見出し画像

【KX物語 第11話】kさん、『“カイシャの未来度”実態調査2022』の結果を見て、唸る。

 Kさんの手元にある一枚目の紙。中央には、サクラの花びらの形のようなグラフが配されています。それぞれの花びらの先の位置には、 

 わがままセントリック
 旅の仲間バラエティ
 つながりリデザイン
 想いドリブン
 変態インフィニティ

というフレーズが配されています。5つの花びらの大きさは、よく見ると微妙に違います。「想いドリブン」「つながりリデザイン」は、やや小さめに見えます。
・・・5つのコンセプトって言ってたな。さっきの声の説明で、だいたいのところはわかった。あのヘンなメガネをかけている最中にもやもやが増したのは、5つのコンセプトのどれひとつとして満たされていないから、ということだよね。きっと。特に、「想いドリブン」「つながりリデザイン」が、ということなのかな。小さいっていうことは、そういうことなんだろうな、、、何とかしたい、と思うけど。でも、何とかできるとも思えないよなあ、、、
 そんなことを思いながら、kさんはグラフの上に表示されている文字に再び目をやります。

 KX Score : -73

 さらに、先ほどは目に入らなかったコメントが、グラフの下にあることに気づきます。
・・・こんなコメント、さっき見た時にあったかなあ、、、
 そこには、こんなことが書かれています。

 あなたは今、
 大きな失意の中にあるのではないでしょうか。

 毎日カイシャに行くのが憂鬱だったり、
 辞めたいと思ったり、

 日々やるせない想いをしたり。
 そんなあなたに、
 そのままの状態であってほしくありません。

 とどまっていては何も変わりません。
 何かを始めてみませんか。

・・・うーーーん。ここまで思っているかなあ。辞めたい、とまでは思っていないような気もするけど、でも、そんな感覚さえもマヒしちゃっているのかなあ、、、それに、何かを始めるっていってもなあ、、、
 kさんは、少し困った様子でマスターの方に視線を泳がせます。マスターは、例によって穏やかな表情のままこちらを黙って見ています。kさんは、仕方なく口を開きます。
「−73って、かなり低いんですよね?  さっきも『なかなかのスコアですねー』なんていってましたし」
 マスターは、表情を変えずに、大きく頷きます。そして、手元に置いてあるタブレットを取り上げて、新たなファイルを探しています。
「これ、実は、調査しているんです。従業員数100名以上の組織や団体で働いている役員、正社員、契約社員1582名を対象にした『“カイシャの未来度”実態調査2022』っていう調査なんですけどね、、、」
 そして、あるファイルを開き、kさんに画面を見せます。そこにはこんなヒストグラムが表示されています。

「kさんが回答したのと全く同じ50問に回答してもらい、それをあるロジックでスコアにしているんです。理論値としては+100から−100の間に分布するんですが、調査結果では、最高スコアは72、最低スコアは−95でした」
「・・・うーーーん、、、これ、全体的にマイナスに寄っていますね。みんな低いんだ、、、でも、−73は、その中でもかなり低いですね、、、そうか、こんなに低いのか、、、」
「、、、そうですね、、、」
 マスターは、kさんの呟きに似たコメントにさらりとそう受け応えると、画面をスワイプして、別のグラフを表示させます。

「このKXスコア、その人のライフワークについてのコンディションとの相関がかなり強いものなんです。このグラフは、仕事満足度との関係ですが、見ての通り、KXスコアとかなりはっきりした相関が読み取れますよね。会社満足度も同じです。『現在の生活全体での生き生き度』についても、同じです」
「うーーーん。確かに『今の仕事を担当していることに満足している』って聞かれたら、『まったく満足していない』と答えると思います、、、」
「、、、そのお話、とても興味深いですね。あとで聞かせてください。その前に、これ見てください。この調査、50問回答してもらったところで、こんなことを聞いているんですよ」
 マスターは、またスワイプを繰り返し、こんな画面を見せてくれます。

「うーーーん。、、、なるほど。さっきの質問に答えていたら、色んなことを思いますよね。私もなんだかもやもやしちゃったし、、」
「、、、でしょうね。そのスコアになったぐらいですから、、、で、その回答コメントが、スコアによって面白いぐらいに特徴や傾向があるんですよ。例えば、+50を超えるスコアの人だと、、、」

「、、、おーーー。『理想的』とか『自由』とか、、、『自分の勤めている会社には誇りがあります。』って、すごいな」
「このゾーンは超少数派ですけどね。、、、+26から+50の人になると、、、」

「、、、これもポジティブですね、、、『結構』なんて言葉が出てくるんだもんな。『やりがいある仕事にチャレンジしつづけたい。』ということは、やりがいのある仕事にチャレンジし続けてきている、ってことですもんね」
「そういうことでしょうね、、、で、+1から+25の人になると、、、」

「、、、これもまだポジティブですね、、、でも、『まあ』みたいな感じか。『どこでもそうだと思うが良いことも悪いこともある。』ってわかりやすいな。いろいろ言いたいことはあるけど、まあ楽しくやれている、っていう感じですね」
「自分を納得させている感じですね、、、これが−24から0の人になると、、、」

「、、、うーーーん、、、『遂行しづらい』とか『受け入れられにくい』とか、か、、、制約を感じていますね、、、『現場の声が上層部にとどいていないことが多い。』これ、あるあるですね」
「上層部っていう言葉が出てくるあたりが、ね、、、そして−49から−25の人になると、、、」

「、、、おーーー。こう来ますか、、、『古い体質』ね、、、『滅私奉公』ね、、、『硬直した組織風土、えらい奴が幅を利かせている。』って、この人怒ってますね」
「高い地位を利用して会社を私物化している人っていますからね、、、で、−50以下の人になると、、、」

「、、、うーーーん、、、つらそうですね、、、辞めたい感満載じゃないですか、、、『会社の理不尽さにうんざりした。』っていうのに現れていますけど、何か、怒る気力もない、って感じですね」
「、、、その通りですね。まさに流されているという感じです」
 そういって、マスターは画面をスワイプして、最初に表示したヒストグラムを再び表示させます。そこには、先ほど書き込まれていなかった数字も表示されています。

「このヒストグラムの分布を見れば大体わかりますが、比較的いいコンディションにあると思われるプラスの人は約30%、+26以上のグッドコンディションの人は10%強に過ぎません」
「残りの70%の人は、程度の差はあっても、何かもやもやしながら働いているんですねえ、、、それにしても、低いな。−73は」
「、、、どうなんですか。kさんも、今の会社なんて辞めてやる、って思いながら回答していたんですか?」
 マスターのその質問に、kさんの心の中が大きく反応します。メガネをかけて回答していた時のことが頭にはっきりと浮かんできます。
「いや、そんな感じではないんですよね、、、なんていうんだろうな、、、たぶん、前の部署にいた時にこれやっていたら、0ぐらいになったんじゃないかなと思うんです。0ではないか、−10とか20とかかも、、、で、その時より今はよくないよなあと思いながら、『全く違う!』とか『そうとはいえない』ばかりつけたんですけど、、、最後に、この回答結果でいいかどうか、確認するところがありますよね?」
「はい。「大切!」「気になる!」「何とかしたい!」と思った質問を5つ選んでチェックするっていうところの前のところですね」
「そうそう。その時に、実は回答結果を変更しようかと思ったんですよ」
「そうですか。何か気になることがあったんですか?」
「、、、あったんですよね、、、なんか、うまく言えないんですけど、『それって、会社のせいじゃないんじゃないの?』って思い始めたっていうか、、、」
 マスターは、タブレットをテーブルの上に置いて、kさんの方に身を乗り出してきます。そのまなざしには、続きが聞きたい、という気持ちがあふれています。kさんは話し続けます。いつのまにか、話したくなっている自分がいることに気づいています。
「さっきの声の中に、カイシャという幻想っていうところがありましたよね、自分で創り上げている幻想に縛られているって。それ聞いて、あ、自分のことだな、と思ったんです。『全く違う!』って回答しているのは、会社がそうさせているんじゃなくて、自分がそうしているんじゃないかって。出来ないって思っているけど、そう勝手に思い込んで、やっていないんじゃないか、って。自分のせいなんじゃないか、って」
 マスターは、何度も何度も深く頷きながら聞いています。kさんの話は止まらなくなっています。

(つづく)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?