見出し画像

白菜と豚バラの煮込み

食材がひとつだけの料理が好きだ。理由は、たったひとつの食材で、こんなに複雑な味のものができるのか、こんなにいろいろな味が共存するのか、と毎度びっくりできるからだと思う。私がたぶん人生で一番つくっているブロッコリーのパスタも、ここ数年、私らしい料理とよく言われる蕪のまるごと焼きも、食材はひとつ。人参のオーブン焼きもそう。

どの料理も、調理はシンプルで、焼くだけ、煮るだけ、なのだけど、ひとつの食材を丸ごと使っているので、料理の中にいろいろな味と姿が現れる。葉や根や茎という部位の違いはもちろんある。でも、例えば同じ葉っぱでも、パリっと揚がっていたり、煮込まれていたり、塩が溶け残っていたり、しっかり染み込んでいたり。ひとつの食材に、ひとつの工程を掛け合わせただけなのに、まるで鍋の中で誰かが部分部分に異なる調理を施してくれているみたいで、こんな魔法みたいなことってある?といつも思うのだ。

そんな食材ひとつだけ料理が好きな私に、また新しい料理との出会いがあった。白菜と豚バラの煮込みだ。食材はふたつだけど。

白菜を大きなボウルいっぱいざく切りにして、塩をまぶす。豚バラブロックを角煮サイズに切って湯通しする。ストウブに半分白菜を詰めて、豚バラを並べ、残りの白菜をつめ、呼び水を少し入れて、ぎゅっと押し込んで蓋をする。そこから1時間半以上、ひたすら煮る。そうすると、これ白菜と豚肉だけだよね?とびっくりするような深みのある煮込みができあがるのだ。ふたつの食材が密室に1時間半一緒にいたことで共謀して何かを生み出したとしか思えない。

料理には、手間をかけて複雑な味わいを重ねていく方法もあるけれど、私は、簡単なやり方で複雑な味わいを抽出するのが好きだ。そのプロセス自体に、驚きや美しさを感じるからというのが一番だけど、実は、段取りやマルチタスクが致命的に苦手な私が、ゆったりした気分でできる方法がこれだからなのかもしれない、と最近思うようになった。もっと、そんな料理のレパートリーを増やしたい。余裕をつくるためにも。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?