにじれったくもあるわけですよ。多分このじれったさって画面という第四の壁があって岡目八目で彼らのやり取りを見てるからなんじゃないかなって思うんです。彼らと同じような状況に自分の友人が陥っていたらもう少し寛容になれるんじゃないかなぁとも思います。要するにせっかちになりがちな視聴者の前で、あえてコンプレックスの解決をリアルに時間をかけてじれったいくらいに描写しているこの映画がすごいなと思ったわけなんですね。その一方で冒険のハラハラやずとまよの挿入歌やワクワクするシーンなんかで、テンポの悪さとバランスもとれてるのかなぁと感じます。

夏芽の未練の対象の一つである団地や、様々な場所についても触れておきたいです。

のっぽくんの正体は団地そのものでした。近頃は擬人化はありふれてますが、無機物の擬人化、それも有名な建物でもなくローカルな建物たちを擬人化してストーリーに織り込んだのが珍しく感じますね。僕は序盤、あの海の世界は、いろんな次元の人間が迷い込む空間だと思っていて、のっぽくんはおじいちゃんなんじゃないかと推測していました。でもその推測がありがちなストーリーで、作品が意図していたかわかりませんがミスリードされてしまいましたね。

場所の擬人化という種明かしまで、結構ちゃんと伏線が貼られていて、プールの時に誰かいそうな雰囲気を出していたりとかするんですよ。あの時はなんだ夏芽かーって感じで整合性を持たせてましたが、今思うとあの時プールくんかプールちゃんがいたんでしょうね。その答え合わせかのように終盤に観覧車の子が出てきました。こういうところにこの映画のストーリー作りの丁寧さを感じます。観覧車の子と令依菜の絡みが急な割には心温まるシーンになっていてかなり好きな場面です。見た目は少女でも長年多くの子どもたちがやってくるのを見てきた彼女が醸し出す母性がいいですね。令依菜と彼女の会話は第二の親子のようでもあり、歳の離れた友達のようでもあり、二人にしかない特別な距離感のように感じます。

個人的にはのっぽくんと夏芽たちの絡みにもこれくらいの近さが欲しかった気がします。のっぽくんの正体が明かされてなかったので仕方ない気もしますが、寡黙なキャラクターも相まって令依菜と観覧車の子のような特別感がもう少し欲しいなと思いました。まぁでもここは個人差ありそうですね。

愛着ある場所、特別な思い出、そこにまつわる未練、そこから始まって最終的に悲しみやトラウマを克服し成長して、少し大人になって帰ってくる。そんなストーリーってやっぱり何度見てもいいものですね。そこにこの映画だから味わえる世界観があってユニークな映像体験になっています。この映画を見た後は、いろんな場所に誰かの思い出があることを考えるし、いろんな場所の化身の姿を想像したくなりますね。すごく気に入った映画でした。

以上で今回の感想を終わります。
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ではまた。

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