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パニック障害とダンス教室②

ホッとしたのもつかの間、クラスが始まって、体を動かしていても足の先が冷たいし、上にのぼせ上った気がなかなか下に降りてこない。
他のペアの人達が楽しそうにダンスに興じる中、(苦しい時は、他のみんなは楽しくやっていそうに見える)イマイチ気分が乗らなくて、ペアのサンドラに悪いなあと言う気になってくる。このサンドラという女性、50半ばぐらいだと思うが、ドイツ人女性には珍しく明るく大声で笑い、しかもとてもフレンドリーで、他の参加者にも分け隔てなく自分から話しかけに行く人である。

悪いなあ、私みたいな人に当たっちゃって。さっき別の男の人と踊っていた時はとても楽しそうだったのに、私と組んでやると、なんか無表情になっちゃって、あまり楽しめてなさそう。申し訳ないなあ、あーあ、なんで私ってこうなんだろう。
ネガティブな思いがこみ上げてきて頭を占領していく。そうなると負の連鎖が止まらない。体は冷たく、頭はボーっとして、あのイヤーな感じが徐々に強くなっていく。パニックの前触れだ。
もう体を動かしていても心ここにあらずで、音楽がやたらとうるさく、みんなの笑い声が耳をつんざく。どうしよう、倒れちゃうのかな。ダメだ、何とか静めなきゃ。

私は、サンディに断ると、バッグをつかんで、教室を出た。
トイレの前にある椅子を2,3個つなぎ合わせ、その上に横になって何とか落ち着こうと努める。
持ってきたパンをかじったり、お茶を飲んだり、バッチフラワーのレスキューグミをかんだり。しかし不安な気分はなかなか落ち着かず、結局残りの30分、クラスが終わるまで、その場にとどまっていた。

クラスが終わったのか、ドアが開き、みんなが帰っていく気配がする。
そろそろ起き上がらなくちゃと思っていると、先生とサンディともう一人、クリスティーネという丸っこい顔の親切そうなおばさんがやってきてくれた。
「どう?少しは収まった?ちゃんと家に帰れそう?」
と聞いた後、クリスティーネは、
「私もね、似たような経験があってよくわかるわその気持ち。私の場合、車をガレージに入れているときに突然それが襲ってきて、途中でどうしてもそれ以上進めなくなっちゃったのよ」
と言う。何と、同じクラスにパニック障害の経験がある人が2人もいたとは。

サンディに、
「ごめんなさいね。あなたの夜を台無しにしちゃったわ。私のせいで楽しくなかったでしょう」
と言うと、きょとんとした顔で、
「あなた、何のことを言っているの。私いつも言っているじゃない。あなた初心者なのにすごく覚えが早くて感心しているって。あなたが来てくれて助かっているわ。来週も会えたらうれしいわ」
と言ってくれた。ホッ。ドイツ人はあまりお世辞を言わないから、これは彼女の本心だろう。ブスっとしていると見えたのも、私のネガティブ思考がそう思わせていたんだった。

クリスティーネは、
「次回からね、また不安になって教室を出るときは、私に声をかけなさい。一緒に付き添ってあげるから。パニック発作が起こったとき、一人でいるのが本当に孤独でひどい気分なのよ。誰かが側にいれば早めに収まるわ」
と優しく言ってくれた。みんな優しい人達だな。ドイツ人は冷たい、距離があると思っていたけど、自分が心を開けば、こんなに暖かい反応が返って来た。


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