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角野隼斗武道館公演2024/7/14の後の独り言


ただ楽しむ為に聴いてしまうと本当に楽しんで聴くだけで終わってしまう。

角野さんの凄い所を感じながらもちゃんと言葉にできる知識も表現もない。

それでも残しておきたいこと。

私がこの日角野さんから受け取った「ある自分で勝負する手応えとその覚悟」。

これまで培ってきた、今の等身大の角野さんの音楽。

言葉にするとしても地球上の言葉より宇宙語で発信できてしまいそうなくらい、角野さんのピアノは鮮やかな感動をプレゼントして下さった。

小さい頃から親しんできたと仰るショパンや、リストは大人びて、より人間味と親密さと自由な遊び心。

トルコ行進曲変奏曲では瞬時に移調を繰り返す特異な技術で玄人から素人の私にまで広く音楽の扉を開け放つ。
ピアノで演奏しているのにピアノではない未来的な音楽になるのは音の組み合わせの妙と角野さんのグルーヴ。魔術師である。

自作の曲「HUMAN UNIVERSE」はより客観的な写実性…3次元から想像する宇宙じゃなくて、もう目の前にただある宇宙というか…。とある次元までいくと時間は存在しないそうなのだけど、本当にそんな感覚を得たり。

彼の大事な顔YouTuberとしてのLive配信も素晴らしいアイデアだった。
武道館という大舞台のステージに座り込んで配信カメラの前でトイピアノの超絶技巧。
それを違和感なくやれてしまうキャラクターだったり。

さらにその後魅せた即興はこれまでとは一線を画す世界観。「インヴェンション」「千のナイフ」、ご自身の所属するバンドの曲「Live in this way」、そして「胎動」と自由に遊んでいるようで匠が音を組み上げているような、そしてそれを目の前で体感している観客達との真剣勝負の時間。(勿論カメラの向こうのファンの方達も含む)

何よりも先の狂詩曲で魅せてくれたマレットやタオルを使った内部奏法も、シンセを加えたデジタルな演出も、「音楽」という軸からはブレずに表現される所に角野さんのファンになった理由を見つける。

そして創った音楽のその先には必ず聴き手の事は忘れないということ…。 

新曲ノクターンは角野さんが普段から持つ柔らかい胸の内をそっと覗かせてくれるような。理系の方が緻密に作る叙情的な音楽。
それは波のように押し寄せる自分の感情に向き合いながら自然界にある時間を感じさせてくださるようだった。

「追憶」は最初は本当に鮮明だった辛い思い出が今では記憶が薄れて白く淡くなったように表現されていた。角野さん個人の手からは切り離されて完全にひとつの物語として昇華されているのではと…。

ボレロは更に次元を超えていた。
ただでさえスネアとメロディをひとりで請け負うという狂気に満ち溢れた演奏なのにこの日はふんだんな内部奏法に加え、とうとう地獄まで創設された。
人間の洗練された優美さと欲望に血沸き肉踊る生臭さが混濁して最高にドラマティックだった。
この時はもう角野さんなら何をしても構わないとさえ。

そしてこの日の公演は角野さんが大好きな「宇宙」をテーマとして押し出しているように思うけれど、その中で生きている人間や世界を繋げて描いてくださったようにも思える。

角野さんがこれまでの音楽の世界観と大きく違うのは「立ち位置、視点」だと感じる。
だからこそ既存する事と同じような事だとしても角野さんは次元が違うものが出来上がるのかも知れないなと。

この日この演奏を見せてくれ「僕についてきてください」という台詞はこれまで角野さんが歩んできた道筋を更に深化(進化)させる事への宣誓と捉えた。

つまり更なる行き先が角野さんには見え始めていて、それはきっと私達をも幸せにしてくれるのだろうと思う。

角野さんの誕生日のこの日のために1万3000人ものファンが彼を囲んだけど、そして実際のファンは更にその100倍居るのだけど、彼が闘う時は最後はきっとひとりだ。

だからこそ出来上がったその音楽の声を少しでも感じる事が出来たらといつも思っている。(なかなか出来ないけれど)

「音楽の力」はまだ力強くは証明されていないけれど、角野さんにおいては、角野さんがやりたいことのその先に人類の未来まで託されている気までしてくる。

背負わせ過ぎかもしれない。

でもそれくらいのスケールが、大舞台に立っても尚、動じることなく屈託なく笑う彼の背中にそしてそのしなやかな指に、携えられていると感じた武道館公演だった。

必ず何か起こってそれが良い方へ転じる事も角野さんが常に試されて乗り越えている事の証。
この日も、まさかだったが武道館内に蝉がいて、角野さんの肩という特等席でじっと聴いていた。
SNSで知ったが、蝉はフランスでは再生と復活を意味するらしい…この日の角野さんのプログラムには破壊と再構築とある。
蝉が武道館でこんなに主役になれる歴史はこれからもないだろう。

また更に余談だけど会場ので「HAPPY BIRTHDAY」を角野さんがピアノを弾きながら皆で歌う時、最後合せる所ですかさず指揮をとって下さったが、その歌いやすさのタイミングたるや。
これが音のプロなんだと私は感じざるを得なかった。

「ついてきて」と仰って下さったその覚悟を受け止める側のとてつもない覚悟を私はしておこう。

角野さんの29歳も、更に素晴らしい年になりますように。


最後にこの日のプログラムを記載致します。

ショパン:スケルツォ第1番 ロ短調 Op.20
ショパン:ワルツ第14番 ホ短調 遺作
ショパン:エチュード第11番イ短調Op.25-11「木枯らし」

モーツァルト/角野隼斗:24の調によるトルコ行進曲変奏曲

リスト:ハンガリー狂詩曲第2番嬰ハ短調 S.244/2(カデンツァ角野隼斗版)

角野隼斗:Human Universe

即興

角野隼斗:追憶

角野隼斗:3つのノクターン
Ⅰ.Pre Rain
Ⅱ.After DawnIII.
Once in A Blue Moon

ラヴェル(角野隼斗編曲):ボレロ

Enc. J.S.バッハ:「主よ、人の望みの喜びよ」
Happy Birthday 観客合唱
ショパン:ポロネーズ第6番変イ長調 Op.53