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精神科医との面談

昨日は定期的に通っている精神科医の先生との面談の日だった。
前回の面談の時は、どうしようもなく不安定で、一人ではとても行けず、夫に車で送ってもらったのだが、今回は取りあえず自力で電車で行けた。

先生、いつも通り開口一番、
「それで、調子はいかがですか」
「はい、先生。今回はご報告したいことがたくさんあるんです。あり過ぎて時間が足りるかどうかわからないぐらいです。(笑)」
「ほう、それはそれは」
この先生の医院では、面談時間は約20分。カウンセリングと違って精神科医は症状を聞いて、必要とあらば薬を出すのが主な仕事なので長くは話せない。ちなみに心理カウンセリングはドイツの場合だいたい50分がスタンダードだ。

私は前回の面会から今まで5週間の間に起こった様々な嬉しい出来事について矢継ぎ早にしゃべり続けた。
あれから2回も家族で週末ブランチしにレストランに行けたこと。 
同じく2回、映画館に行けたこと。
約1時間電車に乗って友達の家に遊びに行って帰ってこられたこと。
勇気を出して地元のカルチャーセンターでのダンス教室に参加してみたら案に相違して楽しかったこと。
極めつけは先週末、何万という人でごった返す大都会でのフリーマーケットに足を運び、パニックが起きなかったこと。

どれも健康な人なら何が特別なのかわからない、と首をひねるような事ばかりだろう。以前の私だって決して理解できなかったに決まっている。
でもパニック障害になり、特にここ数年は体の収縮が強くて、カフェに入ることを考えただけで、いやちょっと外出することを考えただけで体に緊張が走り、頭の中で想像しただけで無理だ!となり諦めていただけに、上に書いたことは私にとって本当に奇跡のようであった。

逆にまだ難しいなと思ったのは、友達と外のカフェで会うこと、家に遊びに来てもらって長く滞在されることである。
日本のお友達二人と少し離れた町のカフェで会ったのだが、彼女たちを待っている間に段々落ち着かない気分になり、カフェに入って話すうちに、頭がボーっとしてきて、足がしびれ、寒気がしてきた。最初の1時間ぐらいはまだ大丈夫だったが、その後は段々心ここにあらずで、最後はきつくなってきて、「ごめんなさい、ちょっと今気分が悪くて。少しの間静かにしてもらってもいいかしら」と断らざるを得なかった。いつもお守りみたいに携帯していたバッチフラワーのレスキューグミを忘れてきてしまい、薬局で買おうと思っていたらその薬局が閉店して心が動転したということもあったかもしれない。
二人とも本当にいい人たちで、パニック障害のことも事前に話していて隠し事はなかったのに、どうにもこうにも疲れた。家に帰るバスの中、緊張がほぐれたのか爆睡してもう少しのところで乗り過ごすところだった。

もう一つのケース、お友達が家に来てくれた時もきつかった。
長く知っている日本のお友達で、家から1時間のところを家族で来てくれた。
到着した時点ではそれほど緊張していなかったのだが、1時間半過ぎるぐらいから、足がしびれたり、頭に靄がかかったようになり、というお決まりの症状が出始めた。
彼女のお家で二人きりで心置きなく日本語でしゃべれた時と違い、日本語のわからない旦那さんもいるし、子どもたちもシャイでお母さんの側をなかなか離れたがらないので、あちこちに気を使って疲れたというのもあるかもしれない。
結局合計で3時間ほどいたのだが、最後の方はもうフラフラで・・・。正直言って彼女たちがかえってくれた時は本当にほっとしたのだった。

先生曰く、
今度友達とカフェで会う時は、あらかじめ時間を最大で1時間と前もって決めておくなどして心理的ハードルを下げる、友達については、遠方から来てもらった人に短時間で帰ってもらうわけにはいかないので、もう少し安定してくるまでは様子を見る、ということにしてはどうか、と提案を受けた。そうね、それなら会うこと自体をあきらめなくてもいいものね。よし、そうしてみよう。

「先生、私ね、ダンスコースが始まるとき、講師の先生に前もって『私かくかくしかじかの症状があって時々パニックになるんです。気分が悪くなったら静かに教室を離れて休憩しますから、どうぞ心配しないでください』って言ったんです。隠すというのが私の場合一番悪くなることですから」
「なるほど、それで」
「そうしたら、なんと!先生が目を丸くして、『まあ、何てこと!私もよ。私もパニック障害持ちなのよ。あなたの気持ち本当によくわかるわ』と言ってくれたんです。おまけにクラスにもう一人、とてもやさしそうな女の人なんですけど、やはり自分もパニック障害にかかっていたと打ち明けてくれたんです」
「それは大きな発見でしたね。あなた知っていますか。統計によるとヨーロッパ全体でパニック障害、不安障害を持っていると答えた人は人口の15%にのぼるんですよ」穏やかな口調で説明する先生。
15%・・・。決して少なくない数字だ。
ドイツの場合、私の感触としては、カウンセリングやセラピーが発達しているせいか、比較的精神疾患についてカミングアウトしやすい土壌があるような気がする。日本のサイトを見ていると、私同様、自分がそういう症状を持っていることを周りに告白するまでものすごく葛藤したというケースが多く目についた。気持ちがわかるだけに心が痛む。

先生、「パニック障害を持つ多くの人に共通しているのだが、逃げ道がある、と思えることがすごく大切なんですね。あなたのダンスクラスだったら、気分が悪くなったらいつでも外に出られる、都会にいたら、何かあればすぐに電車に乗って家に帰れるとかね。そういう心理的保険があると、安心感があり、不思議とパニックにならずやり遂げられたりする。逆に逃げ道がない、何が何でも耐えてここにいなきゃいけないと思ったりすると、もうそれだけで気分が悪くなったりするんですよ」
まさにその通り!
「ですから、これからも体調に気を付けつつ、少しずつ自分の行動範囲を広げていくという感じでいいと思いますよ。何といっても今回これだけたくさんのことが出来たわけですから」
「はい、そうしてみます。どうもありがとうございました」

次回は2か月後という予約を取り付けて医院を後にした。
さて、次回までに何が起こるか。できれば嬉しい報告が増えるといいのだが。

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