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品質管理に感じるギャップ

プロダクト(製品)の企画なんかをしていると、特に品質面の話題でギャップを感じることが多くなった。近年のトレンドでタスクが細分化されたことにより、個人のスキルが単機能特化型に傾きがちに思う。確かに時流からすると、「オンリーワンに特化したスキルを磨く」ほうが市場価値が高いってのは、ある意味正しい。しかし、複雑化しつづけるプロダクト管理の観点からみると、プロフェッショナルとはなにか?を再考させられるシーンがある。ひとつの製品はいろいろな要素が重なり合って構成されていて、品質管理レベルが非常に高度になってきていることから、求められる課題解決も部分最適だけでなく、より総合的な相互関係の中で議論されるべきである。つまり単機能特化のスキルは市場価値が高いようでいて、プロフェッショナルの流儀に欠ける。

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例えば単に「かっこいいデザイン」をつくるだけでなく、製造工程上の問題を軽減するための施策があったり、壊れにくい構造をもった設計であったり、そこには目に見えないプロセスがあるはずだ。だからこそ、「プロ」デザイナーは構造設計上の制約を見越した上での「かっこいいデザイン」を捻出する。

そんなことわかってるよ。。。って?そう。みんなそんなことはわかってるんですよね。それでも、やっぱりギャップを感じるのはなぜだろう。ひょっとすると、品質についてギャップがあるのではなく、むしろ評価軸にギャップがあるのではないかと思い至った。つまり、90点以上をGood!と判定するひとと、100点でなければGood!と判定しないひとがいれば、話はかみ合わない。


一般的な感覚としての評価

そこで、少し評価について考えてみた。わたしたちは学生のころから評価されてきた。その時の評価基準っていうのは、だいたい図にするとおおよそこんな感覚としての評価感を持っている。

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Amazon.co.jp だって、感覚的に ☆ x 5段階評価だし

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これは勝手な想像だけど、恐らく経験則からなんとなく評価は5段階評価でいうところの、A評価を取るには80点以上。A+評価を取るには90点以上という感覚が染み付いてないだろうか?

評価軸はリスクによって変えるべき

品質管理で問題とされる評価レベルは単に5段階評価でまるめられたりはしない。あえて、5段階評価にするのであれば、こんな感じだろうか。

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加えて、ここでのポイントは、評価判定はより得点の高い軸で行われている、ということだけではない。A評価のポイントはリスクによって変わるという点が最も重要だ。不具合などが発生することによるリスクの大きさによって図られるべきだ。

発生したときのリスクが高いものほど評価軸はより厳しくしなければならない。どのくらいの品質だと、どのくらいの不具合発生率が予測されて、その不具合の解決にどくのらいの損失が予測されるのかをチーム内で共通認識を持つ必要がある。特にシステムで言えば、決済管理や個人情報の取扱など、1件として発生させてはいけないようなリスクをともなうものであれば、その評価は限りなく100点に近づける必要がある。

評価は乗算される

なぜ、評価軸をあげろと言ってるのか?その理由はいくつかある。その一つは評価は乗算される点にある。

例えば各パーツの担当がそれぞれすごい頑張って95点のパーツを製造しているとする。しかし、製品というのは様々なパーツが組み合わさってできている。ひとつの部品の評価が95点のものを5つ組み合わせたらどうだろう?95点のパーツを5個組み合わせたら平均して95点の製品になる!というのは大きな間違いだ。

95点の評価=作ったパーツの良品の割合と考えたらわかりやすい。すると、95%の良品を5つ組み合わせたときにその製品の総体が良品である確率は77%である。

0.95 x 0.95 x 0.95 x 0.95 x 0.95 = 0.77

A+評価のパーツの組み合わせはただのジャンクでしかない、ということがありえる。

品質評価のために必要な労力を視覚化すると…

これはあくまでイメージだけれど、各評価を取るために必要な労力だったりスキルを縦軸にしてグラフ化してみる。当然、A評価を取るには相応の労力や能力が必要になってくる。だいたいA評価に向かうほど右肩上がりの、緩やかなカーブを描くイメージを持ってないだろうか?

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でも実際には違う。100点満点を取ることというのは非常に難しい。品質管理をしていると、100点を取ることの難しさを思い知らされる。どれだけ入念にチェックしても、人間である以上ミス漏れは絶対に防げない。つまり100点に近づくほどにその努力は急激に大きく上向く。

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+1点の差を甘く見る習慣

95点を目標にした開発を行っているチームと話しているときに感じるギャップがこれだ。品質向上のために必要な努力に差異があるのだ。上述の通り品質は上がれば上がるほど、更に上を目指すのに必要な努力は格段に大きくなる。

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90点を91点にするのに必要な労力は、98点を99点にする努力とは桁違いに違うということ。これがわからないと、より高い品質を維持しているチームや人材を見下すことになる。

それでも不具合は起こる

どれだけチェック工程を増やそうが、どれだけコストをかけようが人間が関わる以上、ミス漏れは必ず発生する。品質管理に「絶対」は絶対にない。

だからこそ戦略的なリスク管理を

品質に完璧はありえない。もちろん完璧に近づけることは可能だ。しかし、次のグラフのようにそれには際限ない労力やコストが必要になる。まして発生する不具合は乗算されると思うとその制約はますます厳しくなる一方だ。

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冒頭の話に戻るが、そこで大事なのが完璧でないものを前提に設計する、という技術なのだ。365日24時間止まってはいけないシステムがあるとしたら、どうやっても絶対止まらないシステムを作るのか(そんなものは不可能だが)、止まってもいいように並列してシステムを稼働させておくなど、設計の段階で止まってもいいような構成要素を組み込んでおくことはできる。

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大事なのは一つのスキルに固執することなく、より大きな視点でプロジェクト全体を見渡せる俯瞰能力ではないかと思う。製品がより複雑になっていく時代において、全体を俯瞰した上で更によりよいデザインであったりスキルであったりの特性を創造できる人材がよりプロフェッショナルとして市場価値を上げていく時代が来ると思う。


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