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熱帯雨林に学ぶ「多様性が高いとどうなるのか?」


はじめに

2022年に半年近くかけて友人たちと英書の『Regenerative Leadership: The DNA of life-affirming 21st century organizations』を読み探究していく会を開いていました。

その中で、「多様性」というテーマで対話していた時に「多様性が発揮されている状態とはどんな状態なのか?」という問いを友人が投げかけてくれたのです。個人的にこの問いはとても興味深く、深めたいと思ったものでした。

今回は、上記の書籍で紹介されていた関連本の中で「熱帯雨林における多様性」について書かれていた章があったので、こちらを参照しながら友人が投げかけてくれた問いを「多様性が高い状態ではどんなことが起こるのか?」という問いにアップデートした上で探究してみたいと思います。

理由:多様「性」は、高いか低いかという軸があり、高いことで起こること起こらないことと捉えるほうが適切だと思えるため。もっというと、高いけど、発揮されていない・されているという風にも捉えられるかもしれませんね。ただ、そうなると軸が1つ増えてしまうので今回は「発揮の度合い」については省きます。

その関連本とはこちら。和訳本が出ているので和訳本の方を紹介します。(絶版になっている模様)こちらの書籍は「熱帯雨林に学ぶ企業の未来」というテーマで書かれています。

熱帯雨林に学ぶ多様性とは?

著者の主張は?

この本で提示されている多様性が高い状態のメリットと言えそうな内容は、「多様性が高い」イコール「選択肢が多い」であり、選択肢が多いことによって「ダメージからのすぐれた回復力」と「持続可能性が高い」という効果?を得ることができている、という箇所がそれに当たりそうです。

該当する箇所をピックアップします。

熱帯雨林における多様性とは選択肢が多いということであり、選択肢が多いというのはダメージからの回復力と持続可能性が高いこととイコールの意味をもつ。多様性に富む森で暮らす一つひとつの生物種が、特定のニッチで繁栄できるように-つまり、そこでほかのいかなる生物種よりも効率よく自らの中核能力を発揮できるように-デザインされている。

p184より引用

多様性は、選択肢が多いということとイコールなので、多様性が増せば持続可能性も高まる。つまり、ある生態系で暮らす生物種が増えれば増えるほど、気候変動や自然災害などの難題に対処する際に利用できる資源の種類が増え、生態系全体が繁栄する確率が高くなるのだ。

p185より引用

また、「多様性が持続可能性の向上につながる」説の裏付け的に、脳のシステム理論研究を専門としていたロス・アシュビーという人物が1958年に打ち立てた多様性必要条件則を紹介しています。

(補足)
どうやらこの方は複雑系に関する先駆的な研究者であり、サイバネティクスに思想的影響を及ぼした方のようです。また、多様性必要条件則とは書籍で書かれていたのですが、ネットで検索してみると色んなサイトで「必要多様性の法則(Low of Requisite Variety)」と紹介されていました。

この法則によれば、

あるシステムが存続できるかどうかは、そのシステムにとって脅威となる環境条件の多様性と少なくとも同程度の多様性をシステム内で生み出せるかどうかで決まる

p185~186から引用

そうです。

それを受けて書籍では、

つまり、生物や森林などの生きているシステムが生存もしくは存続できるかどうかは、周囲から降りかかってくる様々な難題にうまく対処する手段をもっているかどうかにかかっている。解決できない難題がひとつでもあれば、そのシステムは成長の限界に達し、死を迎える。したがって、長期的に見れば、生態系の存続には多様性が欠かせない。

p185~186から引用

と書かれています。

紹介されている3つの学説

他にこの章では、以下の3つの学説も紹介しています。

森の多様性が高い方が回復力が高い

A:カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョセフ・コンネル教授同バークレー校のウェイン・スーザ教授の主張

この方々の主張についてはほとんど言及がないに等しかったので省きます。


B:ミネソタ大学のデービッド・ティルマン教授の主張

生物多様性に乏しい単純な生態系で、いったん激減した生物種が復活するのは、単にすきをねらって待ち構えている生物種がいなかったからかもしれない。だが、生物多様性に富む複雑な生態系では、多くの生物種が多種多様なニッチ環境にそれぞれうまく適応している。したがって、あとから来たほかの生物に追われたとか、新たな環境ではその生物がもっている情報があまり役に立たなかったという理由で、個体数を大幅に減らしたり、全滅したりした場合でも、生態系全体の生物多様性が生態系の復元力を維持するとともに、向上させる。

第三の説の提唱者であるミネソタ大学のデービッド・ティルマン教授は、論文の中で次のように主張している。「気候変動の影響で特定の生物種の個体数が減っても、その影響を受けない別の生物種の個体数が増えるこうした補償的増加が頻繁に行われるため、生態系全体の生物量は常に一定の水準に保たれるが、結果的に生物種ごとの個体数は変動しやすくなる」。


C:モンタナ州立大学の生物学者、ダニエル・グッドマン氏の主張

たとえば、10種類の樹木が生い茂る森があるとしよう。この森に菌類や線虫などの有害な微生物が入り込み、10種類のうち1種類がほぼ絶滅したと考えてほしい。実際にフィールドで調査を行った科学者たちによると、このようなケースで、ひどい被害を受けた樹種が復活を遂げ、個体数がもとのレベルにまで増えることはまずないという。

これを一種類の樹木だけが繁栄する単純な森のケースと比べてみよう。有害な微生物の侵入により森がほぼ全滅状態になったとしても、翌春、この樹木の種子が発芽する確率は、多様性に富む森で全滅した樹木の場合よりもはるかに高い。

食物網が単純な場合ーすなわち、生態系がわずか数種の生物で構成されている場合ーいったん激減した生物の個体数が再びもとの水準に戻る確率が高い。逆に、森の内部で複雑な食物網が形成されていると、個体数が激減した生物が復活を果たすのは厳しいかもしれない。他の生物がさっと入り込んできて、空き家になったニッチに住み着いてしまうからだグッドマンは、生態系を機械にたとえてその理由を説明している。「機械だって複雑になればなるほど、故障が起きやすくなるものです」


森の多様性が低い方が回復力が高い

著者の2名は実際に熱帯雨林を冒険した結果、A・Bの見解に傾きつつあるとのことでした。(原著は2001年に出版されたそうなので、今はどんな見解なのでしょうね)

学説を見て思ったこと

Aの情報がほとんどないに等しい説は別として、B:ティルマン氏の説とC:グットマン氏の説を見比べて思ったことは、そもそも両者において「回復した状態」の定義が異なっているように思えるため、前提が違うイコール比較ができないなと思いました。

C:グットマン氏の説でいう回復とは、もともとあった種類の樹木が元の数に戻ることを指しており、B :ティルマン氏の説では生態系内における生物量の単位で捉えています。グットマン氏のフォーカスである生物種単位でいうと個体数は変動しやすいと書かれています。

両者は木を見ているか森を見ているかの視座の違いがあり、共存できる学説だと思ったんですよね。

もっとも、元の学説を読んだわけではなく著者が切り取った部分だけを読んだだけですので、浅い感想なわけですが(汗)

また、この観ているところがそもそも異なっているという点に関連していうと、そもそも「健全な森とはどういう状態なのか?」という定義が1人1人で違うという話に広げられるかもしれません。

例えば、都会生活が長く自然の中でも整理されたエリアに行く機会が多い人にとっては、「さまざまな高さの木々が生えていたり、落ち葉がたくさんある状態の方が不自然に思える。ある意味で汚く思える。「必要多様性の法則(Low of Requisite Variety)」
」が、本質的な環境再生に従事されている方々にとってはそういった方があるべき森の姿だと捉えていたりというように。後者のあるべき森の姿は、人間が生活しやすいという軸と別軸とも言える。

さいごに

簡単にまつめると、森の多様性(イコール生物多様性)が高いとその森という生態系自体の生物量は適切に回復する、というのが著者の主張のようです。

うーん、分かったような分からないようなw
何となくですが、生物多様性が高いと→土壌が豊かである→植物も単一ではないと土壌の栄耀をまんべんなく活用できるため、1年を通して一定以上の繁栄を保てる(畑で単一な作物を育てていると土壌の栄養が不足し、休むために作物を育てられない時期が出てくるのですが、それを防げるイメージ)というようなことなのかなぁ。

となると、カギとなるのは「色んな栄養が含まれている豊かな土壌」の方なのかもしれないなぁ。(だから多様な生物が暮らせる?暮らしているから豊かな土壌になっている?不可分の関係?)

などと、さらに色んな問いが生まれています。

今回は、熱帯雨林という自然そのものから学ぼうと試みましたが、次はこれらの情報を参照しつつ、会社組織に置き換えて生物多様性や回復力について考察する内容を書いてみたいと思います。


おまけ

本格的に熱帯雨林に学ぼうとするならばやはり一次情報にあたらないとダメですね。ビジネス書の引用レベルでは、生まれた疑問は解消できないので浅い考察になるなぁと感じたのでした。(当たり前!)


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