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筋肉が張っている、とは?

 『張り感』とは何か? 

この問いに答えるのは難しい。


 それは、可動域が足りないことなのか?

 それは、動くときに余計な力が必要なのか?

 それは、筋肉が硬くなって全く緩んでくれない状態なのか?

 それは、緩んでいるのにはっきりしない違和感なのか?

 それは、痛みまで行かない不快感なのか?


クライアントにこんな人はいないだろうか

例えば・・・ハムストリングの張り感


* 床に手が付くが筋肉が張る人

* 床に手が届かないが張り感がない人


 問題になるのは前者の『床に手が付くが筋肉が張る人』だ。なぜ筋肉は充分伸びるのに張り感を感じてしまうのか。実際には筋肉は縮んでいないのに張り感が出ると言うことは”張り感は関節可動域の正確な指標になり得ない”という事になる。


 つまり筋肉の張りは2パターンあると考える。

”実際に硬く縮んだ筋肉が物理的に張っていて『張り感』を出すパターン”

”実際には短縮していない筋肉が感覚的に張っていて『張り感』を出すパターン”


感覚的張り感の知覚とは?

 組織的な損傷が無くても感じる点から考えると例えば『痛み』の知覚によるものがとりあげられる。


『痛み』とは、時に恐怖や脅威の知覚から生まれることもあり、必ずしも現実の痛みとは一致しない事がある。痛みとは本来”警告”である。これ以上動いたり身体に異常が起きた時、身体の危害や危険を最小限に留める。その警告が作動するような状況を学習し実際に損傷が無くても『痛み』を出すのだ。


 つまり・・・

 『特定の環境(ex.職場のデスク)』+『特定の感覚(ex.最悪の気分)』

 =痛み(もしくは痛みまで到達しない不快感)


 みんなも経験が無いだろうか?

・読書をし出したら眠くなる

・嫌いな上司(または同僚)とのミーティング後のコリ感

・仕事の日の朝は眠いのに休みの日の朝は眠く無い…etc


 これらはすべて脳の学習によるものだ。もう議論し尽くされたが慢性疼痛の患者にはこの学習された痛みがある。そして『痛み』とは『警告』だ。その痛みの軽症なものが『張り感』なのではないかと推測する。


何に対しての警告か?

 この『痛み』=『警告』は何に対して身体の脅威を感じているのか。デスクワークなど長時間同一姿勢の中にどのような脅威や恐怖が有るのか。


 では、筋肉の作用とは何か?

 筋肉は本来収縮するものだ。

 そう、収縮しなければならないのだ。我々は筋肉の収縮を”悪”だと考えがちだ。確かに過剰な収縮や長時間の収縮は良くない。だが、筋肉は収縮するものだという大前提を忘れてはいけない。


 そう考えると、例えばデスクワーク中に股関節の外側や足が苦しくなり張ってくるのは血液循環が悪いだけなのだろうか?僕は違うと考える。

 つまりこの張り感や不快は筋肉を収縮させろという感覚神経の”警告”なのではないか。感覚神経の感受性が高くなって『張り感』が出てくるのではないか。

 そしてその痛み=警告はデスクワーカーに身体を動かす動機をもたらす。(立ち上がる、ストレッチ、肩を回すetc)


対処方法は?

 結論から言うと簡単に答えは出ない。なぜなら先に書いた『特定の環境』と『特定の感情』は誰しもが共通ではないからだ。


 そして慢性的な症状を抱えるクライアントはすでにこの”警告”に従いそれぞれが対処している。デスクワーク中に必ず肩を回したり、ストレッチをしたりしているはずだ。

 だがもし仮にこの『張り感』が軽症の痛みで有るならば対処方法はより簡単なものになり、今までの我々のアドバイスに誤解があった事に気づくだろう。


1、ストレッチ

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 あなたはもしこの様なクライアントに「ハムストリングが張って仕方ないの。」と相談されたらどうだろう。僕にも経験が有るが、ヨガやバレエの指導をしているクライアントに良く有るケースだ。

 もしこの人が組織の短縮や癒着が原因なのであればそれは正解だが、もしこれが感受性が高くなっているのであれば逆効果である。

 結局ストレッチは効果があるのか?もちろん鎮痛やリラクセーションをもたらし可動域改善や血流も改善してくれる。だがこのクライアントにとってこれは最善なのか?これはぜひ自分で考えてみて欲しい。


2、軟部組織アプローチ

 筋膜リリースや深部筋マッサージ、癒着はがしなどの筋膜に対するアプローチはほぼ不可能であると多くの人が指摘しています。これについては日本では議論を呼ぶので後で詳しく記事にしようと思う。

 だが、マッサージによる感受性の抑制には効果的だと言う事が証明されている(ここを説明するとかなりややこしくなる)。よってクライアントそれぞれに適正な圧でのアプローチは効果的である。だがこれは1つの選択肢である事を決して忘れては行けない。きっと効果は長続きしないだろう。


3、運動療法

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 世の中にある運動療法は、基本的に身体の動き全般の制御を目的としている。それは関節のコントロールや呼吸パターンの改善、正しい姿勢、動きの習得である。

 これによりより長時間座れたり、また緊張の取り除き方を習得できるだろう。もちろん習慣を変えるのは難しいが原因が特定の姿勢などによる緊張なのであれば効果は期待できる。ただより複雑になるとこれだけでは効果は薄いだろう。


4、ウエイトトレーニング、エクササイズ

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 これらには筋肉痛(遅発性)により翌日身体のこわばりを感じたり、ウエイトトレーニングを筋の緊張と結びつける傾向にある。また筋トレにより可動域が減少してしまうと言う考えもある。

 だがどれも正しいとは言えない。事実、全可動域を使ったウエイトトレーニングはストレッチよりも可動域が広がる。感情のコントロールや過敏になった神経を抑制してくれりする。


 個人的な話だが、僕は大学でトレーニング指導をしていた駆け出しの頃、学生達にヒップヒンジを躍起になって指導していた。右側の脚で手本を見せすぎた結果、関節可動域が出過ぎて右側のハムストリングにしつこい張り感が出る様になったのだ。僕は片脚ずつレッグカールを行い愕然とした。右側のみ最終可動域まで収縮できなくなっていたのだ。それからシングルレッグでレッグカールを行なった結果、前屈の可動域が減少してしまい、ハムストリングの張りはキレイにいなくなった。


結論

 『張り感』には単なる感覚もあり”短縮”という物理的状態では必ずしも無い。感受性が過敏であればよりそれは強く感じる。そのほかの知覚同様、体調・筋力・運動制御・健康を改善すれば感受性は下がる。


参考文献:Todd Hargrove (2015)『Why Do Muscles Feel Tight ?』