大人の学びコラム 第一回「リスキリング=デジタル?」
こんにちは、ライフシフトnote担当です。
本記事は、弊社の藤井 敏彦講師が執筆する大人の学びコラムです。
楽しく読むだけで知見が深まり、
人生を豊かにするライフシフトの考え方もお伝えしていきますので
ぜひご一読いただければ幸いです!
プロフィール
1964年生まれ。87年、東京大学経済学部卒業。同年、通商産業省(現・経済産業省)入省。94年、ワシントン大学でMBA取得。通商、安全保障、エネルギーなど国際分野を中心に歩き、通商政策課長、資源エネルギー庁資源・燃料部長、関東経済産業局長、防衛省防衛装備庁審議官、国家安全保障局(NSS)内閣審議官などを歴任した。2000~04年には在欧日系ビジネス協議会の事務局長を務め、日本人初の対EUロビイストとして活動するなど、豊富な国際交渉経験を有する。主な著書に『競争戦略としてのグローバルルール』(東洋経済新報社)など。
みなさんこんにちは。
読者の皆様の人生を豊かにするライフシフトの考え方、
未来への思いを持って社会課題に取り組み世界を変えるイノベーターシップの視点を軸に、
世間で通り相場となっている「シニアキャリアの定式、常識」を弊社ならではの視点で斬っていきます。
乞う御期待。
初回のテーマは「リスキリング=デジタル?」です。
では考えてまいりましょう。
ブルーノ・ラトゥールという研究者を耳にされたことありますか。
世界的に著名なフランスの社会学者。
昨年ご逝去されたのですが、日本の主要新聞がこぞって業績をたたえる記事を掲載しました。
同氏は「アクター・ネットワーク・セオリー(以下「ANT」)」という概念で知られています。
日本の経営者の間でもANTへの関心は高く、通じている方も少なくありません。
さて、ANTを一言でいえば、
世界を人間と非人間(技術や科学やモノ)の水平的ネットワークとしてとらえる「異種混交型」の世界観です。
人間も非人間も共に「アクター」として同じ平面上に置かれるところがポイントです。
人同士はもちろん人間とモノや技術も多様につながりお互いを変容させ合います。
その変容の仕方はダイナミックで結果は予測不能であり、相互に連接されることで新しい「アクター」が生まれます。
学問の世界では「理系」と「文系」の垣根を超えたより包括的な方法論として理解されています。
著書「ブルーノ・ラトゥールの取説」において久保明教氏は次のような例を挙げています。
銃と結びついた人間(銃+人間=銃人間)。
「銃人間」は新しいアクターとして登場しますが、
銃人間は猟師になるのか、殺人者になるのか銃規制運動のリーダーになるのか、それは一義的には決まらない。
ただ、銃と結びつくことで人間は変容します。
同時に銃も、猟銃、殺人の道具、政治イシューなどに変容します。
ANTを足掛かりにして本題に取り掛かりましょう。
今日の多くの企業が取り組んでいる事務系シニア層のリスキリング研修はデジタル中心です。
これをANT流にいえば「シニア+デジタル技術」の「デジタルシニア」という新アクターを創造する取組みとなります。
しかし、研修によって誕生する「デジタルシニア」が社内反デジタル主義活動のリーダーとなるのか、
聞き流してなんら変容しない従前の「シニア」のままなのか、
はたまたデジタルを使いこなし一層「できるシニア」になるのかは一義的には予見できません。
世界観としてのANTが示唆すること。
それは「シニア+デジタル」に留まらず、
「シニア+デジタル+α+β+・・・」のα、β、γ・・・も考えなければならないということです。
αには会社のDX化に向けた方針の本気度が入るかもしれません。
会社のDXへの取り組みが上辺だけだと感じられれば、
何も変わらないシニアか下手すると反デジタル主義者を生みかねません。
βにはシニアに与えられた仕事の裁量の範囲がはいるかもしれません。
新しい企画のイニシアティブをとる裁量を有しているデジタルシニアと
そうでないデジタルシニアは必然的に別の「デジタルシニア」になるでしょう。
γとしてシニアの仕事へのモチベーションを高める施策も欠かせないでしょう。
「デジタル技術」だけを抽出してもシニアご本人にも会社にもそれがどのようにプラスになるか、
成果はサイコロを投げるに等しいのです。
リスキリング=デジタル・リスキリングの研修には意味はありますが同時に限界もあります。
シニアが再獲得すべき「スキル」は幅広く多様です。
変化しているのはデジタル技術だけではありません。
リーダーシップの在り方もそう。企業を取り巻く社会の姿もそうです。
もちろん自らの将来への展望によっても「デジタルシニア」の活躍の幅は変わってくるはずです。
そのとき、同時に「デジタル技術」自体も様々な程度で変容を遂げます(会社の戦略の決め手から「お飾り」まで)。
なかでも重要なことは組織と研修を受けるシニアの間で目的がはっきり共有されていることではないでしょうか。
目的は「(既に定式化された)デジタル技術を勉強する」に留まるものではないはずです。
リスキリングはシニアの多面的スキルアップを通じて
新しいアクター間の連接を創造し組織目標の達成を図る取り組みです。
「技術研修」に終わらせてしまってはなりません。
シニアはデジタル技術と同時に他の多様な新しいアクター(例えばNGOもその一つでしょう)と連接していくことが必要です。
目標に向けた組織と人間の「変容」をいかに起こすか。
問われていることの本質ではないでしょうか。
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