見出し画像

中国人の友達とダンスと

昨日は思い切って同じ町に住む中国人のお友達チンちゃんのお家へ行ってきた。
思い切ってというのは、去年はこんな簡単な事さえも私にとってハードルが高すぎたから。
彼女はとてもいい人だし、なにも緊張することがないはずなのに、行くと考えただけで、お家の中に入って、椅子に座って話すと思うだけで、大丈夫かな、パニックにならないかな、すぐに逃げられないし、どうやって取繕ったらいいだろう、などなど考えてもうそれだけでグッタリ。
実際に去年の夏ごろ、行く約束を取り付けて、彼女のお家の前に広がるあぜ道までは自転車で来られたのに、時間になるのを待っている間にどんどん疲れていく。
結局、きびすを返し、約束はドタキャンとなったのであった。

自転車を止め、チャイムを鳴らす。
ブザーの音とともにドアが開き、2階からこっちよー、というチンちゃんの声。
久しぶりに会う彼女は相変わらずひまわりの様な笑顔で、きちんと整理整頓されている暖かいお家の中に招き入れてくれた。
淹れてくれたジンジャーオレンジティーを飲みながら、久しぶりー、どうしていたの?という会話になった。
そこで私、
「実はもっと早く来たかったのに来られなかったのは、あまり体調がよくなかったの。本当のことを言うと、パニック障害になって、いろんなことが怖くなって、チンちゃんの家に来ることさえ出来なかったの」
と正直に打ち明けた。
チンちゃんは驚いて、
「まあ、そうだったの。何てこと、全く知らなかったわ。ごめんなさいね。もっと早く言ってくれていたら何かしてあげられたのに」
「ありがとう、チンちゃん。今はこれでもずいぶんよくなった方なの。家族や周りの信頼できる人には打ち明けられるようになったから。去年まではひたすら隠していたのね。それが余計に症状を悪化させることになって、本当に苦しかった。今はそのプレッシャーはないからそれだけでもずいぶんマシだよ」
「私の中国人の友達でもコロナ禍の不安でパニック障害になった人がいるのよ。だからその大変さ、わかるわ。本当につらかったでしょうね」
チンちゃん、お団子のように丸い晴れやかな顔を曇らせて言ってくれた。
ドイツの人さらっとした親切さとはまた違う、アジア的な親身になって感情移入してくれる熱意とでも言おうか、暖かみが感じられるのであった。

話しているうちに、段々とこのあいだ町のカフェで日本のお友達といる時に感じたような落ち着かない身体感覚が沸き上がって来た。足が冷たくなり、しびれ、頭がボーっとして体が固まっていくような感じ。これはちょっとヤバいかな。

前日の精神科医の先生との面談で、逃げ道を作っておく、無理をしないことが大切と言われたことを思い出した。
そうだ、彼女には何の秘密もない、自転車に乗れば、5分で家にたどり着ける。もともとちょっとだけという約束で立ち寄ったのだから、もうこのお茶を飲んだらおいとましよう。
私はカフェの二の舞を踏まないように心の中でそう決めて、何度も行こうとしたのだが、なぜかその度に会話が続いて、ズルズル引き延ばしているうちに、なんと不快な症状がだんだん治まって来た!収縮が緩んで、椅子に深く腰掛けられる感じ。そうなると、彼女は本当にいい人だし、私は中国や中国語に興味があるし、とお互い話は尽きず、気がついたら予定していたより時間をオーバーして話し込んでいた。
帰るときは、不快な症状はなく、やっと来られて本当によかったという爽やかな気分でおいとますることが出来た。
これもまた一つの成功体験。パニック障害の人は行動範囲が狭くなっているから、ちょっとずつ小さな成功体験を積み重ねて、行動範囲を広げていくことが大事とよく言われるのだが、身をもってそれを体感した。

帰ってあまり休む時間もないまま、次は市民講座でのベリーダンスの時間。
10回コースのうちの昨日は7回目。2回目と3回目は精神的にダウン期でお休みしたが、その後は今のところ続けて出られている!去年の秋、冬学期はコース中に気分が不安定になって心ここにあらずの回があったし、最後の方は吹雪の天候に見舞われるなど、半分ぐらいしか出席できなかった。それを思うと雲泥の差である。
今日起きた気持ちの変化としては、行く前から、気分が悪くなったら無理せず、ちょっと私マットの上に横になって見ていまーす、と言おうと思えたことかな。
最初は身も心もガチガチで、絶対に倒れてはいけない、パニックがやってきてはいけないという思いであったから、そのプレッシャーだけでもうヘトヘト。楽しいはずのダンスが重荷で余計に落ち込むことも何度もあった。
やはり場数を踏んで、先生にも正直に自分の症状を打ち明けて、それでも止めずに足を運んだから免疫が出来てきたのかな。
先生自体は結構アマチュアで、参加者の人達もすごく気が合うタイプじゃないけど、それでも恐れなくして定期的に何かのコースに参加出来ていること自体が今の私にとってはとても大きな成功体験。
こんなこと当たり前になって、もっともっと世間並みに普通の暮らしが出来るようになりたいという欲はあるが、ここ数年の苦しさを思えば、ま、今日はこれでいっか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?