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その国の食を貫ぬくもの|食べる世界地図

昔から、異国の料理が好きだった。私が、食文化というものに自覚的に向き合ったのが、20歳の時に初めてひとりで旅したイタリアだったというのも大きいと思う。次に夢中になったのはスペイン料理だったか。青山のスペイン料理、新宿のタイ料理、池ノ上の台湾料理、原宿のメキシコ料理。その国の特徴的な食材やスパイスを使っているだけのなんちゃって料理ではなく、その国の食文化を忠実に再現しているような料理を出してくれるところを選んでは、くり返し通った。

行ったことのない国もあったのに、これは本場っぽい、これはなんちゃってだな、というのを何によって判断していたのか。食については、ずいぶん経験も知識も蓄えた今、あらためて考えると、やっぱり目の前の料理に凝縮して現れていたからだろうな、と思う。この国の食文化では、この食材を、こんな風に調理して、こんな料理として、こんな雰囲気で食べる、みたいなことに、筋が通っているかいないかは、料理を食べてみるとなんとなくわかるものだ。ここは、ちゃんとその国の料理を出している、と信頼できたお店には、半分、旅するような気分で訪れていた。

この「食べる世界地図」という本を読んだとき、これまで自分が異国の料理を食べたときに、その料理から無意識に感じているその国らしさ、みたいなものが、どんな風に構成されているかというが、少し明らかになったような気がして、ものすごく興奮した。もちろん、それぞれの国の食文化を深掘りした本はたくさんある。ただ、この本の面白さは、何がその国の食文化を、そうたらしめているのか、ということを、横断的に記していることだと思う。そして、そのまとめかたも巧みだ。例えば、「料理のベース」「スパイスの調合」なんて項目は、各国を並べて比較できるようにしてあるけれど、その国の食文化の根底にある精神みたいものはエピソードを通して書かれていたり。そして、各国の章の最後には、著者が選んだ料理のレシピが、いくつか掲載されている。章末にたどり着く頃には、レシピを読み解く解像度がグンと上がっているから、なんとなく、わかってつくる、感じになって楽しい。

ある人におすすめしようと、久しぶりにこの本を取り出してみたけれど、しばらく旅にも出られなそうだし、私もまた、行ったことのない国の食べたことのない料理をつくってみようかなという気分になった。


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