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コーヒーのお話

さて本稿はコーヒー(珈琲, coffee)について書きたいと思う。そもそもコーヒーとはナニモノなのか。大人で飲んでいる人が多いが、何でなのだろうか。いや私も絶え間なく飲んでいるのだが、そもそもコーヒーの組成やその効果について考えたことはあまりなかった。そんなわけで、本稿はコーヒーの歴史やその組成、生理的な効果など、多岐にわたるコーヒー関係のことについて記述したい。本稿は全文無料で読むことができる。


1. コーヒーの基本事項

コーヒーとは、コーヒーノキ (Coffea)の種子を焙煎して砕いて得た粉末から、湯または水で成分を抽出した飲料の事である。種子はコーヒー豆(cofee beans)と呼ばれ、様々な種類のものが知られている。また焙煎とは油や水といった溶媒を使わずに食材を加熱乾燥させることを指す。コーヒーノキ(コーヒーの木)はエチオピアのアビシニア高原やコンゴ、西アフリカが原産地の植物で果実にカフェイン(caffein)を多く含む。詳細は後述するがこのカフェインに興奮作用や脂肪燃焼作用があると言われ、コーヒーは世界中で愛飲されるとともにその成分は医薬生物学者による研究対象にもなっている。
 ちなみにコーヒー(coffee)の語源は、アラビア語のqahwa(カフワ)から来たと言われている(カフェ(cafe)の由来もこの単語からである)。この単語は元々はワインを示していたが、類似した覚醒作用を有しているコーヒーに当てられるようになったという説がある。そしてその後、伝播に伴ってトルコ(kahve)、イタリア(caffè)を経由したのちヨーロッパから世界各地に広まった。日本語のコーヒーは江戸時代にもたらされたときのオランダ語の koffieに由来する。漢字の当て字である珈琲は江戸時代の蘭学者が19世紀に使用している。
 それでは次章から徐々に詳細に入っていくが、まず最初にコーヒーのおおまかな歴史について紹介したいと思う。

2. コーヒーの歴史

コーヒーの原産地はエチオピア(Ethiopia)であると言われる。コーヒーがいつから飲まれるようになったのかについて諸説あるが、有名な伝説では9世紀にヤギ飼いカルディ(Kaldi)が見つけたという話がある。

エチオピアの場所。アフリカの東に位置する。ケニアの北であり、ソマリアの隣(西)にあるというのを覚えておくとよい。
https://lh3.googleusercontent.com/VjuT5HYJKZv_qZAkHRwW-4BFX8InFnsxvBBNdMRzF8_NQHzKgnleGAfxqY_PBmVmjkUT-l5Kyb6_4eDk4vaLJRBJqboly1Ohk7uR71OTBgLrfCr5J0_53YC6gXKJQmH_QvtxjlAd

9世紀のエチオピアで、ヤギ飼いの少年カルディが、ヤギが興奮して飛び跳ねることに気づいて修道僧に相談したところ、山腹の木に実る赤い実が原因と判り、その後修道院の夜業で眠気覚ましに利用されるようになった。

『コーヒー論:その特質と効用』(1671年)

コーヒーの起源や使われ方などはどうにも歴史的に交錯している話が多く、実際のことは不明な点ばかりである。上のカルディの話も後の時代につくられた作り話ではないかとも言われる。ちなみにカルディは今は日本のコーヒー販売店の名前で知られている。

また伝承として古代ギリシャや古代ローマでコーヒーは既に飲まれ、最初にコーヒーを淹れたのはソロモン王だと後の時代で主張されたこともあった。いずれも実際の証拠はない。ただし、それでもエチオピアがコーヒーの原産地の一つであることだけは間違がなく、そして9世紀前にはアラビア半島に伝わって行ったのことも間違いが無い。コーヒー文化は主にまずイスラム世界で発展していったのである。15世紀にはすでにコーヒーはメッカで知られれるようになっていた。また15世紀にはイエメンのスーフィズム(イスラム教の一派)の修道院で、祈りの際の集中力を高めるためにコーヒーが使われていたと言われる。 コーヒーはその後16世紀初頭にレバント地方(東部地中海沿岸)に広まり、オスマン帝国(トルコを中心とした巨大イスラム国家(1299年-1922年)とマムルーク朝(エジプトを中心としていたイスラム王朝(1250年 - 1517年))の社会でハラール(Halal, イスラム法で合法)かどうかという論争を引き起こしている。

レバント地方。今ではシリア、レバノン、ヨルダン、イスラエルおよびパレスチナ国を含む地域(歴史的シリア)を指す。https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/aa/The_Levant_3.png/800px-The_Levant_3.png


コーヒー商人フィリップ・シルベストル・デュフォーが指摘したコーヒーに関する最も初期の言及は、西暦10世紀のペルシャ人医師ムハンマド・イブン・ザカリヤ・アル・ラージ(西洋ではラーゼスとして知られる)の著作の中でバンチュム(コーヒー豆)に言及したものだと言われている。コーヒーの木と焙煎したコーヒー果実からの飲料の調製に関するより明確な情報は、15 世紀後半に登場してくる。コーヒーに関する初期の著述家の中で最も重要な人物の一人は、アブドゥルカディル・アルジャズィーリである。彼は1587年にコーヒーの歴史と法的論争を辿った著書『コーヒーの法と秩序 (Umdat al Safwa fi hill al-qahwa, عمدة الصفوة في حل القهوة)』を編纂した。アラビア・フェリクス(現在のイエメン)から北はメッカやメディナ、さらにカイロ、ダマスカス、バグダッド、コンスタンティノープルといった大都市にコーヒーが広まった経緯を彼の書は辿っている。彼は、イスラム法学者であるシェイク・ジャマル・アルディーン・アル・ダバニ(1470年没)がコーヒーの使用を初めて取り入れた(1454年頃)と報告している。ちなみに1587年とは日本では本能寺の変(1582年)より後で、豊臣秀吉が天下統一をする(1590年)より少し前くらいである。1454年は応仁の乱(1467年)の少し前といった状況になる。ちなみにコーヒーの取引においてはイエメンのMocha(モカ)が港として歴史的にも大変重要であった。そしてモカコーヒーの由来であることは言うまでもない。

モカ(イエメン)(1996年)
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ヨーロッパにコーヒーが辿り着いたのは16世紀に入ってからである。ハンガリー王国軍とオスマン帝国軍によるモハーチの戦い(1526年)により、最初にもたらされたと言われる(この戦争はオスマン帝国が勝利し、ハンガリー王国は三分割されている)。一方で、地中海貿易を介したルートでイタリアに到達している。そののち以下の図のようにインドなど世界中に伝番していくように至った。そしてブラジルに伝わり、19世紀中ごろから長くブラジルが世界一のコーヒー産地になるのである。

コーヒーの世界中への伝番。
まずエチオピアからイエメンに伝わりそこでイスラム世界でコーヒーは広く飲まれるようになり、その後、ヨーロッパやインドに伝わって行った。ブラジルに伝わって行ったのは18世紀に入ってからである。https://media.npr.org/assets/img/2013/04/25/coffemap_archive.jpg

ちなみにアメリカにコーヒーがもたらされたのは独立前の17世紀にオランダからであると言われている。初期はアメリカ人は主に紅茶を飲んでいたが、ボストン茶会事件や、独立後の米英戦争を経て徐々にコーヒーが飲まれてるように変わっていった。
 アジア方面においてはインドにはイスラム教の聖者とされるババ・ブダン(Baba Budan)が17世紀にイエメンから持ち込んだと言われる。またインドネシアのジャワ(Java)はオランダ人がやはり17世紀に持ち込み、ここでコーヒー栽培が大いになされるようになり、有数の生産地になっている。ジャワコーヒーはあまりにも有名であり、ジャワと聞いたらコーヒーをそのまま思い浮かべる人々も世界中に多い。 
 日本には18世紀にオランダ人が長崎・出島にコーヒーを持ち込んだと言われる。江戸幕府が敷いていた鎖国政策のため民衆にコーヒーが行き渡らず、伝来から普及までに長い時間を要している。蘭学者がコーヒーを飲んだ感想なども記述して残しているが、結局のところ、日本の一般庶民たちに普及したのは明治後期や大正に時代になってからだったという。興味深い事に日本人科学者のSatori Kato博士がインスタントコーヒーの発明にアメリカで貢献したり(1901年)、コーヒー牛乳を海外とは独立に独自に発明していた(1917年)。
 現在の世界におけるコーヒー生産量および消費量は下の図の通りとなる。

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言うまでもなくコーヒーは今や世界中で飲まれているが、一番飲まれているのはEUであり、アメリカではない。そして日本がかなり多い方で、中国やインドがランキングには現時点では載っていないことがわかる。
 ちなみにカフェ(コーヒーショップ、コーヒーハウス)は最初はシリアのダマスカスで生まれたとも言われているが、その後は5世紀にアラビア半島のメッカ(サウジアラビア)にも現れ、16世紀にはオスマン帝国の首都イスタンブール(トルコ)に、そしてバグダッド(イラク)にも広がっていった。17世紀にはヨーロッパにもカフェは作られるに至っている。

オスマン帝国時代のカフェ
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イギリスにおけるカフェ(18世紀ごろ)
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アメリカにおいても18世紀にコーヒーハウスが作られた。ただし現在のアメリカコーヒーハウスにおいて重要なのはエスプレッソを提供するイタリアコーヒーハウスをつくりだしたイタリア系移民である。そして全米においてシアトル(Seattle)はコーヒー文化の街として栄え、世界で最も有名なコーヒーチェーンであるスターバックス(Sarbucks)がここで誕生するのである。

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さてコーヒー史についておおまかに紹介してみたが、そろそろ生物学的なトピックに移っていきたい。

3. コーヒーノキ

本稿の最初の方で記述しているが、コーヒーはコーヒーノキ(Coffea)の果実からとれる種子(コーヒー豆)から作られる。このコーヒーノキとはどういう植物なのかについて本章では少し紹介したい。
 コーヒーノキはアカネ科(Rubiaceae)のコーヒーノキ属に属する植物の総称で、主に栽培種(アラビカコーヒーノキ(Coffea arabica)とロブスタコーヒーノキ(Coffea canephora)など)を指す。そしてアラビカは全世界のコーヒー生産の6-8割、ロブスタは2-4割を占めるとも言われる。植えてから3年から5年で白い花を咲かせるようにある。ちなみにアラビカからティピカ、ブルーマウンテン、モカ、ブルボン種などが生まれている。アラビカは染色体が44本で、ロブスタは染色体が22本からなっている。

コーヒーノキの花
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そしてその後50年から60年に渡り、果実(コーヒーチェリー)を付ける。通常、果実は赤または紫色であるが、黄色の果実のものもある(アマレロブルボン)。果実が成熟するまでに9か月程度かかり、果肉は熟すと甘く食べることもできるが、量が僅かなために、あまり商業利用されていない。 

コーヒーノキの果実
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生育には熱帯地方のサバナ気候や熱帯モンスーン気候のような雨季と乾季がある気候、または熱帯雨林気候の山岳地帯など昼夜で寒暖差が大きいような気候が適している。多雨も好まれる。一方で冬霜など寒さには弱い。すなわち日本はコーヒーノキの生育にはあまり向いていない。ただし沖縄などでは生育されている。

 コーヒーノキは全世界ではおよそ1000万ヘクタールの土地で150億本ほど栽培されていると見積もられている。最も栽培されているのは最大のコーヒー生産量を誇るブラジルである。
 ちなみにコーヒーノキが属するアカネ科は被子植物であり、約600属10,000種以上を含む。日本ではヤエヤマアオキやクチナシが知られる。前者はノニジュースの原料になり、後者は着色料として有名である。
 コーヒーノキについては大方このようなところで、次はコーヒー豆の方の組成を見ていくことにする。

4. コーヒー豆

まずコーヒー豆はマメ科の豆ではなく慣習的にコーヒーノキの種子を伝統的にそのように呼んでいるということに留意する必要がある。コーヒー豆はその加工された状態によって生豆と焙煎豆に大別される。豆の組成を以下に示す。

https://coffee.ajca.or.jp/webmagazine/library/facts/

興味深い成分としてはカフェインとポリフェノールが挙がるが、実際の含まれている割合は1%程度であることがわかる。それではこれらのもつ生物学的作用についてそれぞれ紹介していこう。

5. カフェイン

カフェイン(caffeine)とは、以下の構造を持つ分子量194の化合物である。

カフェインとアデノシンの構造

カフェインはアルカロイド(alkaloid)の一種である。アルカロイドとは窒素原子を含み、多くの場合塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称のことを指す。カフェインは長く研究されており、そのメカニズムの全容は不明な部分もあるが(後述)、基本的にはアデノシン受容体(P1 受容体)に結合し拮抗的な作用によって覚醒作用、解熱鎮痛作用、強心作用、利尿作用を示すことが判明している。アデノシン受容体とは、細胞の表面に発現しているタンパク質であり、我々のRNAを作る材料であるアデノシンと結合することで作動し、様々な生体機能を調整する。例えばストレスによりアデノシンが作られ、それがアデノシン受容体に結合することによりリラックスさせる効果がある。しかしカフェインはアデノシンと構造が似ているためにアデノシンと結合するところまではいくが、アデノシンと同じように作動させることが出来ない。こういうのを上述したが拮抗的(antagonistic)な作用というが、以下の模式図が優れたメカニズム説明になっている。

カフェインの作用
https://takada-michinari.com/wp-content/uploads/2021/11/%E3%82%AB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%B3-1024x1024.jpeg

ちなみにカフェインはほかにも色々なメカニズムが知られている。例えば、カフェインは細胞の増殖を抑制する効果もあり、細胞分裂に影響を与えうることがわかっている。またカフェイン存在下では細胞におけるDNA損傷を誘導する薬剤の効き目を強めてしまうという効果も知られている。これらはアデノシン受容体に結合するのとは全く異なるメカニズムであると考えられている。カフェインはコーヒーにおける脂肪燃焼作用の一端を担っているとも考えられているが、こちらもあまり分かっていない。カフェインは長年研究されており様々な直接作用する対象もいくつか判明しつつあるが、それでも未だに不明な部分が残るアルカロイドである。  
 とはいえ健康における影響についてはそれなりに一定の結論も出されており、米国名門病院であるMayo Clinicによると、健康な成人の大半に対しては1 日のカフェイン摂取量は最大 400 ミリグラム (mg) までが安全だと考えられており、これは淹れたてのコーヒー 4 杯、コーラ 10 缶、またはエナジードリンク 2 杯に含まれるカフェイン量とほぼ同じくらいであるそうである。

コーヒーの飲み過ぎは良くないということであるので、読者諸氏もそして私も留意した方が良いと思われる。またカフェインは紅茶や緑茶にも含まれている。コーヒーよりは量が少ないが飲み過ぎて大丈夫かどうかはよく考えておく必要はある。
 カフェインの説明はこのあたりまでとして、次にポリフェノールの説明をしてそのあたりで本稿は終えるところとなる。

6. ポリフェノール

コーヒーの含有物としてはカフェインの他にポリフェノール(polyphfenol)も興味深い化合物と言える。読者諸氏もポリフェノールという単語自体は聞いたことがあるのではないかと思われる。赤ワインに豊富に含まれており、動脈硬化や認知症の予防になり、 血圧も下げると信じられている。このポリフェノールはどういうものかを本章では紹介する。
 ポリフェノールとは複数のフェノール性ヒドロキシル基(-OH)を分子内に持つ植物成分の総称である。フェノール性とは、ベンゼン環に-OHがついている部分のことで、これが複数あるということになる。

レスベラトロール(赤ワインに含まれているが、コーヒーには含まれていないので本稿ではそれほど重要ではない)

例えば上のレスベラトール(Resveratrol) はコーヒーではなく赤ワインに含まれるポリフェノールであるが、線虫とマウスの実験で寿命を延ばすことや、実際に寿命をつかさどるタンパク質であるSirt1を活性化させることも分かるなど注目されている。ただし実際にヒトの寿命を本当に伸ばすような有用な効果を示す証拠は十分には得られておらず、まだまださらなる検証が待たれる状態であることには留意が必要である。いずれにせよ生物学的には面白い活性を有していることには変わりがない。

一方で、コーヒーに含まれるのはクロロゲン酸(chlorogenic acid)と呼ばれるポリフェノールである。

クロロゲン酸。コーヒーの生豆から発見されている。

クロロゲン酸は野菜類(ナス、ジャガイモなど)、果実類(モモ、リンゴなど)にも存在し、人類が昔から摂取してきた食品に幅広く含まれているが、コーヒーの場合は特に生豆に含まれている。血糖値を下げる働きなど様々な有用な作用があると考えられている。ただしこちらも上記のレスベラトールと同様に十分なヒトにおける証拠が得られているわけではない。さらなる研究が待たれる状況ではある。以下の文献でも"potential(潜在的)"という慎重な表現が使われている。グリーンコーヒー(生豆によるコーヒー、クロロゲン酸が豊富)の飲み過ぎも気を付けるべきとされている。


7. おわりに

実は本稿は書き始めはかなり前だったのであるが、なかなかコーヒーの歴史自体が文献を調べると話や流れが錯綜しすぎており、まとめるに大変苦労した。コーヒーが生み出される上で重要であったのがエチオピアやイエメンであり、元々はイスラム世界で飲むのが一般的な飲み物であったことはコーヒー史においては重要である。その後、西洋人たちがジャワやブラジルに持ち込んで世界的な生産地とし、今では欧米で一番飲まれている。人類が歴史的にコーヒーに惹かれるのは、結局のところ分子レベルで見てみると一つにはカフェインが多く含まれていることによるアデノシン受容体に行きつく。カフェインのアデノシン受容体への拮抗作用によって眠気が抑えられたり興奮作用などを得られることが大きい。エチオピアのヤギ飼いカルディの昔話は作り話かもしれないが、英語文献などでも容易にみつかるもので、似たような出来事自体は1000年以上前に既にあったのであろうと思われれる。
 コーヒーのメカニズムを調べていると、連想されるのがタバコの作用である。タバコ成分であるニコチンのヒトへの作用については既に以下のnoteにまとめているが、少しだけ取り上げてみると、こちらはα4β2ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に結合して作用する。

要はカフェインとニコチンは違う受容体に結合するために、作用やその結果は色々と異なる。ただしいずれも脳の機能に影響があるタンパク質の機能を変えるものであるという点では同じである。人類はそういった脳の働きを変動させてしまう食物や薬草、合成化合物などの影響は大変受けやすく、経済的な事や政治・軍事史的にも大きい事件が起きる場合もある(アヘン戦争など)。そして、種類によって有用性や有害性も異なる。タバコは普通に害が大きいが、コーヒーはそこまでではない。ただしカフェインの量は大人でも400 mg (コーヒー4杯まで)までに抑えることが健康的であるには必要であることに留意がいる(ちなみにコーヒーはカップのサイズにもよるので3杯までという文献もある)。またコーヒーにはクロロゲン酸が特に生豆の場合多く含まれているが、こちらは実際にはまだ健康に確実に良いというエビデンスがそろっているわけではない(赤ワインに含まれるレスベラトールも同じ)。体に良さそうな研究データは細胞培養系や動物実験からは出ているが、それならばヒトでも確実に反映されるかというとそうでもないことは読者も知っておくのが良いだろう。
 そんなところまで書いたところでコーヒーを飲みたくなってきたので本稿はここまでとしようと思う。割と長い原稿であったがここまで読んだ読者には御礼を申し上げる。


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