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新型コロナ関連法制改正案は抜本的に見直すべきである <解説編>

1 <結論>新型インフル特措法改正案は抜本的に修正すべきであり、感染症法改正案は一旦撤回すべきである。 

 1月22日に国会に提出された政府のコロナ関連法改正案に関して、「新型インフル特措法」の方は、法改正の必要はあるものの、内容がひどいので抜本的な修正が必要です。「感染症法」の改正の方は、そもそも改正を必要とする立法事実の存在自体が説明されていないうえ、立法目的との関係で逆効果なので、いったん撤回すべきです。

 今回、撤回を求める感染症法の方はともかく、インフル特措法の方は、抜本的見直しが必要だという以上は、修正案が必要でしょうから。弁護士有志で、三日ほど夜なべして、修正案を公開させていただきました。

<参照>弁護士有志で作成した修正案

 国会も、三日ほど必死に議論していただければ、適切な法案の修正が実現できると思います。

 以下、今後の修正協議に役立てていただきたいという趣旨で、弁護士有志の修正案を解説します。

2 「まん延防止等重点措置」は、ミニ緊急事態としては絶対に認められず、『緊急事態予防措置』として位置づけなおすべきである

 まず、ミニ緊急事態としてのまん延防止等重点措置は絶対に認められません。現行法の緊急事態宣言でもできないような命令や罰則までを実装しながら、国会承認も損失補償規定もないというのは、純粋な人権侵害立法だからです。

 弁護士有志内では、この制度自体を削除してしまう修正案も検討しましたが、最終的には、まん延防止等重点措置は、抜本的にその性質を変更させたうえで規定すべきということになりました。

 すなわち、『緊急事態予防措置』として残すということです。本当は、名前もこれに変えてしまった方がいっそわかりやすいです。

 確かに、新型コロナウイルスの場合、医療リソースのひっ迫が現実に生じる前に、適切な予防的措置をすることには意味があります。

 しかし現状は、知事等が、緊急事態宣言が出ているわけでもないのに、法的に明確な根拠なく(特措法24条9項を無理やり使うという強引な手段を用いています)地方独自の緊急事態宣言を出したり一方的な要請を出すなど、法の支配という観点から重大な問題が生じています。
 そこで、緊急事態宣言を出す前の時点で行われる要請等に、きちんと法的根拠や民主的統制を与え、支援措置等との紐づけを明確にすることが重要と考え、あえて、予防措置を法定する形を選択しました。
 
 ただし、予防措置の段階は、あくまで緊急事態ではないので、強制力のある命令等は行えず、あくまで、市民や事業者が任意に従う要請レベルにとどまるべきです。また、要請であっても、現実に市民活動や事業活動にマイナスの影響を与える以上は、国会報告や、延長時の国会承認等は必要ですし、一定の支援措置と紐づけられるべきです。

 さらに、これは、緊急事態宣言を出さなければならない状態を予防するための措置ですから、一方的に市民や事業者にだけ自粛等をお願いするのではなく、行政の側が、病床数の拡充その他の医療キャパシティの充実化努力をしなければなりません。こうした、行政の側の責務こそ、むしろ法改正によって書き入れるべきなのです。

3 制約が強くなる以上、緊急事態宣言への民主的統制の実装と国民への説明責任強化は必須である

 今回の政府改正案では、事業者に対して命令や過料という制約強化を行いながら、緊急事態宣言を出したり延長したりする際の民主的統制の強化は全くされていません。

 これは、制約が弱いからという理由で発動要件が緩かった特措法の構造を、根幹から揺るがすもので、この法律の性質を人権侵害法案に変えてしまう変更です。

 そこで、弁護士有志の修正案では、緊急事態宣言を出す際にも、延長する際にも、国会承認が必要という仕組みに改め、少なくとも6か月に一度は、国会による民主的統制に服するとしています。

 また、単に国会決議を取るだけではなく、国会は、当該緊急事態宣言の必要性や措置の妥当性等について必要な検証を行うことになり、政府も、緊急事態宣言の発出の根拠となった情報、基準等の情報を国民に対して開示しなければならないとしています。

 国会承認が必要といったって、与党の側が圧倒的多数では意味が無い、と考える方もいるかもしれませんが、政府に判断の根拠を示させ、国会による検証を義務付ければ、単純な判断の追認にとどまらない民主的検証の機会が国民の側に確保できます。

 一方的に国民の義務を規定するのではなく、国民への説明責任をきちんと規定しましょう。

4 緊急事態宣言下には事業者へ指示や命令を課すが、十分な支援や損失補償とセット

 緊急事態宣言も出されていないまん延防止等重点措置の時点で事業者等に命令や罰則を課してはいけないという点は既に述べた通りですが、緊急事態宣言を出している状況では、むしろ、明確な指示や命令を出した方がよい場合もあります。もちろん、適切な損失補償等とセットになることが条件となります。

 一番まずいのは、十分な支援や損失補償が権利として確保されていない状態で、要請に従わないと命令や罰則が待っているぞと脅されて、要請段階に従わされてしまうことです。これでは支援に従っても救済されるかどうかが行政の判断次第になってしまうからです。

 そこで、弁護士有志の修正案では、事業者に対する指示、命令、過料の枠組みを整えたうえで、指示をする場合の「十分に」効果的な支援や、命令をする場合の損失補償を明記しています。

 政府改正案では、「要請⇒命令」という規定となっているのに対して、修正案では「指示⇒命令」となっている点が一つの特徴です。これは、一見すると、修正案の方が制約が強いようにも思いますが、これはむしろ、実質的な強制力ある「要請」という意味不明な状況を排除する趣旨です。

 要請というのは、本来は受けた側に従う義務はないのであって、政府改正案のように、従わないと不利益が待っているぞという「要請」は、もはや要請ではなく半強制なのです。ですから、弁護士有志の修正案では、要請は、あくまで従わなくても不利益を課してはならないものとして整理しています。半強制の要請はやってはだめだという整理です。

 そして、指示の段階から、政府には指示の名宛人及び関連事業に対する「十分に」効果的な支援を義務付けています。飲食店の納入業者や緊急事態宣言が出されていない地域の同一業種など、指示の直接の対象でなくても影響を受ける事業者はいるので、関連事業者という形で一定の広がりを持たせています。

 なお、政府案にも支援は規定されますが、「十分に」という言葉が入っていません。一律の協力金は、一定の効果はあっても十分ではありません。そのため、ここは「十分に」と書くか、あるいは「事業規模に応じた」と書くか、いずれかが必要です。

 さらに命令段階に至っては、損失補償を明記しています。命令段階まで至れば、その気になれば憲法第29条を根拠に損失補償が可能と考えられますが、憲法を根拠とした補償を請求するのは非常に大変なので、特措法にしっかり明記すべきです。

 また、命令については対象や内容が必要最小限でなければならないことを規定し、命令違反の過料については、命令に違反したことだけではなく、「それによって感染拡大が生じる危険があること」も要件に加えています。

 命令や過料について、不服審査請求や取消訴訟ができることは当然ですが、確認のために規定しています。

5 国民への支援および医療機関、地方公共団体への支援はしっかりと明記すべき

 今回の改正案においても、国民には命令や過料は課されていませんが、外出自粛要請等はされることになるので、要請に応じることによって「生じる不利益を最小化する」ための支援を行うことを、特措法にしっかり明記しておくべきです。

 法的根拠がない状況では、政府の側に、支援を行う義務が生じないため、支援の実施や規模が、その時々でまちまちとなり、政治的な駆け引きに利用されてしまうからです。

 また、医療機関などは、感染拡大防止のために、多大な負担や協力をお願いすることになりますから、効果的な支援を明記すべきです。


6 差別の防止の規定は政府改正案では弱すぎる

 社会的なヒステリー状態によって、医療・介護従事者の家族などへの不当な差別が行われたり、あるいは新型コロナに感染した人が悪人のように扱われたりすることは、社会全体として毅然たる態度で防ぐべきです。

 補償等が不十分であるため時短要請等に従うことができなかった事業者に対して嫌がらせをするといった行為(いわゆる自粛警察的な行為)等も、確実に防止する必要があります。

 そのため、本修正案では、①差別等の有無に関する実態調査、②適切な啓発、③差別等を受けた者への効果的支援、救済措置、④差別等を行った者への差別禁止の勧告、悪質な事案の公表を規定しています。

 制裁的な公表ができることを法律に明記すべきは、要請に従わなかった事業者ではなく、悪質な差別事案の方です。要請に従わないことは違法ではありませんが、悪質な差別は人権侵害行為だからです。

7 特措法改正は必要だが、現行改正案はあまりに行政目線であり、抜本的修正が必須

 以上、弁護士有志で作成した特措法改正案に対する修正提案について、簡単に解説しました。

 この修正案は、非常に短期間でまとめたものなので、今後もさらなる議論や練りこみが必要ですが、まずは、この修正案を提出した趣旨や重視したポイントについてご理解いただければ幸いです。

 政府としても、柔軟に修正協議に応じるということですので、必ず、国民目線で、抜本的な修正を行っていただければと思います。


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