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「お菓子作りが苦手」な理由

 お菓子作りが苦手だ。算数が苦手だから。
 かつて義理チョコ戦国時代を生きていた小学校高学年の頃、見栄を張って手作りチョコを作ろうとしたことがある。「ひとりでできるもん」とほざいたお調子者は、習いたての比例計算を間違えて、お店の什器に入っている板チョコを買い占め、バレンタインが過ぎてから2ヶ月の間、泣きながら余った板チョコを齧り続けた苦い記憶がある。小学生時代の失敗を毎年2月14日になると家族に擦られ続ける。プライドエベレスト、撃沈。
 お菓子作りは目分量が通用しないことも心理的ハードルが格段に跳ね上がってしまう。日頃の料理で「えーい、細かいことは知らんがこれくらいでいっか!」と調味料をぶち込むような大雑把で感覚頼りの私に、正確さを求められるお菓子作りは相性が悪い。あと、何故かわからないが私は「卵と牛乳と小麦粉が混ぜられ始めた画」がどうしようもなく苦手なのだ。ちょっと…うん。オエ…。
 あれから早十余年。今年、気が狂ってバレンタインに手作りデザートを作ってみようと思い立ってしまった。気が狂っていた割に己の力量を見極めることは怠らず、「焼かない」「蒸さない」「工程が少ない」という3原則を己の心に刻み、レシピを吟味した。(ちなみに、祖母「糖尿病だから甘いものを思い切り食べられない」+妹「牛乳とホイップクリームが嫌い」+叔父「甘いものが嫌い」+叔母「推しのためにダイエット中」という事実も加味した。…私、優しいね。)
 決定したのはお豆腐で作るココアプリン。絹ごし豆腐、豆乳、砂糖、ココアパウダー、溶かしたゼラチンをミキサーにかけて固めるだけのどうやっても失敗のしようがないレシピを選んだ。砂糖もオリゴ糖を含む甜菜糖をチョイス。万全の布陣。
 昨夜は緊張して寝られなかった。比例計算が間違っていたらどうしよう(※26歳、教員免許持ち)。私は自分のことが度々信じられなくなる。私が見たものは本当に現実のものだったのか。私の計算(計10回確認した)は果たして合っているのか。己を信じてはいけない。信じられない。そもそも己を信じるとはなんだ。「己」「巳」「已」のやっつけ仕事感が気になってしまう。待て、どれが何という字だったっけ。あああ。無駄な深みに嵌り、夜は更けていった。
 結局、本当に自分に対して疑心暗鬼になってしまった私は、7歳年下の妹にも計算をさせ、責任の所在を分散させるという手段をとった。
 そうして出来上がったココアプリン。プライドズタボロのトラウマを乗り越えて完成したココアプリン。ゼラチンの量をレシピ通りではなく「1gくらい誤差誤差!」と全く反省の色がない人間が作ったココアプリン。家族に手作りするのは今年が最後かな、なんてちょっとセンチメンタルな空気を勝手に醸し出しながら作ったココアプリン。美味しくできましたよ。

これだけ作って本命は無しという現実


 ここまで書いておいて何だが、私は多分、根本的に甘いお菓子が苦手だ。よって、お菓子作りへの苦手意識は単にお菓子作りに対する熱量が乏しいだけに過ぎないのかもしれない。あ、もしかして…自分が食べてもそんなにテンションが上がらないから、バレンタインにお菓子を作らない大義名分が欲しくて意図的にトラウマを錬成していた…のか…?「お菓子作りが苦手」は言い訳だったってこと…?


材料調達に出かけた大型スーパー。バレンタインフェアが行われていた催事場では延々と国生さゆり「バレンタイン・キッス」のサビだけが流れていた。延々と。サビだけが。

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