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【KX物語 第7話】kさん、「変態」していない自分に気づき、もやもやが増す。

 あなたは、ヘンタイ、、、しているでしょうか?

 この声を聞いて、kさんは先ほどのシーンを思い出しました。
・・・来たな「ヘンタイ」。先客の女性が口にしていたよな。にしても、どういう意味だろう? まさかHのヘンタイじゃないだろうし。編隊とか? 違うよな、、、このシリーズの問いかけには、そんなに顕著な傾向は感じなかったんだけど、、、
 そんな思いを巡らせながら、kさんは次の言葉を待ちます。薄暗がりの中に、視線を泳がせていきます。沈黙の時間は、これまでにもまして長く感じられます。その沈黙を破り、声が聞こえてきます。

 あなたは、そして、会社のメンバー一人ひとりは、
 蛹が蝶へと変態するように、
 それまでとは違う、新しい自分へと
 変わり続けているでしょうか?

 
・・・ああ、その変態か。メタモルフォーゼか。変わっている、といえるのかなあ、、、異動で仕事は変わったし、コロナで働き方は変わったし、だから、変わっちゃいるんだろうけど、それは新しい自分なんだろうか。変態している、といえるんだろうか、、、
 そう考えているkさんの頭の中に、ふとある友人の顔が浮かんできました。コロナ渦中に、長く勤めていた会社を突然辞めて、まったく別の世界へと転じた友人の顔が、です。
・・・ちょっと驚いたよな。あいつがそんなことするなんて。なんか、順調に出世していたと思うんだけど、、、それも、あの超優良企業。移住先は、生まれたところでも何でもなかったはずだよ、、、「コロナを機に、ライフシフトしました」って、FaceBookに書いてあったっけ。ああゆうのが変態だとすると、私は芋虫のまま、か、、、
 その友人の顔の次に浮かんできたのは、会社の同僚の顔です。前の部署にいた時にはよく一緒に仕事をしていました。異動してからも時々食事をしていましたし、コロナになってすぐのころにはZoom飲みもしましたが、最近はとんとご無沙汰です。
・・・よくあのプロジェクトをカタチにしたよなあ。一緒にやっていた時には、PLに手をあげるようなキャラじゃなかったけど。社内Webのインタビュー記事を見て、久々にメールしたけど、「ぶつぶつ文句を言ってるのは、やめようと決めました」なんて書いてあった。どうしたんだろう、何があったんだろう、と思ったよなあ、、、彼も変態したのかなあ、、、
 実は、そのインタビュー記事を見た時には、いやな気分がしたのです。2年先輩だったkさんは、先を越された、と思いました。妬ましさも感じました。前の部署の方が伸び伸びやれていた、という思いもあり、自分だってあそこにいれば、とも思いながら、今の部署ではそういう機会はきっとないだろう、と、もやもやした気持ちを押し込めたのです。その時に押し込めたもやもやした気持ちが、今、その時の何倍にもなってkさんを襲っています。
 そんな想いを巡らしていると、再びスクリーンが現れ、そこに文字が浮かび上がってきました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50の質問への回答は、これにて終了です。
お疲れさまでした。

この後に、50の質問が、もう一度表示されます。
あなたの回答結果を確認してください。
変更したいものがあれば、変更してください。

そして、あなたが働いていく上で
「大切!」「気になる!」「何とかしたい!」と思った質問を
5つ選び、チェックをつけてください。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そして、その文章がスクリーンからゆっくりと消えていき、代わって、先ほどの質問と、選んだカードのセットが、スクリーンから抜け出てくるように現れ始めます。ゆっくりゆっくりと、Kさんに近づいてきます。よく見ると、選ばなかったカードのシルエットもあります。さらに、そのセットの右端には、チェックボックスのようなものもついてます。そのセットが、次から次へとスクリーンから現れてきます。
・・・なるほど。回答を変えることができるんだな。最初の方、ちょっと変えたほうがいいかもしれない、、、
 気がつくと、50のセットが、kさんの身体を取り囲むように浮かんでいます。左を見ると「わがまま」の10セットが、その隣には「旅の仲間」の10セット、そして「つながり」「想い」と続き、一番右には「変態」の10セットが並んでいます。kさんは、いくつかの質問の回答を変えるかどうかで悩み始めました。
・・・これ、「全く違う!」を選んだけど、そう勝手に思い込んでいるだけなのかなあ、、、私の率直な回答ではあるけれど、、、まあ、でもそう思っているんだから、やっぱりそのままでいいか、、、
 迷ったうえで、でも回答結果は変えませんでした。最初に直感的に思った、感じた回答のままにしました。そして、改めて50問を見渡します。
・・・で。気になる質問を選べ、、、か。選ぶの難しいなあ、、、
そう呟きながら、2度、3度と質問を見返します。最初に手が伸びたのは、

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
会社の中では、職務や役職にふさわしくあるために、自らの個性を隠して演技をしている
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

という質問のセットです。
・・・これ、ちょっとドキッとしたもんなあ、、、隠しているつもりはなかったけど、確かに隠しているんだよなあ、、、
 それ以外にも、回答するときにもやもやしたり、なんだか考え込んでしまった質問がいくつかありました。そのいくつかを選んでは外し、選んでは外したうえで、5つを決めました。結果的に、「わがまま」「旅の仲間」「つながり」「想い」「変態」それぞれから一つずつになりました。どれかひとつのところに気になることが集中していたというより、最初から最後まで気になりどころ満載でしたし、最初の方にさらっと答えていた質問でも、改めて読むと、最初に読んだときよりかなりもやもやするものもありました。
・・・さあ、これで完了。この後は、どうすればいいのかな、、、?
 すると、50の質問・回答セットの合間を縫って、「Complete!」と書かれたカードがこちらに漂ってきます。kさんは、迷わずそのカードにタッチします。すると、たちまちのうちに50のセットは姿を消し、スクリーン上には

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   Bon Voyage!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

という大きな文字が浮かんでいます。その文字がゆっくり消え、スクリーンも消えていきます。それだけではありません。薄暗い小部屋までもが消えていきます。鳥のさえずりの声もフェイドアウトしていき、それに代わってJazzが聞こえてきました。どうやら終わったようです。kさんは、ヘンなメガネを外し、一息つきました。先ほどまでと何も変わらない店内の光景がそこにはあります。マスターは、カウンターの奥で物思いにふけっています。そのマスターに聞こえるように、kさんは声をあげます。
「終わりました!」

(つづく)


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