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負けたくないマリさん

あ、マリさんのご出勤だ。

「川崎さん、おはよう。」

あ、今日もマリさんは怒ってる。怒ってるというか、プリプリしてるって感じ。わたしは挨拶を返しながら隣に座るマリさんの観察を始める。

「改札でICカードをスムーズにピってできるようにもっと開発したほうがいいよね!」

今日は改札に怒っていらっしゃる。

「私時間ないじゃん?1分1秒でも大事じゃん?スムーズに改札通ってくれないと困るよね?今日の前を歩いていた人あり得なかったわー。体感5分待ったね。私の5分いくらだと思ってんの?」

いくらだろう。
5分って、マリさんはいつも盛ってくる。

「こういうのが嫌だから私1番に降りるのいつも、ダッシュで改札1番とるのね!でも今日は目の前のおばさんがもたついて、その先のおばさんももたついてたのよ。ありえなくない?」

もたつかなかった おばさん がマリさんか。
おばさんの話はまだ続いてるけど全然どのおばさんの話かついていけない、まだ怒ってるマリさん。
パソコンが立ち上がるまで身振り手振りで怒るのはマリさんの準備体操なのだろう。

「あー、まだこの会社から解約通知書の提出が来てない!メール送ったのに。」

メール確認と同時に、マリさんの怒りの矛先が変わった。
うちの会社のシステムを解約したい会社から、マリさんが送った書面の返送がないらしい。

「そっちが解約したいって言ってきたのに、解約通知書になったらもたつくってなんなの?もぉ、催促の電話しなきゃ!システム部から私が遅れたと思われなくない!」

我々はカスタマーサポートだが、マリさんがサポートをしているところを見たことがない。

「もしもし!恐れ入ります、解約通知書がまだ送られてきてないのですが。はい、メールで送っております。3日前の15時22分のメールでございます。はい、ご返信いただいたメールには通知書がございませんでしたのでこうやってご連絡差し上げてるんです。ご確認よろしくお願いします。お待ちしております。」

全然恐れ入ってない。
マリさんは完全に督促してる。

「もー、メール見たけど通知書はなかったとか言ってるわけ!なんなの?今ごろもう一回メール確認して自分の間違いを知るといい!ま、優しさを発揮してメール転送再送してやろう!」

メール見たけど通知書はなかった、、?
ま、マリさんは優しくない。

「え、何?メール返信来たけどなんなの。通知書はどこですか?って。メール2回も送らせといてひどくない?バカにしてんのかな?」

マリさんのプリプリ度が増してきてブリブリになってきた。あ、また督促の電話かけてる。

「もしもし、先ほどメールを もう一度 送らせていただきましたぁ!はい。はい?えぇ、あぁ、、添付?、、してなかったですね、すぐ送ります。」

マリさんが添付してなかったんかい。
添付してないメールを2回も送っとんかい。

「通知書ないなら、そうと早く言ってよね!」

言ってたよね。
最初のメール返信から言ってたはずだよ。
ここで怒れるマリさんの強さ。

「きたきた、ちょっとシステム部に解約通知書渡してくるね。急ぎなんだってさぁ、もうこっちの都合まる無視だよね。」

マリさんすげーな。

「ちょっと!システム部ってさ、カスタマーサポートの私たちのこと、使いすぎだよね。」

マリさんは、システム部に行ってまた新しい怒りを手に入れた!

「解約理由を聞いてくれ、だって。もう解約するって言ってるんだから別にいいじゃんね。いつもみんな聞いてるのに私だけいつも忘れるとか言ってくるわけ。忘れてるんじゃなくて必要ないと判断してるのに。また電話しないと。」

また忘れてたんだね、マリさん。
そのお局パワーをシステム部で存分に発揮してきたのだね。

「もしもし?はい、通知書は確認させていただきました。スムーズに解約を進めるために、解約理由を教えていただけますか?なるほど。そうですか、御社のPR効果に関しては他社に比べて効果が高いというデータが出ておりましたので、、もったいないというのはお伝えしておいた方がいいかなと思ってですね、、」

マリさん、いろいろ手遅れだぞ。

「さようでございます、PR効果、弊社のオリジナルアンケートでも認知度は上がっておりました。なるほど、かしこまりました。それでは解約ということで進めさせていただきますね。最後に、先ほどの効果やアンケートデータに関しましてはお見せすることはできませんのでご了承くださいませ。」

マリさん、もう2度と先方はうちと契約しないことが確定したよ。

「やっと解約確定できたー、長かったー。」

マリさん、それは先方のセリフだろうよ。
タバコ休憩への足取りが軽くなったね、マリさん。

「ねね、今タバコのとこでさ、営業部のエースに会ったわけ。ちょうど彼の担当クライアントが解約になったって言ってたから、速報ベースで解約理由とか伝えてきた。私めちゃくちゃ優しくない?」

優しくないよ、マリさん。

「なのにさ、解約の申し出があった時すぐに連絡もらってフォローの電話したかったとか言うわけね。毎回そうだからってそんな毎回に私を入れないで欲しいんだけど!」

怒りが雪だるま式だよ、マリさん。

「だから私言ってやったの。私一個も悪くないですからね、って。そしたら営業のエースが、わかりました、だって。よし!営業部のエールに勝ったわぁ!って思ったよね。」

勝ちたかったのねマリさん。

「私、誰にも負けたくないっていつも思ってる意識高い系女子なんだよねぇ。」

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