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Lesson 7: 説得の目的①

では、上から順に設計シートを見ていきましょう。まずは説得の目的からです。これは設計の最初に行うこと、つまり、説得プロセスのスタート地点になります。
このセクションは説得プロセス全体で最も重要です。ここが肝ですのでしっかり押さえてください。

では始めましょう。

タイトル

とりあえず、シートの最上部にタイトルをつけておきましょう。これがないと識別しにくいですからね。

この時点では、タイトルは仮のもので構いません。「XX会議」、「XXの報告会」など、思いついたものを書いておいてください。シートを埋める過程でより適切なタイトルを思いついたら、適宜変更しましょう。

ちなみに、書籍やセミナーなどの場合は、正式タイトルは最重要と言っても過言ではありません。タイトルで受け手の興味を引かないと、その先に進んでもらえないですからね。そのようなケースでは、正式タイトルは時間をかけて考えてください。

会議の場合は、タイトルは特に重要ではありません。仮でつけたタイトルをそのまま正式タイトルにしても特に問題はないでしょう。

説得の目的

ここからが本題です。説得の目的を明らかにしていきましょう。

説得プロセスは、その目的を明確にするところから始まります。既に決めたとおり、私たちの目的は説得の成功ですが、このままでは曖昧すぎますよね。何をもって「説得の成功」とするのかを具体化しておかなければ、これから何を頑張ればいいのか分かりません。

ただ、既に少しだけ具体化できています。説得の成功とは、主張に「イエス」と言ってもらうことでしたね。

設計シートを記入する際には、この「主張に『イエス』と言ってもらう」という目的を更に具体化します。つまり、あなたはこれからどういう主張をするつもりで、それに「イエス」と言ってもらうとは具体的にどういうことなのかを明確にするのです。常にここから説得プロセスを始めましょう。

目的を具体化するところから、説得プロセスは始まる

今回のケースでは、「関西支部の売上回復施策の内容・予算を承認してもらう」ことが説得の目的になります(一番下の行)。「主張に『イエス』と言ってもらう」より、ずっと具体的になっていますよね。

説得の目的を具体化する方法

では、説得の目的を具体化するには、何をすればよいのでしょう? 

答えはシンプルで、シートの上側を記入していくだけです。つまり、説得の目的を具体化するためには、問題と論点を明確にします。この2つこそが説得の起点であり、説得の目的はここから具体化されます。

なお、シートには「主張」というセクションもありますが、ここはオマケです。詳しくは後述しますが、ここは設計の段階で具体的な内容が記入できなくても問題ありません。記入例にも「現時点では不明」と書いてありますよね。とにかく、まずは問題と論点です。

ということで、この2つを掘り下げていきましょう。

問題と論点

早速ですが、問題と論点とは何か、それが説得とどのように関係するのかを、以下のスライドにまとめてあります。

順に見ていきましょう。

問題

まずは「問題」から始めましょう。

問題とは、「ゴールとギャップのある現状」のことです。スライドを見ると、ゴールと現状にギャップがありますよね。

これはいわゆる「問題解決」における「問題」の定義であり、あなたが普段使っている「問題」の意味とは大きく異なるでしょう。ただ、形式ばった定義は気にしなくて大丈夫です。要するに、問題とは不満・欲求のことです。具体的には、以下の2パターンのどちらかです。

  • Xという良くないことが起きている/Xをもっと良くしたい

    • 売上が減っている

    • 世の中がすっかり様変わりしてしまい、これまでのビジネスが通用しなくなっている

    • お客様が支払いをしなくても済むようにしたい

  • Xが分からない/Xを知りたい

    • PowerPointでコピーをするショートカットが分からない

    • 縄文時代の日本人の寿命を知りたい

    • 1日に3食を食べるべき理由が分からない

どれも、不満か欲求ですよね。「興味・関心」と言い換えてもいいでしょう。このようなものを、専門用語で「問題」と呼んでいるだけです。本書でも文脈に応じて「欲求」や「興味」などの言葉も使いますが、これらはすべて本質的には同じことを意味しています。

問題や問題解決に関して更に詳しく知りたい人は、以下のリンクも参考にしてください。

説得の根本的な起点

説得するとき、その根本には受け手の問題が必要です。言い換えると、説得が成立するためには、受け手が何らかの不満・欲求を有していなければなりません。

これは受け手の立場で考えると明らかです。たとえば、あなたはいま本書を読んでいる(=私から説得されている)わけですが、あなたが資料作成やプレゼンにまったく興味を持っていないということがありえるでしょうか? 普通に考えてありえません。興味がないなら、他のことに時間を使いますよね。

つまり、問題を抱えていない(=興味のない)テーマに関する説得を受ける人はいないのです。私もそんなことはしませんし、あなたもそうでしょう。

こうなる理由はシンプルで、説得されることにもコストがかかるからです。文書を読むにしてもプレゼンを聞くにしても、時間は確実にかかりますし、場合によってはお金もかかりますよね。受け手がそのようなコストを払うためには、「自分の抱えている問題が解決されそうだ」という期待が必要です。

もちろん、例外はあります。分かりやすいのは強制的に参加させられる会議や集会ですね。学校で行われる大半のプレゼンもそうでしょう。あなたが問題を有していようがいまいが、説得を受けるしかありません。これを説得者の側から見れば、まったく問題を抱えていない受け手が来ることもあるということです。

ただし、このようなケースはあくまで例外です。原則として、説得が成立するためには、受け手が「知りたい・どうにかしたい」といった問題を抱えている必要があります

受け手が問題を抱えているところでしか、説得は成立しない

ということは、どんな説得も、受け手の問題を理解するところから始まるということです。これが、設計シートの一行目が「問題」になっている理由です。

本番の説得の始まり方

設計からは脱線する内容ですが、同じ理由で、本番の説得も「あなたの問題を、私は理解しています」と伝えることから始まるべきです。そうすることで受け手に真剣になってもらえます。

本書を例に考えてみましょう。本書は資料作成やプレゼンに関する書籍ですから、当然、それに関する問題を提示しなければなりません。具体的には以下のようなものです。

  • なんとなく資料を作ってプレゼンしているが、正しい進め方を学んだことがなく、これでいいのか不安だ

  • 学校で学んだプレゼンのやり方が、企業ではまったく通用しない

  • 色々とプレゼン本を読んできたが、本ごとに言っていることがバラバラで、何を信じていいのか分からない

  • スライドにどれくらいの情報を詰め込んだらいいのか分からない

  • PowerPointに習熟し、きれいなスライドを作れるようになったが、資料の評価はパッとしないままだ

お気づきのとおり、これらは本書の冒頭と同じ内容です。あのときは「問題」という言葉は使いませんでしたが、あれは要するに「資料作成やプレゼンに関して、問題を抱えていませんか?」という問いかけだったのです。

そして、その問いかけに対するあなたの答えは「イエス」だったはずです。繰り返しになりますが、答えが「イエス」でない人が本書をここまで読むはずがありません。

記入例
では、設計シートの記入例を確認しておきましょう。

今回の状況設定では、関西支部の業績が昨対比マイナス20%と急速に悪化していましたよね。これは明らかに受け手(社長)にとって「よろしくないこと」です。よって、これをそのまま「問題」として記述すればOKです。

問題を書くときは、とにかく「受け手の問題」になっているかに注意してください。たとえば、「社長に命令された業務を遂行しなければならない」というのも、この状況下における問題です(ゴールは業務が遂行された状態で、現状は業務が遂行されていない)。しかし、それはあなたの問題ですよね。受け手はそんなことに興味がありません。ここに書いていいのは受け手の問題だけです(※)。

※もちろん、受け手の問題が、あなたの問題でもある状態が理想です。そのほうがやる気が出ますし、説得を楽しめるからです。しかし、説得が成立するための絶対条件は受け手の問題だけです。あなたの問題は「あったほうがマシ」程度の位置づけなので、ここを間違えないようにしましょう。

また、ここに書いたことはそのまま資料に転載するので、受け手に見せられるレベルの表現で書いてください。一言一句を推敲するということです。設計シートの大半は自分向けのものであり、受け手に見せませんが、問題と論点だけは例外です。

論点

先に進みましょう。問題の次は論点です。
論点とは、答えを出そうとする1つの問いのことです。「論点」という言葉は一般的に使われる上に、その意味にバラつきがありますが、本書ではこの意味に限定します。

論点:答えを出そうとする1つの問い

そして、説得における論点とは、問題を疑問文で言い換えたものに他なりません。スライドを確認してください。

このように、問題があるということは、ギャップがあるということです。このギャップを埋めたいですよね。

となると、必然的に「どうすればこのギャップが埋まるのか?」という問いかけが出てきます。これを具体的に書いたものが論点です。
具体例で確認しましょう。先ほど例示した問題をひっくり返していくだけです。

  • どうすればいいか?(行動を問いかける)

    • 売上が減っている → 売上を回復させるには、どうすればいいか?

    • 世の中がすっかり様変わりしてしまい、これまでのビジネスが通用しなくなっている → 新しい世の中に合わせて、どのようなビジネスをしていくべきか?

    • お客様が支払いをしなくても済むようにしたい → お客様が支払いしなくて済むようにするには、どうすればいいか?

  • 答えは何か?(情報を問いかける)

    • PowerPointでコピーをするショートカットが分からない → PowerPointでコピーをするショートカットは何か?

    • 縄文時代の日本人の寿命を知りたい → 縄文時代の日本人の寿命はどれくらいか?

    • 1日に3食を食べるべき理由が分からない →1日に3食を食べるべき理由は存在するのか? あるとすれば、それは何か?

どれも問いになっていますよね。このようなものが論点です。

この例から明らかなように、問題と論点は表裏一体です。最後の例のように、1つの問題から複数の論点が想像できるケースもあるので完全に1対1にはならないのですが、基本的には問題と論点はセットだと考えて大丈夫です。問題が書ければ論点が書けますし、論点が書ければ問題も書けます(慣れは必要ですが)。

記入例

論点の記入例を確認しておきましょう。やはり、問題をひっくり返すだけです。

これも問題と同じように、「受け手の論点」になっているかを確認してください。言い換えると、受け手が答えを知りたがる問いになっているかということです。この例だと、「関西支部の業績悪化の対策として、何をするべきか?」という問いの答えを、社長は知りたがりそうですよね。

先述のとおり、問題と論点は表裏一体です。しかし、説得において重要視すべきなのは論点です。詳しくはこれから説明しますが、説得という行為の性質を考えると、論点のほうが使い勝手がいいのです。

端的に言って、論点は説得における最重要ポイントです。これを正しく書けるかが、説得の成否を左右します。

そういうわけで、論点の書き方に関してはさらに細かい内容を学ぶ必要があるのですが、それは次のレッスン以降にまわします。一旦、論点が書けたとして、キリのいいところまで進みましょう。

論点と説得の関係

残るはスライドの右側ですね。こちらは既に学んだことが別の形で表現されているだけです。以下のポイントを確認してください。

  • 説得はロジック、レトリック、ブランドで構成される

  • ロジックは主張と根拠で構成される

  • 説得の目的は、主張に「イエス」と言ってもらうことである

これまでのスライドを再掲しておきます。

何を「イエス」と言ってもらいたいのか

では、結局のところ、私たちは何に「イエス」と言ってもらいたいのでしょう?
それは論点に対する答えです。スライドを確認しましょう。

このように、受け手の問題からしか説得は始まらず、問題は常に論点(問い)を伴います。問いが立てば、知りたいのは答えですよね。ということは、説得を通じてあなたが受け手に伝えること、つまりロジックは、「論点に対する答え」にならざるを得ません。ロジックとは、論点に対する答えなのです(※)。

※ 厳密には、論点も受け手に伝えるので、論点も説得におけるロジック(伝えること)の一部です。論点は説得における重要性が別格なので、便宜上、「伝えること(広義のロジック)」を「論点」と「論点に対する答え(狭義のロジック)」に切り分けていると考えてください。

あなたが説得を通じて受け手に伝えること(ロジック)は、論点に対する答えである

主張|「直接的な答え」とは

ロジックが論点に対する答えなら、ロジックの中心に据えられる主張は、論点に対する直接的な答えになります。上のスライドで、論点と主張が一直線上に並んでいることを確認してください。

「直接的な答え」とは、問いの答えになれる一文のことです。以下の表を見てください。

このように、問いが決まれば、その直接的な答えになれる言説の型は決まります。これは単なる言語上のルールなので、特に違和感はないはずです。
この表の説明は割愛しますが、ピンとこない人や、詳しく知りたい人は以下のリンクを読んでください。

記入例

つまり、論点が決まったタイミングで、具体的な主張は分からなくても、「どのようなことを主張として言うのか」は分かるということです。

これは設計シートの記入例を見るのが分かりやすいでしょう。

まず、主張は「現時点では不明」と書いてあります。この段階で具体的な主張が分からないことは、まったく普通のことです。ロジックはこの後に構築するわけですからね。説得のプロセスを確認しましょう。

それでも、「関西支部の業績悪化の対策として、何をするべきか?」という論点が書けている時点で、どのような言説が主張になるかは分かります。
この論点だと、答えは以下のようなものになることが想像できます。

  • 値下げをするべきだ

  • CMを打つべきだ

  • 従業員の給料を増やすべきだ

つまり、「Xをすべきだ」という類の、関西支部の売上を回復させるような行動を提案する言説です。このような言説しか、論点に対する直接的な答えになりません。

逆に言うと、このタイプ以外の言説は、何があってもこの論点に対する主張にはなりません。たとえば、「関西支部の売上が減った原因は、競合の商品がSNSでバズったからである」という言説は、この説得の主張としては不適切です。論点は売上が減った原因を問いかけてはいません。問いかけているのは「すべき行動」です。

なお、これは「原因を考えてはいけない」という意味ではありません。「今回の説得では、原因は根拠にはなっても、主張にはなれない」という意味です。もし原因を主張にしたいなら、論点から変える必要があります。

まとめ

まとめると、主張とは論点に対する直接的な答えであり、これに「イエス(正しい)」と言ってもらうことがあなたの目的になります。

ここまでの話をもとに、「説得」、「ロジック」、「主張」という言葉を再定義しておきましょう。資料を作成するような説得においては、こちらのほうが使い勝手がいいです。

説得:論点に対する答えが正しいことを、受け手に認めてもらおうとする行為
ロジック:論点に対する答えの全体(主張と根拠)
主張:論点に対する直接的な答え

すべて、「論点」という言葉から始まっていることを確認してください。

これが、論点が説得における最重要ポイントである理由です。論点が説得の大枠を決めてしまうのです。

論点が決まった時点で、主張として言えることの大枠は決まります。そして、主張の大枠が決まるということは、説得の目的の大枠も決まるということです。説得の目的は「主張に『イエス』と言ってもらう」ことですからね。

つまり、何を問いかけるかが決まると、何を言うべきかも、その結果として何を達成したいのかも決まるのです。

これの意味するところは、論点が間違っていれば、説得は確実に失敗するということです。論点が間違っていれば、主張も、説得の目的も間違ったものになるわけですからね。これは本当に大事なことなので、スライドでイメージを掴んでください。

そういうわけで、論点が決定的に重要です。説得の最大の山場は、最序盤にあります。いきなりエンジン全開にする必要があるのです。

では、論点をどのように決めればよいのでしょう? 設計シートは一旦ここまでにして、次のレッスンから論点を掘り下げていきましょう。

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