LIFULLのコーポレートフォント「LIFULL Font」のデザイン
こんにちは。
LIFULLでアートディレクターをしている三宅です。LIFULLのブランドデザインのツールの制作や新規事業領域のサービスデザイン、R&D領域のプロジェクトなどを担当しています。
この記事では、制作に携わったLIFULLのコーポレートフォントである「LIFULL Font」のデザインについてご紹介したいと思います。
はじめに:コーポレートフォントの目的と役割
コーポレートフォントとは、企業が優先的に使用するフォントとして設定した特定のフォントのことです。コーポレートフォントを利用する目的は、フォントによって社内外に一貫性を持たせた企業のアイデンティティを表現することで、最小単位のブランディングを実行し、ブランドイメージを統一することです。
世界の潮流として、AppleやGoogle、IBM、SONY、Airbnb、Rakutenなどグローバルに事業を展開している企業はオリジナルのコーポレートフォントを開発し保有しています。それぞれの企業のブランドらしさがうまくフォントの造形に落とし込まれています。
LIFULL Fontについて
さて、本題のLIFULL Fontについてのご紹介です。LIFULL Fontは、LIFULLの名刺や会社案内、コーポレートサイト、広告、社内資料などプリント、デジタル領域問わず、様々な箇所で利用されています。またコーポレートロゴやサービスロゴなどにも利用されており、共通のフォントファミリーを利用することがLIFULLにとって強力なアイデンティティとなっています。
LIFULL Fontには、LIFULL FontとLIFULL Font Monoの2種類のファミリーがあります。LIFULL Fontは、AからZ、数字、約物、記号が揃い、Heavy、Extra Bold、Bold、Medium、Regular、Lightの6ウェイトによって幅広い表現が可能となっているフォントファミリーです。
LIFULL Font Monoは、表組みやグラフの表示など数字同士を比較しやすくするために、0~9までの数字の字幅を等幅になるように設計されたフォントです。こちらは、Bold、Medium、Regularの3ウェイトのフォントファミリーです。
2つのフォントファミリーを利用することで、誰もがLIFULLらしい表現ができる唯一無二のフォントとなっています。
LIFULL Fontが生まれた背景について
LIFULL Fontは、2017年4月、社名をNEXTからLIFULLへ変更した際に、ロゴとともにその原型が制作されました。ロゴ作成の背景、目的など詳細な情報は以下のサイトからご確認ください。
https://design.lifull.com/work/00001_branddesign/
ロゴ作成と同時にできたフォントが、現状のLIFULL FontのHeavyウェイトにあたります。LIFULL FontのHeavyウェイトをベースに字形の調整やウェイトの拡充などを行い、現状の6ウェイトのフォントファミリーとなりました。フォントの開発は、社内のデザインチームのみで開発しており、オリジナルのコーポレートフォントを社内のみで制作しているのは特異な例だと感じます。LIFULL Fontの開発プロセスに関しては別の機会にまとめたいと思います。
LIFULL Fontの特徴
LIFULL Fontは、黄金比のグリッドをベースに制作されたジオメトリックなシェイプと均一なストローク、丸みのあるコーナーが特徴的なフォントです。中性的な見栄えにこだわりながら、どのウェイトでも「やさしさ」が感じられ、ウェイトによって「力強さ」や「繊細さ」など一人ひとりに寄り添う姿勢が表現できるLIFULLらしさが詰まったフォントです。
形状に関しては、ロゴ作成時に利用されたグリッドとHeavyの各キャラクタのストロークを元に、どのウェイトでも一つ一つのキャラクターの印象が揃うように設計されています。
ここで小話ですが、どのキャラクタも愛情を注いで制作しているため、優劣はないのですが、個人的にグッと来ているキャラクタを紹介します。
それが大文字の「U」です。LIFULLのコーポレートロゴにも利用されていますが、他の字形と比べるとやや幅広に設計されています。この「U」をグリッドに合わせた設計にすると他のジオメトリックフォントと変わらないものになってしまうと感じます。違うロジックを加えることで、他にはない特徴を作れていると思います。
これは主観ですが、「U」を見てみると懐の広く、多様な価値観や考えを受け入れるLIFULLのブランドとの親和性が高いキャラクタだと感じます。字形調整やウェイト展開する際に、この「U」の幅広の特徴をどう活かして設計するかは、何度も議論、検証を繰り返しました。
丸みのあるコーナーに関しては、各キャラクタ、ウェイトごとに箇所によって丸みを変えているため、どこにどの程度丸みを持たせるかをキャラクタ、ウェイトごとに検証して設計しています。基礎となるHeavyは、ストロークに太さがあるので、丸みも強調されますが、RegularやLightなどの細いストロークのものでも同様に同じ印象を与えられるか、さまざまな丸みのパターンを作り、Webやプリントでフォントサイズを変えて検証し、決定しています。
この丸みのあるコーナーがあることで、LIFULL Fontの特徴的なやさしさや柔和な印象を感じるフォントになっています。
LIFULL Fontを利用するカルチャーづくりへ
LIFULL Fontは、LIFULL、LIFULLのグループ会社の従業員のマシンにインストールされています。LIFULLの従業員一人ひとりが社内ツールや営業資料、サービスなどさまざまなシーンでLIFULL Fontを利用しています。
フォントを全社配布してからフォント利用状況に関するアンケートを行ったところ、フォント利用に関する難易度やソフトウェア、利用シーンにおいて課題はあるものの、「フォントを使うだけで洗練されカッコ良い」「テンションが上がる」「統一感を担保することができる」「フォント選びに迷わなくてすみ、制作スピードの担保につながる」「社内資料として使用されているだけでも、ブランド形成の大きな部分を担っていると感じる」「丸いフォントの形が読む人を選ばず、安心感や和やかな印象を覚え、個人的に大好きなフォントです」など、デザイナーに限らず、従業員全ての人がフォントを利用することの価値を感じています。
フォントを効果的に利用するという観点だと、デザイナーの方が文字を組むスキルは高くなりますが、デザイナーだけでなく、社内のより多くの人がフォントを正しく利用できるような環境を構築することも重要だと考えています。
LIFULL Fontを全社配布した際に、フォントについての説明資料やインストールの方法などをセットで配布し、利用することへのハードルをなるべく下げ、誰もが使えるフォントであることを伝えてきました。直近ではフォントの情報に加え、社内の利用事例をまとめたイントラサイトの制作を行っています。
デザイン職以外の人が、フォントに対して利用価値を感じる機会は少ないかもしれませんが、フォントに対して苦手意識を持たず、正しくフォントを利用できるようにフォローしていくというのも利用する文化を作る上で大切だと感じます。
さいごに
コーポレートフォントはブランドの世界観を表現し形作る上で、誰もが利用できる最小単位のツールです。フォントを利用することで、統一感、一体感を醸成すると共に、フォントを正しく、効果的に利用することで、ブランドの価値構築にも繋がっていくと思います。
クリエイティブ本部
デザイン部 ブランドデザインユニット
シニアアートディレクター
三宅 太門
2018年LIFULLに入社。LIFULLのブランドデザインの基盤となるブランドデザインガイドラインやLIFULL Font Familyの開発から自社サイトや新規事業領域のサービスのアートディレクションなど、一貫したブランド体験の構築を目指したデザインを担当しています。(2022年9月時点)