見出し画像

30歳初海外紀行〜オーバーヒートしたインプットの奴隷〜

私は暇さえあれば何かインプットしていたい。

通勤時間はもちろん、家事をしながら絶対ラジオを聴いている。家に帰れば映画か海外ドラマかアニメを見て時間を過ごしている。街を歩けば、人々の会話を立ち聞きしてファッションチェックを行っている。外界の情報を読み解きインプットして、日本ですらあっぷあっぷしているのに、いわんや海外をや。

海外というのは本当に知っている情報が少ない。路線図ひとつとっても、一歩間違えれば逆方向に連れていかれ、これが飛行機ならいくら損するか考えただけでもゾッとする。ひとつも間違えないようにするには、目の前の情報を細部まで読み解き取り入れ、噛み砕かなければならない。情報を変換するスマホはWi-Fiの届く範囲でしか使えない最終兵器。己の頭脳と勘だけが頼りだ。

異変を感じたのはスウェーデン三日目の観光を終えて、彼女とスーパーで買い物をしているときだった。彼女の紹介してくれる食材や珍しいお菓子の説明が全く頭に入ってこない。初日は初めての海外に浮かれて、日本では出会わないトイレの構造やトイレットペーパーまで写真に納めていたのに、大好きな料理に対して拒否反応が出てきた。彼女の喋っている言葉は日本語なのに、未知の言語で脳をかき混ぜられているように昏倒しそうだった。日本との気温差20度の大雪の中で気を張って1日中歩き回り、昼からワインを飲んでバターと塩分をこれでもかと詰め込んだミートボールを貪り、美術館の英語の説明を必死に読み下していたからか、はたまたその全てか。

私はオーバーヒートした。次の日は彼女が仕事している横で1日中ゴロゴロして散歩だけでして過ごした。もちろん彼女の手料理は美味しく、スウェーデン最後の料理としてはこの上ない満足度だったのが救いだ。

そもそもが海外をフルで楽しんでやろうという気概が大人気ない。30歳にもなったのだから、ゆったり大人気分で楽しまなければいけない。初日から寒くて葛根湯を飲むような人間が歩き回った結果、終始寒さにやられて海外の薬局にお世話になる羽目になったのだ。帰国後一週間経とうとしている今も気管支をやられている。

海外のお薬は本当に効いて、帰りの飛行機は倒れるように寝込んで9時間のフライトがあっという間だった。薬を飲んで見た夢は、自分がイソギンチャクになってゆらゆら暖かい海を漂いながらブニブニしたものを揉んでいると思ったらシャワーを浴びているという、夢か現かわからないまさにトリップだった。

ちなみにインプットでオーバーヒートしていた海外旅行中は、とりあえず目についた看板を口に出して読むという現象が起こっており、彼女に何度も聞き返されて「ごめん、意味はないねん。」という気持ちになっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?