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食雑記

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日々の食卓、食卓での会話、食材やレストラン、食に関する本や映画、イベントなど、食にまつわることだけ書く日記のような「食雑記」。節気毎に更新。
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#食エッセイ

すべて食べたい|エンドウ豆のリゾット

エンドウ豆が普通に買える関西に越してきて、食べるたびに思うのは「鞘も食べたい」ということ。 だって、ものすごく生命感にあふれていて、色もきれいで、細胞もふっくらピチピチしていて、これを迷いもなく捨てられるってどういうこと?って思う。 先日、たまたま隣駅のこだわり八百屋「オガクロ」に立ち寄って、朝採りのエンドウ豆を買う。品種が違うのか、見たこともないくらい大きなエンドウ豆で、当然鞘もボリューミー。ああ、これを捨てるのはできないよ、と思った。 イタリアには「クチーナ・ポーヴ

涙のスパイスチョコレート

先日、記憶にある限り人生で初めて、トリュフチョコ(ガナッシュを丸めてコーティングしたもの。以下トリュフ)をつくった。昔から、世のバレンタインデー狂想曲には乗り切れないところがあって、そういう状況はなるべく避けていたのと、料理とは違って、きっちり計量、小まめに温度管理、順序が大事、途中で修復難しい、というトラップ多めのお菓子づくりはそもそも向いていないと、できる限り近づかないようにしてきたからだ。 去年は、恋人がバレンタインデーに留守していたので、近いタイミングにテリーヌドシ

世界の家庭料理を食べられるお店ーカフェ・サパナ

半年に1回、大阪豊中のクリニックに通っている。この年になると、通わないといけない病院はいくつもあって、うんざりすることしかないのだけど、豊中のクリニックだけは違う。なぜなら、セットで通っている大好きなお店があるから。 お店の名前は「カフェ・サパナ」。地域に暮らすいろいろな国の人が、日替わりでランチを提供している。国際交流の会とよなかというNPOさんの運営。素晴らしい。豊中に行くときは、まずはFBページで公開されているカフェ・サパナのカレンダーを確認して、食べたい国の料理の日

チリメンキャベツのシンプル料理

5年くらい前に、東京の自宅で「水曜日の食卓」という、残業で外食が続いている人のための食卓/食堂をやっていたのだが、一番最初の日につくったのが、チリメンキャベツ(サボイキャベツ)でつくる、イタリアのロールキャベツだった。結局、その日はノーゲストで、近所に住んでいた妹とふたりで完食した。ゲストがこなくて残念だった気持ちが、あまりの美味しさでふっとんだ。 このキャベツの特徴はしっかりと煮ないと、全然美味しくないこと。一度、急いでいて、しっかりと煮込まなかったときには、別の野菜かと

ブロッコリーを煮崩す料理

私が人生で一番何度もつくった料理は、たぶんブロッコリーのパスタだと思う。理由は単純で、イタリアでその料理を知って、つくりはじめたのが20歳くらいで、一番長くつくっている料理だから。自分がその美味しさに感動して、長くつくっている料理が、食材ひとつだけでつくる料理というのは、なんだか運命的な気がしなくもない。 まあ、それは置いておいて、先日、インド料理店でこのブロッコリーのパスタに似た料理を食べた。梅田のグランフロントに入っているエリックサウスだ。4、5年前、東京で暮らしていた

柑橘の塩漬け

昨晩、ふと思いついて参加した、イタリア食文化のオンラインセミナーで、塩レモンが登場した。南イタリアのアマルフィで暮らすイタリア人の講師は、毎年庭で大量に実るレモンを塩レモンにするというのだ。 塩レモンは大好きな調味料だ。レモンと塩と時間さえあれば、他のものには真似できない味がつくれる。今使っているのは、もう何年も前に漬けた年季の入ったものだが、基本モロッコの調味料と思っていたので、モロッコ料理やペルシャ料理にしか使ってこなかった。なので、イタリアでも発酵調味料である塩レモン

白菜と豚バラの煮込み

食材がひとつだけの料理が好きだ。理由は、たったひとつの食材で、こんなに複雑な味のものができるのか、こんなにいろいろな味が共存するのか、と毎度びっくりできるからだと思う。私がたぶん人生で一番つくっているブロッコリーのパスタも、ここ数年、私らしい料理とよく言われる蕪のまるごと焼きも、食材はひとつ。人参のオーブン焼きもそう。 どの料理も、調理はシンプルで、焼くだけ、煮るだけ、なのだけど、ひとつの食材を丸ごと使っているので、料理の中にいろいろな味と姿が現れる。葉や根や茎という部位の

林檎のミルフィーユ

恋人とは、お互いの誕生日に、特別なディナーを用意しあうと決めている。ほとんど毎日、一緒に料理をつくり、一緒に食べているので、特別な料理というのは、意外に難しい。普段使わない贅沢な食材を使うという手もあるし、普段はかえられない手間をかけるという手もある。 今年の恋人の誕生日は、赤ワインに合う身体が温まるものというリクエストがあったので、メインはカスレにしようと決めた。生ソーセージをつくり、朝挽き鶏をコンフィにし、ラムとインゲン豆を煮込み、それらを一緒にしてオーブンで焼く。普段

おせちバインミー

お正月も3日になると、そろそろおせちを食べ切ってしまおうというモードになる。去年のお正月からご近所さんとやっている持ち寄りおせち交換会で、焼き豚をつくってくれたメンバーがいたので、これはバインミーがつくれる!と楽しみにしていた。バインミーに必須のなますは、お正月にはたっぷりあるからだ。 ベトナムのストリートフード、バインミーのパンは、皮は薄くてパリッとしていているけど、中はふわふわ。つまり空気が多い。昔、何かの本で、バインミーのパンを焼いている女性のインタビューを読んだ。バ

ラム肉パスタソースの罠

そろそろ昼食の準備しようと、台所に降りていくと、空腹に耐えきれない恋人がすでに料理を始めていた。ラム肉の強い匂い。ジンギスカン丼?と聞くと、トマトと煮込んでパスタソースをつくっていると言う。準備してくれててありがとう、という気持ちとともに、理由は説明できないのだけど、ラム肉でパスタソースは止めたほうがいいんじゃない?という気持ちが込み上げる。 「パスタじゃなくて、ブルグル(挽き割り小麦。クスクスが大きくなったようなもの)にする?」と提案してみるが、ブルグルはもうなかった。諦

金時人参のオーブン焼き

いつも野菜を買いにいく伊丹のJA直売所。年末には幅を効かせていた金時人参が、年が明けてしまえば、やっぱり大きい西洋人参に押されるように、小さいの5、6本が袋に入って、100円ちょっとで売られていた。 そんなの毎年のことだろうけど、「暮れには、あんなに人気ものだったのになあ」と、ぼやきながら袋詰めする農家さんの姿が浮かぶような気がして、勝手に応援気分で3袋買い、まとめてオーブンで焼く。その夜、お呼ばれしていたホームパーティに持っていったら、私お得意の焼いただけ料理だけど、喜ば

お好み焼きの断崖

昨晩、関西に引っ越してきて初めて、お好み焼きを焼いた。もちろん、もう数えきれないほど食べてはいる。ただ、基本お好み焼きは、つくるのも焼くのも、恋人の担当になっていたので、私は座って食べるだけだった。 でも、昨日は恋人の腰痛がひどくて、立ってるのが辛いと言うので、焼くところからは私がやることになったのだ。なるべく細かく言語化してもらいながら、彼の言う通りに焼いていく。 お好み焼き初心者の私なりに、ポイントだなと思ったのは、フライパンに一気に種をのせて山にしたら、崩してならし

優しい声とキムチの味

節分の日、関西に引っ越してきてから、はじめて鶴橋商店街に行った。鶴橋には、もう20年近く前に、当時の恋人に連れられて焼肉に行って以来だ。東京に暮らしていた当時は、鶴橋がコリアンタウンであることもよくわかっていなかった気がする。 JR鶴橋駅の改札を出て、直結している商店街に入る。びっくりするくらい通りが狭くて、戦後の闇市の歴史を感じる。そんな風につながったのは、ちょうど1年くらい前にミン・ジン・リーの『パチンコ』を読んだからだ。 今回、鶴橋商店街に行った理由は、韓国のある料