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『パレードへようこそ』(2014)


監督:マシュー・ウウォーカス
脚本:スティーブン・ペレスフォード
主演:ビル・ナイ

STORY

 1984年、不況に揺れるイギリス。サッチャー首相が発表した20カ所の炭坑閉鎖案に抗議するストライキが、4カ月目に入ろうとしていた。ロンドンに暮らすマーク(ベン・シュネッツァー)は、その様子をニュースで見て、炭坑労働者とその家族を支援するために、ゲイの仲間たちと募金活動をしようと思いつく。折しもその日は、ゲイの権利を訴える大々的なパレードがあった。マークは「彼らの敵はサッチャーと警官。つまり僕たちと同じだ。いいアイデアだろ?」と、友人のマイク(ジョセフ・ギルガン)を強引に誘い、行進しながらさっそく募金を呼びかけるのだった。
 パレードの後、“ゲイズ・ザ・ワード”での打ち上げパーティで、マークは“LGSM(炭坑夫支援レズビアン&ゲイ会)”を立ち上げる。だが、参加を表明したのは、書店主のゲシン(アンドリュー・スコット)と彼の恋人で俳優のジョナサン(ドミニク・ウェスト)、唯一の女性のステフ(フェイ・マーセイ)、両親に秘密で初めて参加したジョー(ジョージ・マッケイ)を始め、たった9人だった。
 バケツを手に街角で集めた寄付金を送ろうと、全国炭坑労働組合に連絡するマーク。ところが、何度電話しても「レズビアン&ゲイ会」と名乗ると、「後でかけ直す」と切られてしまう。ここロンドンでも、まだ「ヘンタイ!」と罵声を浴びせられる彼らは、組合にとっては異星人に等しかった。
 炭坑に直接電話すればいいんだ! またしてもマークのアイデアで、ウェールズの炭坑町ディライスの役場に電話すると、あっさり受け入れられる。数日後、ディライス炭坑を代表してダイ(パディ・コンシダイン)がロンドンまで訪ねてくる。「それでLGSMって何の略?」と訊ね、Lはロンドンの略だと思っていたと唖然とするダイ。だが、彼に偏見はなかった。その夜、生まれて初めてゲイ・バーを訪れたダイは、大勢の客の前で「皆さんがくれたのはお金ではなく友情です」と熱く語る。
 ダイの感動的なスピーチのおかげでメンバーが増え、LGSMはディライス炭坑に多額の寄付金を送る。支援者への感謝パーティを企画した委員長のヘフィーナ(イメルダ・スタウントン)は、「絶対にもめごとが起きる」という反対を押し切ってLGSMの招待を決定するのだった。
 ミニバスに乗って、ウェールズへと出発する主要メンバーたち。ジョーは両親に調理学校の実習旅行だと嘘をつき、故郷ウェールズの母親との確執を抱えたゲシンは留守番だ。やがてバスはウェールズに突入、平原の中どこまでも続く一本道を行き、ついに炭坑町に到着する。
 委員長のヘフィーナや書記のクリフ(ビル・ナイ)が温かく迎えてくれるが、会場を埋める町人たちの反応は冷ややかで、マークのスピーチが終わると、続々と退場して行く。しかし、翌日になると、好奇心を抑えきれない人々が、彼らに様々な質問を投げかける。「どちらが家事をするの?」など無邪気な疑問に答えるうちに、互いに心を開き始めるゲイと町人たち。さらにジョナサンがダンスを披露、歓迎会は大喝采のなか幕を閉じる。
 だが、組合と政府の交渉は決裂、ストは42週目に入り、サッチャーは組合員の家族手当を停止する。再び町を訪れたマークたちがさらなる支援を決意した矢先、町人の一人が新聞に密告、「オカマがストに口出し」と書き立てられ、LGSMからの支援を打ち切るか否か採決がとられることになる。今や町人たちと深い友情で結ばれたメンバーたちは資金集めのコンサートを企画するが、その先には思わぬ困難が待ち受けていた──。(公式HP)

映画を通してマイノリティを知る

 今回扱う映画はマイノリティ同士の結束を強めた映画だ。しかし私は炭坑夫でもなければ、セクシュアルマイノリティでもない。さらにどちらに対しても専門家というわけではない。では、なぜマジョリティの立場に立つ私がこの映画を見ようと決めたのか。それをまずは伝えたいと思う。

 人間は知らないものに対して恐怖や敵意を向けてしまう。それは人間の持つ本能だ。だからこそ名前をつけて、それらを定義・分類していくことで安心し、理解しようとしてきた。そうやって関心を向けて知っていく過程で、誤解や偏見が生まれるのかもしれない。だが、そんなトライアンドエラーを繰り返して人間は進歩してきた。
 そして、それを知る手段として機能してきた一つの手段が映画だと思う。映画は記録媒体として19世紀の終わりから今にかけて、作為と自然の間で記録されてきたものをいくつか紹介する。

 例えば、現代でもなおマイノリティであるトランスジェンダーの人々が、ハリウッド映画でどのように描かれてきたか、アーカイブを振り返ると共に、彼らを代表するオピニオンリーダーやクリエイターらが分析。それぞれの意見や思いを語る。『トランスジェンダーとハリウッド』では、まさにその歴史を網羅的に観察することができる。
 1977年カリフォルニア州サンフランシスコ市の市会議員に当選し、同国で初めて選挙で選ばれたゲイを公表していた公職者となるミルクを題材にした『MILK』は、歴史的な瞬間をクオリティの高い創作物として記録した。しかし、今では異性愛者が同性愛者を演じていることに批判が生まれるかもしれない。
 日本においても、尊敬する男性上司から愛の告白を受ける男性社員の恋愛模様を描く『おっさんずラブ』は、社会現象を巻き起こすと共に、BLの文化を明るみにした。ここにも当事者は不在だったかもしれない。

 このように、映画が必ずしも当事者のために作られたものではないにしろ、その存在を知るための手段の一つとしては十分に機能している。そもそも知る人が増えないと認知度も上がらず、民主主義の社会では黙殺されてしまう。また、映像作品に対する声をマジョリティが上げることによって、当事者から「それは良い作品だけど、実は本当は違うんだ」と声が上がり、社会の中で対話が生まれる。例えば、炎上商法はあまり感心しないが、炎上が流行ったことで、社会的にタブーな態度というのはかなり明るみになったともいえる。まずは何が良いか悪いかではなくて、互いに声を上げることが必要だと思う。だからこそ、この分野ではおそらくマジョリティの私が、マイノリティを題材にした映画について声を上げようと思う。

偏見と数字

  本編のオープニングとクライマックスを飾るプライドパレードは、ニューヨークで1969年6月に起こったストーンウォール事件の1年後に始まったと言われている。映画の舞台はイギリスの1984年と85年なのでその15年後にあたるが、セクシュアルマイノリティに偏見を持ち差別する人がいることは変わっていない。しかし、プライドパレードが海外でも続いているということは、その存在は以前よりも社会に受け入れられていると考えたい。

 「あんたらの5人に1人は(セクシュアルマイノリティが)いる」と劇中で語られるが、日本はどうなのだろうか。2019年の調査では、8.2%の人がLGBTQに該当するそうだ。5人に1人とは言えないが、年々増加傾向にあることを思えば、5人に1人となることもそう遠くないことだろう。おそらく社会的認知度があがるにつれ、数字は増えてくる。

小物と文化、混ざり合うこと

 映画にはもちろん小物や美術も大事なものである。主人公を象徴する色や文化が取り組まれていて、そこの説得力や嘘から映画を読み解くことも楽しい。今回の映画もそういったものかもしれないが、イギリスファッションの好きな私にとって、とにかくこの映画で出てくる小物やファッションが好みに突き刺さる。
 まず、冒頭やパーティシーンで出てくるコップがホーンジーというイギリスの食器ブランドである。1949年に設立されて2000年には閉鎖してしまったブランドだがまだ蚤の市ではよく見かけ、かくいう私も持っている。
 さらに、お菓子の専門校に通うジョーがラブパレードへ向かう時に履いている靴はジャーマントレーナーだ。日本やマルジェラのリプロダクトが有名な旧西ドイツ軍が70~80年代に生産されたもので、80年代リバイバルが来ている今、この靴が見れてテンションが上がってしまった。
 さらにファッションでいえば、マイクとマークのファッションは興味深い。マイクはメガネをかけてシャツやカーディガンを着て、イギリスの紳士らしいスタイルだ。一方でマークは革ジャンを着たロックスタイル。イギリスは伝統的にどちらの文化も根付いている。この一見、相反する文化が合間見えているのはファッションだけではないはずだ。この映画は、一見無関係に見えるセクシュアルマイノリティと炭坑夫が支え合う映画だ。LGSMは共通の敵を見つけた炭坑夫たちを支援し、炭坑夫はLGSMに恩返しをする。こんなふうに全く違ったものが混ざり合う様子は非常に興味深く、そして優しい気持ちになる。

引用

公式HP
http://www.cetera.co.jp/pride/story.html

日本のLGBTQ人口(https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/document/4.html
Ha'ndle
(https://handle-marche.com/antique/choose/explanation/howto-81/)

Know essence
(https://knowessence.com/fashion/german-trainer%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%A8%E7%89%B9%E5%BE%B4)



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